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183話

「カフェ、でいいの? もっと、高いところとか。お姉ちゃんからお金、もらってるし」


 だから遠慮しないで、と念を押してきた。ベルリンを一望できるテレビ塔のレストラン。そこにしよう。行きたいところある? と聞いてきたわりに勝手に決めようとする。


「……本当にカフェで、いいの? もっと、美味しいものとか」


 いや、カフェはカフェで美味しいけど。ケーキにドーナツ。その他スイーツ。店によって味も違うし、初めてのものも。


 色々と味わってみて「たしかに……そうだね」と少女はひとりでずっと喋っている。


 まったりとした時間が欲しいサーシャはむしろ、カフェがいいと思った。話をしたい。これまでのこと。趣味。好きな音楽。読む本。食べ物。なんでもいい。


 初めての感情、なのかな? 知りたい。キミのことが。


「サーシャって髪、キレイだよね。どんなシャンプーとか、使ってるの」


「私は、コーヒー飲めなくて。お砂糖とミルク。たっぷり入れなきゃ。それでも苦いから、カフェオレ」


「そのケーキ美味しそう。少し、ちょうだい。サーシャもこっちの。食べて」


「ふーん、それであの子とはカフェに行っただけなんだ。ま、そんなもんよね」


 次の日。ホテルのベッドに横たわるサーシャに向かい、彼女の姉は吐き捨てるように言い放ったあと、タバコに火をつけた。体に悪いとわかっていてもやめられない。どうせ数年、数十年の寿命の違い。それなら今の幸せを取る。


 赤く淫靡な間接照明。数時間この中に監禁されたら、頭がおかしくなりそうなほど、異質な空間。赤系統の色は色彩心理学によると、他の系統の色に比べて三倍は性欲が高まるらしい。そのせいか、いつもより姉の欲望の枷が外れてしまっていた。


 そんな危険な灯りのもと、何度も何度も弄ばれたサーシャに意識はほぼない。様々な体液で汚れたシーツには、血液も付着している。鼻血や吐血などにより、口の中に鉄の味がした。


「聞いてる?」


 聞いてはいる。だが力が入らない。そのまま眠ってしまいそうなほど体は疲弊しているが、痛みで引き起こされる。


 姉は自分で妹を差し向けたわけだが、昨日の感想を聞いていたら、見たことないくらいにサーシャが笑顔で話すので、それが気に入らなかった。そんなの、自分に見せてくれたことはないから。嫉妬、なのかな? と冷たく笑う。


「なんで? 好きなの?」


 会って話しただけなのに? カフェでコーヒーを飲んだだけで? 何度も何度も体を重ねた私より? 考えたらまた欲望が渦巻いてきた。ぐったりとしたサーシャの髪を掴み、舌を引き出す。そして口移しで飲ませる酒は『ハプスブルグ アブサンレッドラベル』。アルコール度数八五度という、世界屈指の強さ。

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