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161話

「こんにちは、フラウ・マクシミリアン」


 時刻は一三時一〇分。穏やかな陽気の土曜日。ベルリンの街は人でごった返す。観光客、日常的に出かけるのが好きな市民、その他サラリーマンなど、多種多様に賑わいを見せる。


 そんな中、マクシミリアン・クラインヘルンは、優雅に過ごす昼下がりに声をかけられた。昔の栄光を知る彼女のファン、ではなく、朗らかではあるが敵意を持った人物。自身を喰らいつくそう、そんな気迫も感じる。目が見えないぶん、なにかそれ以外のものを感じる。


 場所はお馴染みのカフェテラス。パラソルもついていて、日差しを気にせずベルリンの街並みを眺めることができる。ベルリンを含むヨーロッパの多くは、固い地盤の上に成り立っているため、地震が少ない。そのため、古くから存在するレンガ造りなどの、風情ある建物の景色が多く、様々な色合いで目に楽しい。


 彼女は目が見えていないが、そこから滲み出る空気感を楽しんでいる。コツコツとした足音や、ゴツゴツとした石の手触り、飛び交う鳥に、少しずつ沈みゆく太陽。同じ日はない、だから毎日楽しい。


「あらあら。この前の、もう片方の子ね。もうひとりの子は? セットじゃないの?」


 ベルリンの喧騒が、その二人を包む空間だけ、切り取られたように静か。凪のように穏やかではなく、ピリピリとした緊張感。それに気づく者はいない。


「やめてください。あれとは友達でもなんでもないんですから」


 あれ、とはサーシャ。おかげで今日は心休まる。平常心。許可を得て対面に座る。


「あらそう? いいコンビだと思ったのに」


 あえて挑発的にマクシミリアンは会話を成立させる。ぶつかり合う個性は羨ましい。自分にはいなかったから。


 今日の流れをシシーは軽く説明。色々と変更点あり。


「サーシャが来る予定だったと思いますが、譲ってもらいました。あなたと対局するってことで」


 疼いて疼いて、対戦相手よりもあなたしか見えなかったので。そこは秘密。コンラート君に失礼だし。


「そうねぇ。そのつもりだったんだけど……どうする? 指す?」


 余計な会話はいらなそうだ、とマクシミリアンは察知した。抑え込んでいるオーラみたいなもの、今にも破裂しそうな欲望。これはこれは、と固唾を飲む。


 そうですね、とありがたくシシーは誘いに乗らせていただく。


「昼のベルリン、チェスプレーヤー二人。勝負でしょう」


 この瞬間だけは時が止まる。どんな高級な料理も、酒も、車も、地位も権威もいらない。ただ、ひたすらに相手の裏をかきたい欲望。それも世界を知る相手。涎が落ちそうになる。

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