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170話

「人間とAIの最大の違いはなんだと思う?」


 マスターこと、マティアス・トラップが二七手目を熟考しながら目の前の少女に問いかける。最近は手が止まることが増えた。それはつまり、相手の実力が上がってきていることを示す。自身は元ドイツ国内のチェスのチャンピオン。全盛期とはいかないまでも、まだまだ現役。若い者に負けるつもりはない。


 欧米では、公園などのテーブルにマス目がついており、チェスが指せるようになっているところが数多くある。夜中になると流石にいないが、早朝や昼間などでは駒やチェスクロックを持ち込み、賭けをしながら楽しんでいる者は多い。


 冬であれば分厚いコートを着込んで対戦相手を待つ人も。コーヒー片手に老若男女が興じている姿を見かける。その他、石畳にチェス盤が設置されており、四〇センチほどの高さにまで巨大化した駒を実際に動かして遊ぶ子供達も。


 そんな自然に囲まれ、芝生の上ではピクニックをする者達もいる中、強者が二人。イスに座り罠を掛け合う。時間は昼過ぎ。観光客や地元民の憩いの場である公園で。


 先を読みながら相手を罠に、毒にかけることを目的とした少女、シシー・リーフェンシュタールは鋭く上目で返す。


「なんだ突然。読めている手数が違う。それも圧倒的に」


 もはや人間が機械に勝つなど不可能に近いレベルまできている。それは知っている。世界最高の指し手であっても、それは変わらない。算出される、最善手をなぞることはできない。もし八割同じ手が選べるのであれば、その人物は神を名乗っていい。


 教科書に載せておきたいほどの完璧な答えだが、マティアスはちょっとだけ不服。


「それもあるけど、もっと簡単に。シンプルに」


 数億手先まで読み、一手を選択。そこにあるのは冷徹な勝利への道。


 これ以上ないほどに簡略化したものだと思っているシシーだが、他の答えも探ってみる。


「……学習能力?」


「それもそうだけど、もっと近い。先のことじゃなく、今」


 対局を繰り返すごとにアップデートされ、機械同士で際限なく登り詰めていく。だが、それもマティアスの答えと異なっている。


 ならば、とこれでシシーの最後の解答。


「……大駒を捨てる?」


 違ったらもう知らん。知ったところでどうしようもない。


 だが、欲しかったものが手に入り、マティアスは満足。


「その通り。AIは勝つためならクイーンだろうがビショップだろうが、迷いなく感情なくあっさりと捨てることができる。人間はどうしたって、まずそういった駒をできるだけ生かそうとする。ゆえに、結果は一緒でも手順が違う」


 人間に読み切れるのはせいぜい数十手。ゆえに、詰み切れるかわからない時は、強い駒は残しておく傾向に当然ある。だが、AIともなると、最短距離で勝利に到達する。ゆえにそれらを惜しみなく切ってくる。勝利を手にするためなら安い。目的が勝利なのだから。

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