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107話

 今は便利な世の中だ。毒についての知識はネットと本。大概はなんとかなる。製造方法もいくらでも見つかる。そして実験用のマウスがあれば完璧。ヘタを打たないように少しずつ、牛歩で実験は進める。一年経つ頃には、独自の毒は闇市場での売り物になっていた。


 成分であるヒアルロニダーゼと、スフィンゴミエリナーゼDの配合割合を変え、独自に開発した、蛇毒に由来するディスインテグリンなどを混ぜ合わせたオリジナル。毒の知識もだいぶついてきたおかげで、強さも発症する時間も操れるようになった。


 さらにその『弱い』毒かつ、治癒する具体的な方法がないことから、証拠も残りにくい。人間に備わった生命力。ミステリーに登場する青酸カリなどとは違い、体内で分解されてしまう。


 販売は海外のサーバーを経由してメールでやり取りし、毒は無人の受け取り機械であるパックステーションに送る。配達完了したら、その人物は受け取って使用する。海外銀行と国際送金を利用することで、足もつきづらい。おかげで大盛況。ゴミだらけの室内。


「でもつまんないね。殺せるほどの毒を欲しがる人は少ない」


 みんな、メールで欲しがる量も質も、ただ憎い人に罰を与えたい、程度。本当に殺したいと思うのであれば、喜んで送ろう。今日もメールが届く。つまらない。マウスでの実験も限界が出てきた。ダメだ、同じ哺乳類というだけでは。


「……人で、実験してみたいな」


 いやいや、それはできない。何度も確認するが、アリカは人を殺したいわけじゃない。裏で暗躍する悪人。だけど、いつまで経ってもミス・マープルは現れない。早くしないと、アリカは人を殺してしまうよ? またメール。


「……うわ、キモちわる……」


 少し前に販売した、デュッセルドルフ出身の男らしい。そいつから再度送られてきたメールには、卑猥な語が羅列されていた。口に出すのも憚られる、汚い言葉。アリカは舌を出して、あからさまに嫌悪する。


 アリカは男とも女とも公表していない。ビジネスメールとして、慇懃な文章で送っている。ゆえに、この男からしたら、相手が男でも女でもいいのか、それともどちらかと断定したとして、妄想で送っているのか。いずれにせよ、まともなヤツではない。


「ま、こういうのもいるよね。まともじゃないから毒なんか使うわけで」


 とはいえ、相手にしなければいい。こういった、販売以外にもメールは飛んでくる。基本無視するが、お得意様であれば、他愛のない会話も挟みつつ多少は返したりもする。はたしてどんな風に使用しているのか。知ったことではない。ま、お金になるからいいけど。

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