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102話

 ニヤリとサーシャが笑う。


「いいでしょ。ストラディバリウス『シュライバー』。まぁ、弾けないからよくわかんないけど」


 飲み物のおかわりをついでに頼む。今度はカフェオレ。さすがに味変がしたくなってきた。自分にはやはりブラックコーヒーは合わない。


 ストラディバリウス。ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロなど、一七から一八世紀に活躍したストラディバリ家の製作した弦楽器。最上級モデルともなれば、数千万ユーロでの取引があるほどの高級な楽器群。そのうちのひとつ、ヴァイオリン『シュライバー』。


 ピアノであれば多少弾けるシシーだが、ヴァイオリンは初めて。相当すごいものなのだろうが、もらっても正直困っていた。そして『シュライバー』の意味。


「——『記す者』……俺にもわからない。だが、楽器は弾いてこそのものだ。ただ置いておくだけでは劣化するだけ。誰か弾く人にでも渡してもらうさ」


 せっかくだからもらうが、マスターにでも預けて、弾く人がいればその人に。そのほうがこの楽器も喜ぶはず。いつかその人の演奏を聴いてみたいね。そして、その先に狙いを定める。


「ところで」


 イスにもたれかかりながら、シシーは話を切り出す。


「ん? なに?」


 ケーキを口に運びながら、サーシャが返事をする。


 どうでもいいことなんだが、とシシーは前置きをしつつ、語を続ける。


「お前、結局、男か? 女か?」


 リディアが妹なのはわかった。だが問題は、こいつ自身は兄とも姉とも言っていないこと。前置き通りどうでもいいことだが、一応ハッキリとしておきたかった。


「そんなこと? そんなのどっちだって——」


 と、フォークを置こうとしたサーシャだが、手が滑り、カタッという音を立ててそのフォークが床に落ちる。


「あ、ごめん。取って」


 そしてシシーの足下まで転がり、そこで止まった。自分よりも彼女のほうが近いので、お願いする。


「ったく、自分で——」


 文句を言いながらも、シシーはしゃがんでフォークを拾う。その時——


「……?」


 拾いながら、テーブルの下に目をやる。すると、シシーにだけその中が見えるように、サーシャはスカートをたくし上げている。隣を行き交う店員、隣の席のパソコンで打ち込む男性、誰も気づかない。その白く、柔い大腿の奧。秘密の——


「……」


 シシーは拾い上げたフォークをテーブルに置き、替えのものをサーシャは要求する。すぐに新しいフォークで残りのケーキを頬張る。


 その姿を見つつ、シシーは、


「……なるほどね」


 気になっていたことは解決したと呟いた。

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