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122話

 だがシシーは控えめにかぶりを振る。


「そんな気分じゃない。それに、なにか賭けないと楽しめないんだ……だから……もう、やらない」


 安いプライドを叩き折られたのは、辞めた理由のほんの一部でしかない。強いヤツはいる。自分より遥かに。だが、それ以上に、これより先、引き返せなくなりそうな予感があった。チリチリと内側で燻る火種。それに火がつくのが……怖い。


 オレはオレでいられるのだろうか? ここが分水嶺。なにかひとつ。なにかひとつきっかけがあると。きっと。オレは。俺は——。


 なにかに気づいたかのように、ジルフィアは明るく提案する。


「お互いの命、なんてどうでしょうか?」


 風船のような軽さ。吹けば飛んでいきそうな。


「……命?」


 いのち、って、この命? 心臓付近を押さえながら、シシーは鼓動を確かめる。この脈打つ、これ?


 小さなケースを取り出したジルフィアは、開けてその中のものを指で示す。


「このカプセル。『ドウモイ酸』という毒を改良して、飲めば数時間以内に確実に死ぬようになっている」


「……なんでそんなものを持っている?」


 ごもっともなシシーの質問。どんな理由があっても、毒を持っていいことにはならない。若い女性が持つのもおかしい話だ。


 だが、あっけらかんとジルフィアは言い切る。


「詳しい友人がいてね。全く、情報化社会の弊害だよね。まぁその結果、楽しい遊戯ができるんだから、難しく考えなくていいんじゃないかな」


 他人事のように、さらりと受け流す。そういう人もいるよね、程度にしか考えていない。


「……」


 無言。だが、シシーの耳には心地いい。


「……やめろ」


 目を見開き、そのカプセルを凝視する。言葉とは裏腹に、喉がゴクリと鳴る。


 しかしカプセルは白と黒で二種類ずつある。シシーの弱い制止を振り切り、ジルフィアはその先に進む。


「先手の白番の人はこちらの白い毒を。後手の黒番はこちら。わかりやすく分けてみました」


「……もういい」


 再度、シシーが体を縮こませて、全てを否定する。もういい、やめてほしい。息が荒くなる。


「解毒剤は、キングの形になるように固めてあります。つまりキングそのものが解毒剤、ということです。オシャレでしょ?」


 そう宣言すると、ジルフィアはまた違うケース。白と黒のキングを両の掌に乗せる。


「……頼む、もうやめろ」


 頭を抱え込むシシーの口角が上がる。


「自分のキングを守り、そして相手のキングを目指す。まぁ、ルール自体は一緒ですね。キングを食べられるのは、チェックメイトした時のみ。それ以外で食べた場合は負けとみなします」


「……いやだ、いやだ……」


 淡々とルールを解説するジルフィアの声を聞きながら、シシーの体が火照り出す。

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