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125話

 ジリジリと怪しげに光るネオンに照らされ、呆然とするアリカだが、今から始まるのが命の奪い合いだと知っている。まわりは会話を楽しみながら酒を飲み、踊り、奇声も上げたりしている。そんな集中できなさそうな場所で、今から若い女性二人のどちらかが死ぬという違和感。


「……」


 チェスのルールはよくわからない。相手のキングを奪ったほうが勝ち、くらいなもの。解毒剤は渡してはいたが、まさかキングの形にジルフィアが固めてくるとは思わなかった。どうなるのか。さっぱり行方がわからない。


 ピリついた空気を打破するべく、ジルフィアがこの場を一旦整理する。


「彼女は見届けてもらうだけ。なにかイカサマだとか、そういうのに加担してもらうつもりはありません。安心してください。そもそも駒の動かし方もよくわかっていないでしょうし」


 それも事実。アリカはだれかと遊ぶなんてしてきていないから。


「別にどうでもいい。始めるぞ。◇ポーンe4」


 気を取り直して対局開始。シシーは駒を動かす。


 まだ悩むようなところではない。が、三〇秒以上かけるというルールのため、ゆっくりと時間をかけてジルフィアは◆ポーンc5。一手に痺れるような圧力を感じる。これが命の重さ。


「始まった。はは、いい緊張感ですね」


 声に出さずにはいられない。心臓がどんどん速くなる。それに比例して楽しさも。


 始まったばかりだが、シシーは盤面に集中して、手を抜くことなく分析する。


「……シシリアンディフェンス」


 基本中の基本のディフェンス。それもそうか、と納得する。初心者であれば、まず覚えるべき陣形。指しそうになるのを堪え、三〇秒後に◇ポーンc3。


 チェスを指している、という感覚がジルフィアには心地いい。私もチェスプレイヤーになれた。不思議と高揚。


「これ知ってる。アラピンバリエーションてやつ。いいですね、知っている知識が披露できると」


 アラピンの場合だと、たしか中央の制圧力が高かったはず、と記憶を頼りに攻め方を考える。そして唐突にクイーンが斜めから攻めてきたり。考えると言っても、大した策などない。一歩ずつ近づいてくる死の足音。ゾクゾクする。


 当事者の二人はニヤけながら、駒のやり取りを楽しむ。その様を見て、安全な場所にいるはずのアリカが寒気を感じた。


「……ねぇ、本当に負けたほうは死ぬの? なにかの冗談じゃなくて?」


 自身もついに、目の前で人間が果てる姿を見ることができる。自分の作った毒で。ついに、誰かを殺す瞬間がもうすぐ。もしかしたら、それはあのシシー・リーフェンシュタール。歓喜しかない……はずなのに、実際にそのカウントダウンが始まると、疑念が湧いてくる。


 《彼女は本当に、死ぬほどのことをしたのか?》


 いや、全くそんなことはないだろう。違法な賭け……を実際にやっていたとしても、相手も合意のはずであるし、賭博をしたから死ぬ? 誰かを殺害したとか、大規模なテロを起こしたとか、そんなのであればしょうがない。だが、ただお金を多く賭けてゲームをしただけ。それなのに死ぬの?

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