128話
(……狂ってる……! なんでこんな人の多いところで、いや、少なくても、楽しさのために命を賭けられるんだ……!? どうかしてる……!)
この世には最低でも二人、自分には理解のできないヤツらがいる。アリカはそう、認識を改めた。結局、自分は普通の人間から少しはみ出しただけ。いざ殺すとなったら、足がすくむ。
余裕はなくなりつつあるシシーだが、頭だけは冷静に、を保つ。顔がニヤけてしまうのは仕方ない。頭だけはクール。常に冷静に。
(もう一度、状況を整理だ。なにかおかしい、という違和感は最初からあった。勝てるはずのない勝負に持ち込む相手。毒の効きを調整するための三〇秒。キングをチェックメイトする、という至って普通のルール)
「どうした? 大丈夫かい? キツいか? キツいよね? でも、楽しいよね」
ここまではジルフィアが想定した通りに事が運んでいる。チェスに勝てないことは織り込み済み。だが、このゲームの勝利条件。それは、解毒剤を飲みこのゲームを生きて終えること。そう。
《チェスの勝利などどうでもいい》のだ。
もうお互いに顔を見合う余裕はない。焦点が定まらない。
(考えろ……なぜ、チェスという形をとった? わざわざオレが有利になるルール。チェス。相手のキングを狙ってチェックメイトを目指すゲーム。そのキングが解毒剤? なぜ? なぜオレが慣れている方式を——)
そこでシシーにひとつの疑問が生じた。
もしかしてこれは
《オレがチェスに勝つことを想定したゲーム》なんじゃないのか?
つまり、今、オレ達がやっているのは……チェスに似たなにか?
だとすると、勝利条件『勝ったほうはキングを食し、五体満足でこのゲームを終えること』。その意味はまた変わってくる。
チェスは相手のキングを狙うゲーム。だがこれは……!
「……か……はぁ、か……!」
奇妙な息遣いをしつつ、シシーは全てを理解した。これならば、不利なはずのゲームに挑んだ相手の意図が繋がる。オレが勝ち、チェックメイトした解毒剤のキングを食す。そうするとどうなる? 結果は……お互いに『死ぬ』。
「……そういうことか。いや、素晴らしい。よく考えられた、ゲームだ。キミは最初から、ここでオレと死ぬつもり、だったんだね」
「……なーんだ、バレちゃったか」
それも予定通り、とでも言うかのように、ジルフィアは天井を見上げた。もちろん、毒の効果により強がる余裕がないのかもしれないが、シシー・リーフェンシュタールならきっと、気づいてくれると信じていたし確信していた。当たって嬉しい。それだけ。




