表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/335

145話

 先の対局を振り返るシシー。たしかに、薄氷の勝利であることは認める。それだけギリギリのせめぎ合い。だが、もう勝負のスイッチは切ってしまった。


「ない。あの人の言う通りに事は運んだ。どう転んでも俺の勝ち。途中に予想外のことが起きたらやり直し、と最初に提示しておくべきだったな」


 まぁ、イレギュラー中のイレギュラーだが。


「普通は考えられないでしょ。あんな強いおばあさんが乱入してくるなんて」


 気に入らないが、その実力はたしかなもの、とサーシャも感じていた。なにか、チェスに積年の恨みがある妖怪の類? 化けて出た?


 いつまでも帰らないサーシャを諦め、自分から帰ることをシシーは決意。ため息を吐きながら立ち上がる。


「じゃあな。待ち伏せとかするなよ、約束だからな。ま、次の仕合までの感覚を研ぎ澄ませるのには役に立った」


「……ケチ」


 サーシャにとってはフラストレーションの溜まる一日。不完全燃焼のまま、その場には誰もいなくなる。


「あーあーあーあー」


 イスに座ったまま手足をバタつかせ、悔しさを体で表現。テーブルの上のチェス盤を見る。まだ決まったわけではない。だが、自分のほうは駒損の状態。手が進めば、勝敗は一目瞭然。


「これで〇勝二敗一分け……」


 公式戦含め、戦績はそうなる。一分けも、あのまま進めばどうなるかはわからなかった。いや、きっと勝っていたと言い切る。


 《こういうこともあるわよ》


 自分の中の妹、リディアが慰めてくる。重病で入院中。だが、確実に自分と対話している。


「……実力にほとんど差はないはずなんだけどね。ほんの少しだけ、向こうが鋭い。気づいたら銃口がこちらに向いている。僕も銃を抜こうとすると、先に引き金を引かれる。うーん……」


 頭を掻きむしり、物事が行き詰まる。守りは相変わらず堅いが、それ以上に攻めに入った瞬間の集中力。見切られている。


《相性もあるわよ。それに、私も悔しい。あのおばあさんにも》


 なんか一度に二敗したようで、よりダメージは深刻。だが、負ったダメージは、本人に返さなければカサブタにすらならない。


「このへんにいつもいる、って言ってたよね」


 舌なめずりをし、サーシャは獲物をロックオンする。勝負は勝てれば、不戦勝でもなんでもいいと今までは思ってきたが、最近は勝ち方にもこだわりが出てきた。強い相手と。ギリギリのところで。手に汗を握りながら。そして勝つ。


《えぇ、目にものを見せてやりましょう》


 普段は抑えにまわるリディアも、いつになくやる気。サーシャのやる気に相乗する。本気になったサーシャより強い人物なんて、この世にいないんだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ