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169話

 暗い室内。床には大量の棋譜が書かれた紙が散乱し、足の踏み場もないほどに埋もれている。灯りといえば、三面ある机に上のパソコンのみ。男はキーボードをどけて、チェスの盤上で駒を動かす。寝巻きのようなダルダルの服で、リラックス最優先。


「……んで、◇ポーンa4。ここだね、ここで降参してもよかったかもね、この少年は」


 並べているのは、ドイツで行われている非公式な大会の、二回戦のとある一局。推しているギフトビーネ、ではなく、前回その彼女に負けた相手がなぜか、彼女の代わりに指している。なぜ? よくわからないが、それで成立しているあたり、この大会は面白い。


 初戦、ほぼ全ての対局が自分の思う通りにいっている中、彼女の指し方だけは少しだけではあるが、読むことができなかった。そこから目をつけてみたが、色々とこのプレーヤーには驚かされる。しかし、彼女ではないとはいえ、この二回戦の棋譜は見事。


「ポーンだけでこの制圧力。素晴らしい。この少年もまぁまぁだが、相手が悪かったね」


 ギフトビーネとは一度対局してみたい、とは思っていたが、偽物もなかなか。ドイツか。行く予定ないんだよなぁ。


「来週はどこだっけ、えーと……フランス。パリの大会の招待か。惜しい、隣だ」


 壁にかけたカレンダーを見ながら、予定を確認。とはいえ、言語もわからない土地で、ひとりでドイツまで出歩くのは少し抵抗がある。しょうがない、パリで観光でもしよう。フランス語もわからないけど。息抜きも必要だ。


「いつか、どこかで勝負してみたいもんだね」


 ひとりのファンとして。彼女とはどこかで。仮面の下の素顔も是非。


「んー、テンション上がってきたぁッ!」


 そう叫び、パリの美味しいカフェやレストラン、お土産なんかをネットで検索する。


「パリ、パリ、パリー」


 ロシア人、スタニスラフ・クドリャショフ。現世界王者。FIDEレーティング……二八六〇。

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