114話
予想していなかった答えに、アリカの思考は停止した。賭博、肢体、はぁ?
「なんだよそれ。現実味がない。そんなの信じられるわけないし。写真でもあるの?」
本当だったら面白いけどね。それだとしたら、あの優等生は勝ち続けない限り、下衆な男どもに抱かれるってこと。賭博をやらないからよくは知らないが、全戦全勝なんて無理だろう。もうすでにやられているか? もったいない。
目の前のテーブルの上には携帯。それをジルフィアは操作する。すると出てくる一枚の写真。それを見せつける。
「ただ、異常なまでに強いのは事実。そのほとんどがチェスによるもの。頭が良すぎるってのはそっちにも影響するみたいね」
変装しているため、確実に本人とはいえない。たしかにそんな気もする、その程度の写真。
確認したアリカの唇が尖る。
「ふーん。ま、でも違法でもなんでもないんじゃない? 一応はある程度の額は合法だし。なんで殺すの?」
今のところ、向こうに非はなにも感じない。一方的に恨みでもあるのか? まぁ、理由なんてなんでもいい。真っ赤な花が咲く。豪華で絢爛な華が。それだけで自分は満足。
問われたジルフィアは「あー、そっか」と、手を叩いた。
「言葉足らずでごめんね。正確には殺したいというよりも、彼女のために『命がけの勝負』がしたいだけなんだ」
ごめんごめん、と再度謝罪。内容と逆にその態度は軽い。まるで『寝てるところ起こしちゃって』くらいのラフな謝り方。
そのアンバランスな言葉と雰囲気に、アリカの手にはじんわりと汗。
「……彼女のため?」
なんとなく、関わったらいけないヤツ、なんてのは最初からわかっていたが、話を深く聞いていると、さらにヤバいかも、と危険指数が上がる。歓迎はするが、引き返すところも見極めたほうがいいか、とも同時に。
違う写真を見せてくるジルフィアだが、シシーを目にしている時の彼女は本当に生き生きとしている。
「ほら、見てみなよ。この退屈そうな顔。見たところ、彼女はお金が欲しいというよりも、スリルを感じるためにやっている。なら、より危険にしてあげなきゃ。でも、この退屈そうな顔も素敵だ」
画面にキス。かと思いきや、ベロっと液晶を舐めだした。唾液がテラテラと反射するシシー・リーフェンシュタールのご尊顔。
たしかに淫らだな、とは思うが、アリカはむしろその行為のおかげで、少し冷静になる。
「で、それと毒にどう関係が? チェスで負けたほうが飲むって? 勝てるの?」
異常なまでに強いのであれば、それと比肩するレベルでなくてはいけない。そうでなければなんの緊張感もない勝負になる。この人はそうなのだろうか。




