表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/335

123話

「水に溶かすなり、そのまま舐めるなりお好きに。残ったキングは、誰かに頼んで下水にでも捨ててもらいましょう。二度と口に入ることがないように、徹底的に」


 ここは無法地帯。ビールにでもぶち込んで、飲み出すやつもいるかもしれない。なんでもいい。ジルフィアにとっては、片方だけ残ればそれでいい。


「……」


「一手につき、三〇秒以上かつ一分以内に指す。早指しは禁止です。勝利条件は、キングを体に取り入れ、この勝負を五体満足で終えること、でいいですかね。なにか質問は?」


「…………」


 説明終了。あとはプレーするのみ。細く息を吐きながら、蔑んだ目でジルフィアは、かつて恋焦がれた女性を見下ろす。彼女は今、どこに立つ。瀬戸際? 安全地帯? 逃げ出すなら、いらない。ため息を吐く。


「なければゲームに移行して——」


「……ひとつ。キミはどのくらい指せる?」


 諦めの、温度のない顔色で進行するジルフィア。艶めいたシシーの声にピクっと止まる。


「……ルールを覚えて少しやってみた、程度。でもディフェンスやオープニングなんかはひと通り覚えてみた。記憶力はいいほうなので。まぁまぁやれるんじゃないかなと」


 舌なめずりして、彼女を待つ。ゆっくりと、無意識に破顔していく。


 深淵から這い上がるように、シシーは徐々に顔を上げた。


「……なるほど、嘘は言っていないようだ。だが、それでも勝てる、という風に踏んでいるということはつまり」


 頬杖をついて、睨みを効かせる。


「このゲーム、なにか裏がある、ということだ」


 だが、大歓迎。少しだけ、燃え上がる焔。


 着火は完了した。大声をあげたくなる衝動を堪えて、ジルフィアはゲームへと前進する。


「……さぁて。もし不満ならルールを足してもらってもいい。私ばかりが考えたルールだし。それじゃ公平ではない。正々堂々、というのでもいいでしょう」


 さすが。すでにゲームは始まっている。だが全ての要素は伝えた。ここから死神の鎌がどちらかの首にかかる。


 もう一度ルールを頭の中で確認するシシー。なにが隠れている? まだわからない。わからない? 楽しい。


「公平ではないが、面白さも半減してしまう。そのままいこう」


 首にヒヤリとしたものが近づいた気がした。だからかな。笑いが止まらない。


 確実に勝てるゲームから脱却したことを、ジルフィアは直感した。まだこちらが有利。だが一秒ごとに自分が不利になる。なるはずなのに、心がそれを望んでしまう。

 

 (……怖い。が、なんて美しいんだ……! 私の全てを受け止めてくれる……あぁ、もう死んでもいい……!)


 シシー・リーフェンシュタールが、自分を敵と認めてくれた。その事実は、とても残酷で優雅。


「じゃあ始めよう。色はどう決める?」


 初心者に譲るシシー。どうであっても受け入れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ