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182話

 その心の『隙間』。それを見極めて寄り添えば、自分はこうして今後も生きていける。そして『呼吸』。これを崩してしまえば、その『隙間』が生まれ、相手をコントロールできる。自分はその瞬間を逃しはしない。だから愛される。愛してもらえる。まるでゲームだ。


 ブランドものの服、コスメや香水を買ってもらい、高級なショコラを「ここからここまで」。自分の体に価値がある。愛がもらえる。あの時、施設なんて入らないで正解だった。世界は楽しい。


 そんなある日、いつものように指定された場所へ。噴水のある公園。そこの縁に腰掛けて待つ。相変わらず曇りで天気が悪い。少し肌寒さのある、夏の終わり。昼過ぎ。


 するとそこには、今まで自分を買ってくれていたような、派手な出立の女性ではなく、とても文学的というか、控えめな女性。黒のジャンパースカートや白のブラウス。化粧っ気のない顔に眼鏡。素朴、というのが第一印象。歩行に障害があるようで、杖を突いている。


「あの、はじめ……まして」


 喋り方も舌足らず。今までにはいないタイプだったこともあり、サーシャは少しだけ驚いた。買う、とか、そういうものとは対極にいそうなイメージだったから。年齢もそんなに変わらない。聞いたところによると、一番お金をくれる常連の人の妹だそう。悪いけど、似ても似つかない。


 どうやら彼女は学校に行っていないらしく。とは言ってもサーシャのような理由ではなく、体のこと。ドイツでは親は子に『就学させる義務』があり、怠ると罰則が与えられるし、家に警察が来る。


 そこで白羽の矢が立ったのがサーシャ。年齢も近く。なにか息抜きになれば、とのこと。とはいえ実際に学校に一緒に行けるわけではない。なにをすればいいのだろう。とりあえずホテルに連れて行く。


「ホテル……体調でも悪い、の?」


 建物の前まで来て、真っ直ぐな瞳でサーシャは見つめられてしまった。あとから言われたことだが、サーシャのしていることをなにも知らない。ただ、姉から年齢の近い友達を紹介された、ということだけだったらしい。言われるがままに来ただけ。


「おこづかい、あげるから、遊んできなって。サーシャは、どこか、行きたいところある?」


 不登校、というからには引っ込み思案、とか勝手に想像していたが、そんなことは彼女には全く当てはまらず。明るく、初対面の相手であってもズケズケと物怖じしない。気持ちいいくらいに意見をはっきりと言う。


 行きたい場所、なんて聞かれたのはサーシャは久しぶりだった。いつも誰かの家、ホテル、廃屋、公園。相手のしたい場所でしたいことをされることが大半だったから。となると、彼女は足が悪いから、そんなに歩き回らず、ゆったりと会話できる場所。

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