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134話

 だが、女王は民衆の言葉になど耳を貸さない。


「ここで死なれたら店に迷惑がかかる。そうしたら、オレも面倒なことになる。死ぬなら他で死んでくれ。飲まないというのなら——」


「?」


 せめて縁の薄い、いいグラスを使ってほしかったが、そういう雑味も含めてここのいいところ。シシーはイスから立ち上がると、焦点の合わない目で不思議そうに眺めてくるジルフィアの顎を引く。


「意識のない人間に無理やり薬を飲ませるのは、危険なんだそうだな。つまり自分の意思で飲むしかない。飲むというなら、わざわざオレが飲ませてやるが、どうする?」


「……」


 ……どうする? それは魅力的な提案だ。だけどカッコいいこと言って断っちゃった手前、それは非常に頭が痛い——、とジルフィアが痛い頭を悩ませていると、痺れを切らしたシシーは、無理やりコップを口につけて薬を飲ませる。


 その光景にアリカは目を丸くした。


「……いや、さっき自分で、無理やり飲ませたら危険、て……」


 すっかり忘れ去られていた存在だったが、久しぶりに口を開いた。本当のシシーという女性は、どれなんだ……? 美しく凛とした姿、毒を喰らいそれを楽しむ姿、他人を雑に扱う姿。本当のあなたは……どれ?


「勝者はなにをしても許される、というわけではないけど、ある程度は敗者の意見は無視していいだろう。相手のルールに則ってなんだからね。自分も死ぬぶんには、その後どうなろうと知ったことではないけど、生きて相手だけ死んでしまったら、ただ面倒だからね」


 とはいえ、優しく水は流し込む。少し咳き込んで、ジルフィアの吐き出した水が顔にかかったが、おかまいなし。


 最後の一滴まで飲みこむと、完全に意識を失ったジルフィアは、テーブルに突っ伏すように倒れ込んだ。一見すると酔っているだけに見えなくもないので、まわりも気にしない。まさか毒と解毒剤を飲んで瀕死、などとは思うまい。


「さてと、やれることはやった。これで死んでしまったら、諦めて警察なりなんなりに全て話そう。その前に——」


 帰りの支度を済ませつつ、シシーは背後に立つアリカへと振り返る。


「ひっ! ……な、なに……?」


 恐怖から震えるアリカ。食われる、など比喩的な表現でしかないが、シシーという女性ならばあるいは……と考えてしまうほど、恐ろしい怪物のように目に映る。


 無言で近づき、目の前に立つシシー。頭ひとつぶんの身長差があるが、身を屈め、赤く充血した耳元にそっと触れる。


「まさかキミが毒なんてものを製造しているなんてね。ほら、感じてみなよ、この心臓の鼓動を。まだドキドキしている。素晴らしい才能だ」


 アリカの手を持ち、自らの胸元に押し付ける。この脈動はきっと、毒によるものだけじゃない。自分に必要なパーツがひとつ見つかった、そんな高揚感もある。

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