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105話

 そう思って生きてきたが、年齢を経るにつれ、『なんとなく』の、その勘が鈍りつつある。一三になる頃には、ほぼなくなってきていた。やっと楽しんで映画を、ドラマを観ることができる。


 そんな中でも、ミステリー映画は変わらず好きだった。自分に犯人がわからない作品はないか、探る楽しさがある。やられた、と感じる感覚が好きだ。


 アガサ・クリスティの名作『クリスタル殺人事件』。映画が始まると、白黒映画が開始される。映画の中で映画を観ることになる。豪勢な館で起きた殺人事件。殺害されたフェンレー侯。集められた容疑者全員。探偵なのか警察なのかわからない人物が告げる。


 《その犯人は——》


 その瞬間、上映していた教会の機械が故障してしまい、結末がわからなくなった。不満を漏らす人々。だが、颯爽とその場でミス・マープルが解決し、席を立っていった。彼女は推理好きで有名な老婦人。そして、その後に起きた殺人事件も、ほぼ話を聞いただけで見事解決。


「……いいじゃん」


 電気を消して、ソファーに座り、テレビの灯りだけが室内を照らす。もちろん、殺人事件が起きたら、探偵やら老婦人が介入して見事解決、なんてことは存在しないことはわかっている。警察が地道に捜査して、証拠を集め、そして逮捕。でも夢くらい見たいじゃないか。


 ミス・マープルは憧れの人。彼女のように、飄々としながらポロっと気の利いたひと言を言ったり、事件を解決したい。純真な眼差しで、アリカは演じたアンジェラ・ランズベリーを追いかけた。しかし、そこで気づく。


 ミス・マープルは、以前のアリカそのものなんじゃないか? 話を聞いたりしただけで、経験や勘で『なんとなく』犯人とトリックがわかってしまう。アリカの捨て去りたかった過去に、憧れを抱いている? 今と過去。そんな矛盾がアリカを支配する。


「どっちのアリカのほうが幸せなのだろうか?」


 幸せの基準は人それぞれ。同一人物の幸せも、測れるものではない。バカなことを考えている、自分でもわかっていた。しかし、日を追うごとに脳内を支配する。そして、幸せという基準から、変換されていく。


《なにもかもわかってしまう人間と、それと張り合う人間。どっちのほうが刺激が強い?》


 やることもないので考えてみる。なにもかもわかってしまうミス・マープル。ならば、張り合う人間、つまり犯人。アリカが演じるならば……犯人。ミス・マープル側はすでやった。


 直接手を下すことはしない。殺したいヤツもいないから。ならば、間接的に殺す。人間、誰だってひとりくらいは殺したいヤツがいてもおかしくはない。そう、需要があるんだ。銃や刃物? そんなもの世に蔓延っている。なら毒は? ミステリーの基本的な殺害道具だ。面白い。


 ミス・マープル。あなたなら……アリカを見つけ出すことができる? 彼女さえも騙すことができたら、それはアリカの勝ちでいいでしょう? でもどうやって勝負する? あれはただの役柄。安楽椅子探偵なんて、そんなの空想。誰を殺すことができたら、あなたに勝ったと言えるの?

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