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153話

 対局を終え、マスターは今日の本題へ移る。

 

「日程が決まったよ」


 プロやグランドマスターまで参加する大会ではあるが、非公式なものであり、連絡は大会事務局からのメールでくる。もしくはホームページで自分で確認。忘れないうちに言っておこう。


 肩と膝に猫を乗っけたまま、シシーは脈拍を変えることもなく、淡々と問う。


「いつだ?」


 店内には全部で猫は七匹ほど。大きなガラス窓の付近で、外を見ながらふかふかのベッドで寝ているものもあれば、客にすり寄るもの、食事を店員に迫るものもいる。猫に好かれる性質があるのか、やたら集まってくる。


 それを羨ましそうに眺めながら、マスターは指定した。

 

「次の土曜日、一三時。いけるよね」


 いや、行ってもらわないと。全財産、彼女の優勝に賭けてるし。もし負けたら、ということは考えていない。優勝すれば大金が入ってくる。ひとりの人間が持つには過ぎた金額になるだろうが、身を滅ぼすほどのギャンブル。それがいい。


 そんな裏で蠢く思惑は承知している。だが興味もない。冷淡にシシーは必要な事柄だけ、拾い上げる。


「相手は? どんなだ?」


 誰がきてもいいが。なんならグランドマスターでも。むしろ、早く当たりたい。上質で極上の栄養を詰め込んだ、世界最高の称号グランドマスター。世界のチェス人口の実力上位ほんのひとつまみを、さらに篩にかけてやっとなることができるヤツら。


 携帯を操作しながら、目を細めたマスターは読み上げる。近眼が憎い。


「コンラート・ファスベンダー。本名だね。去年のワールドユースチェス選手権、一四歳以下の部で銀メダル。ビーネちゃんより年下だけど、でも立派なもんだ」


 世界各国から集まる、一六歳以下のチェス自慢の少年少女。それを細かく二歳ごとに年齢で分け、トーナメント方式で戦う世界大会。その一四歳部門の銀メダル、つまり世界二位。

 

「たしかにな。実績で言っても俺よりも遥かに上だ。普通に考えたら賭けにもならんだろう」


 自身は無名。かたや世界大会銀メダル。もし賭けることができるなら、コンラート一択。シシーでもそうする。自国の代表選手。誇りでもある。


 だが、その彼女の佇まいを注意深く観察したマスターは、なぜか煮え切らない様子。


「……なんかあまり乗り気じゃないね」


 作業的に相手のことを聞いているだけのようで、そのまま脳に残らずすり抜けているような。そんな印象。獲物を前にした、尖ったような緊張感もなく、ただ猫を撫でているほうがずっと興味ありそう。柔い雰囲気を察知した猫が他にも集まってくる。

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