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166話

 まだ気は抜けない。サーシャもそれに応えるために、最後まで汚く、巧妙に。相手のナイトを封じる動き。相手側の思考に立つ。ならばこれ。◇ビショップe4。じわじわと追い詰めていく。


「いいね。だがもう見えている。あと数手だ。ここからは怖いよ」


 そこから先は◆ナイトd7、◇ビショップe3、◆ナイトf5、◇ビショップf5、◆ポーンf5。そして。


「◇クイーンh5。チェックだ。最後まで足掻け」


 斜めからキングを狙うクイーン。もちろん前にしか逃げることはできない。


「……まだ、まだチェックメイトじゃない……!」


 ◆キングe7。まだ、ドローには持ち込めるかもしれない。かなり厳しいが、もし持ち込めたら、次こそは今回の学習を活かして、上手く駆け引きすれば——。そんなコンラートの願いを無惨にも引きちぎる、次なる一手。


「ダメだよ。これで終わりだ」


 最後の仕上げにかかるサーシャは◇ポーンg6。一見、クイーンの斜めの道を塞いでしまう、悪手にも見える。が、これこそが最善手。


「……?」


 だが、コンラートには理解の外。なんだ、なぜクイーンを殺す? わざわざここまで攻め込んでおいて——


 しかし、冷静に盤を見て強く拳を握る。


「……そういうことか。クイーンは囮。まさか、最強の駒をそんな風に使うとは」


 もう笑うしかない。なにもさせてもらえなかった。ただ、美しい。完成された棋譜は、フルトヴェングラーの指揮するオーケストラ、ミケランジェロの『最後の審判』、アインシュタインの『相対性理論』にヒケをとらない輝きを放つ。


「相手のキングをテイクできるなら、なんでもいいからね。見せ駒として、意識から外させてもらったよ」


 動いたことで空いたg5。そこに◇ビショップを持っていけば、スキュアが完成する。スキュア、つまり串刺し。チェックのかかっているはキング逃げるしかない。だが、逃げれば奥のクイーンがテイクされる。


「……まだ、最後までやります」


 評価値は今、いくつくらいだろうか。コンラートも、勝ちはないのはわかっている。ドローも無理だ。だが、それでもここを指し切ることが、次に繋がる。今は最後まで、自分の考える最善手を。◆ポーンg6。


「強くなるね、キミは。まぁ、僕が偉そうに言えることじゃないけど」


 だが、ゆえに今のシシーとやるには危険すぎる、とサーシャは判断。心を折られかねない。ま、知ったことじゃないけど。◇クイーンg6。

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