126話
「……いや、なんで笑ってられるの……? おかしいと思わない? 死ぬ必要なくない? あんたも。あんたも!」
アリカがおかしいのか? 毒を作っておいて、人が死ぬのが怖い? 都合がよすぎる? なんでこの二人は笑っていられる?
「ひとつ、勘違いしているね」
今にも泣きそうなアリカの声に反応したシシー。その発言を訂正する。
歯をガチガチと鳴らしながらも、アリカは問い返す。
「勘……違い……?」
「ここにいる誰も悪いわけじゃない。キミもオレも彼女も」
◆ポーンe6に対して、シシーは◇ポーンd4。着実に序盤のゲームを作っていく。
「そうそう」
それにジルフィアも呼応する。◆ポーンd5。お互い攻撃的に、前のめりに展開。
「死にたいわけじゃないし、負けたいわけでもない。ただ、オレ達は命がかかるくらい、ギリギリの緊張感が狂おしいほどに好きなだけだ」
シシーの◇ポーンd5に対して、ジルフィアも◆ポーンd5。ポーンをテイクし合う。じっくりと時間をかけていいわけではあるが、ここまでは予定調和。ここからが複雑な流れとなる。
盤面を一度、シシーは俯瞰する。序盤も序盤だが、時間も余る。とある実験を思いつく。
「次のオレの手はなんだと思う? 当てたら褒めてやる」
初心者と言っていたジルフィアだが、しっかりとついてきている。筋がいいのか、それとも予習してきたのか判別つかないが、その判断材料となるのが次の一手。見極めるための聴取。
うーん、と唸りながらも、ジルフィアは自分なりの解を披露。どうせシシーも同じかそれ以上の答えを用意しているので、出し惜しみしない。
「◇ナイトf3?」
「正解。いい子だ」
シシーは宣言通り、ジルフィアの頭を撫で、耳にも触れる。触れられたほうも気分が上がる。
「えへへ」
そしてシシーは◇ナイトをf3へ。相手のポーンをテイクしてもよかったが、先を見据えて盤面をより整えることに専念する。
チェスというゲームでは、テイクした相手の駒は、復活することはない。ならば、先手必勝でテイクできるものはどんどんしていったほうがいいか、と聞かれると、そういう戦法もありだが、基本的には『なし』。理由として、テイクするということは、つまり前の空いた相手の大駒が動きやすくなる、ということも含んでいるからだ。
そうなると、結局最初は数で勝っていても、その後追いつかれて、場も作れていないため、負けやすい。全部が全部そういうわけではないが、基本はそうなる。
この盤面でも、相手の飛び出してきた◆ポーンc5を、◇ポーンd4がc5に移動してテイクする。そうすると、前の空いた◆ビショップが一気に◇ポーンc5をテイクしつつ、攻めに移ることができる。盾であるポーンが薄くなったシシーは、形勢が悪くなる。




