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144話

 むふ、っと機嫌を良くした老婆は、駒を使い、動かしながら一気に捲し立てる。


「◆ルークc8、◇ポーンd5、◆ポーンd5、◇ナイトa4、◆ナイトd4、◇ナイトc3、◆クイーンe7、◇ルークe1、◆ナイトc2、◇ルークf1、◆ナイトa1、◇クイーンa1、◆ルークd8、◇ビショップf3、◆ビショップa3……ってところかね。ここで白のリザイン。お嬢ちゃんの勝ち。大したもんだよ」


 と、肩を叩いてシシーの勝利を讃える。


「どうも。だそうだ。俺の勝ち」


 涼しい顔でそれを受け入れるシシー。終わった。これで静かに過ごせる。


 だが、当然受け入れられない側の人間もいるわけで。憤慨するのはサーシャ。


「ちょっとちょっと! そんなのわかんないじゃん! そりゃまぁ……そうなる可能性もあるけど……」


 わかっている。◆ナイトc2。あれが痛かった。あそこを突かれると、先を見渡せば、ディスカバードアタックやらスマザートメイトやらで、一気に評価値が分かれたはず。もちろんシシーは見逃さないだろう。だが、それでも実際にやったわけではないので、納得はいかない。


 だが、腑に落ちないのはシシーも一緒。


「素晴らしい読みだ。おそらくそうなっていたであろうし、俺の読みと寸分違わない。リザインまでな。何者? 大会の参加者?」


 手触りだけで駒を判別し、なおかつ流れも読み切る力。どう考えても並の指し手ではない。警戒レベルを上げる。


 だが、老婆は立ち上がると、再度シシーの肩に手を置いた。


「あんたの師匠に聞いてみな。あたしはよくここいらにいるからね、それと——」


「……ん? なに?」


 そして、不機嫌そうにテーブルに突っ伏すサーシャを覗き込むと、当の本人もそれに反応する。いや、見えていないから、覗き込むという表現もおかしいが。


「いいや、なんでも?」


 それだけ言って、老婆は街中に静かに去っていく。かなり遠くなっても、うっすらと色だけで判別できるくらいには、衝撃と印象を残していった。


 その背中を見送りつつも、シシーは勝利ということで満足。


「そういうわけだ。俺の勝ち。自分で言ったことだ、守れ」


 と、帰宅を促す。そして今後、会うことがありませんように。


 だが、老婆がいなくなったことで、唖然としていたサーシャも息を吹き返す。


「……いや、納得いくわけないよね。シシーも読み間違えたかもしれないのに。そしたら僕の勝ちだ」


 九割はその通りに進んだだろう。だが、勝負は二人だけのもの。なにが起きたかわからない。せっかく乗り気じゃない相手を誘えたのに。

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