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172話

「なにが言いたい?」


 サッカーの知識が増えるのはいいこと。だが流石にシシーといえど、元ドイツ国内王者が相手なら集中してチェスに取り組みたい。この老人とはそういう関係なだけ。一緒にスタジアム観戦やテレビ観戦することなどありえない。ゆえに。無駄話と切り捨てる。


 そしてようやくここに帰還。マティアスの言いたかったこと。


「どんなものにも国民性がでるということ。僕の肌感覚だけど、ドイツのチェスは攻めっ気が強い人が多いね。押し切るパワーチェス」


 自分のやりたいことを押し付ける。多少の流れの悪さなど、相手にミスをさせればどうということはない。圧力をかけることで強引に引き摺り込む力。


 しかしそれには疑問を持つシシー。そういった考えもなくはないが、どちらかというと。


「俺は守備的だと自覚しているし、マクシミリアンさんはのらりくらりと隙を窺うタイプだ。当てはまらない」


 元女性最強チェスプレーヤー、マクシミリアン・クラインヘルン。齢八〇を過ぎ、全盛期を超えてはいるがまだまだ若い者に譲る気はない豪胆な人物。『狙撃手』の名の通り、いつの間にか負けている、打ち込まれている。


「ま、あの人は妖怪だから。ノーカウント」


 どんなことにも例外はいる。あれはドラキュラとか魔女とかと同じ扱いで、とあっけらかんとマティアスはカテゴリ分け。


「……」


 言葉に詰まるシシーだが、言いたいことはわかる。言動、風貌、実力。どれをとっても他のこの世の八〇には到達できない境地にいる。あれはそういう生き物。人類の突然変異。


 マクシミリアン、の話を出したところで、マティアスは現役時代にボコボコにされた記憶が蘇る。自爆に近い。


「……き、聞いてるよ。ここ何日か遊んでるって。引かれ合うのかね、そういう者同士で」


 絶対に自分は挟まりたくない空間。考えるだけで寿命が縮む。


 だが相手が相手。冷静にシシーは自身の現在地を知っている。


「さぁな。俺が遊んでもらっているだけだ。まだまだ及ばない」


 代名詞でもあるディスカバードアタック。気づいたら銃口がこちらに。逃げ場のないチェック。思い出しただけで冷や汗が伝う。真似しようとしてできるものだろうか。


 とはいえ、マティアスはマクシミリアンから連絡が一方的にくるわけで。話には聞いている。シシーのほうが勝ち越していることを。ま、いっか。


「で、話戻すけど、ドイツ人は圧倒的にガンガンくる人のほうが多いでしょ? 分母に対する割合の話」


 子供の頃の教育。政治。その他諸々が複雑に絡み合って形成される人格。ドイツという国では攻撃的なチェスが好まれている。もちろん全ての人がそうではないが、なりやすい国民性が出来上がっているのだ。

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