表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/335

162話

 いい空気を纏っている、とマクシミリアンは感じた。グランドマスターや過去の世界王者と同じような、チェスに没入している獣のような。


「なら、チェス盤を取って来てくれる? 受けてあげるから」


 善は急げ。彼女のグラスから、欲望というワインがこぼれ落ちる前に。だが。


「その必要はありません。ブラインド、でやりましょう」


 まさかの脳内での決戦。あえて自分に不利になる道をシシーは選ぶ。いや、不利ではなく、楽しくなるための険しい獣道。


 それを聞いたマクシミリアンの眉が寄る。


「あらあら。あたしに有利じゃないの。いいの?」


 もう隠そうともしない、優等生の仮面の下。それは自身の血を、数十年前の第一線で戦っている時のものに戻すのに充分だった。吐くまで考え、指し、熱を出しながらも考え、指していた頃。輝かしい青春の日々。


「えぇ、ぜひ。最強を味わってみたくて。こちらも、負けたら死ぬ、という決死の覚悟でやらせてもらいます」


 屈託のないシシーの笑顔だが、内側からは欲が滲み出す。賭け事でギリギリの緊張感を得ていた頃とは違い、強い人物とチェスをしたいという欲。本来なら危険な賭けもしたいところだが、マスターと約束してしまった以上、破るわけにもいかない。普通の対局。


 なにやら危険な語が出てきたところで、マクシミリアンが人生観を伝授する。


「チェスに負けても死なないよ。けど、負けたら大声で叫んだり、胃の内容物全部吐き出したり、家に帰るまでの道を忘れたり。そこまでやっとプロのチェスプレーヤーだ」


 全部吐いたことはあったな……と昔を鑑みつつ、世界を制した人物の言葉をシシーは心に刻む。


「プロになるつもりはないですけど、覚えておきます。さぁ、やりましょうか」


 お喋りはここまで。ここからは、ただチェスで遊ぶ。大会を捨てることになったとしても、選ばせてもらったんだから。とことん今日は。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ