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147話

「ここ? 猫カフェ」


 平然とマスターは言ってのける。猫がいるのは猫カフェだから。当然でしょう。


 ——ミャーオウ


 黒猫が一匹、シシーの肩に乗る。


 ドイツにおいて、猫カフェはかなり数が少ない。というのも特にベルリンにおいて、ペットは室内飼いが基本。そして、野良猫というものをほぼ見かけない。ゆえに、猫と触れ合う機会というのは、かなり貴重なものになる。遠方からわざわざ来る人も。


 ちなみに猫カフェとは言っているが、ドイツではペットカフェの運営許可は非常に取りづらい。なのでメインにすることは難しく、お店としてはただのカフェに『たまたま』猫がいる、というスタンスで乗り切っている。


「……あんたより強いのか」


 くつろぎ出した黒猫はそのままに、シシーは真剣な眼差しで力量を測る。只者ではない事はわかっている。どれほどのものか。


 まぁね、とマスターは肩をすくめる。


「肩書きだけなら彼女のほうが上だし。なんてったって、女性限定のランキングでは全て世界一位になったこともあるし。あまりに強すぎて、女性だけの大会には、途中から参加する事はなかったからね」


 シン、とその場の空気が静まり返る。まわりのお客の声がより響く。


「……世界……一位……?」


 目を見開いてシシーは言葉を理解した。理解はしたのだが、想像以上に大物だったらしい。そういった知識は得てこなかったため、今更ながら血の気が引く。


 鉄仮面を常につけている弟子の、その素の感情を表現したリアクションに師匠は満足。


「女性限定ではあるけど。ただ、男性を含めても、世界王者を何人も破っている。世界ランキングのトップ一〇に入った女性も彼女だけ。当時のレーティングは二七〇〇……くらいだったかな」


 レーティングは強さの指標。二五〇〇を超えれば世界でも有数の強さ。それを二〇〇も上回っている。つまり、歴代で最強の女性チェスプレーヤー。生きる伝説。


 はっ、とシシーは鼻で笑う。


「……現実離れしすぎだな。なんたってそんな人物が、わざわざ人の対局に割って入る?」


 無名と無名のただの野試合。そこに女性プレーヤーの頂点。だが、過去の話とはいえ、信じるならば昨日の内容にも納得はいく。


 足に擦り寄ってきた猫を膝に抱え、マスターはさらにデータを差し出す。


「マクシミリアン・クラインヘルン。あのお騒がせ女王のことは、誰にも縛れない。結婚からの出産で世界一位のままあっさり引退したかと思えば、数年後に復帰してまた世界一位に返り咲いたり。世界大会よりも、趣味の競馬を優先して不戦敗になったこともあったかな」


 世界最強かつ、最フリーダム。彼女からしたら、自由に暴れたら結果がついてきただけ。齢八〇を超えても、なにも変わらない。

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