表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪領主、自分の意志と戦う  作者: ヨガ
第一章
9/75

9

 「先に言っておくが、『事例』と言っても、あくまで『文献』だけで分かったものだ。数が少ないし、情報も少ない。」


 (それでもいい。ちょっと気になることがあったから。)


「そうか。じゃあ後でお前のその『気になること』を聞く。」


 (いいよ。)


「ふん。『事例』が二件あるんだ。まず、この『バイアス王国』を建国した王様がその一つ。


 記述では、概ねは『王様が突然別人のようになって、賢明な君主になった』ということ。


 その『別人』は、国王様が今までの挙動、行動、考え方など、すべてが違うらしい。しかし、時々昔の王様に戻った時もあったということ……俺が分かるのはここまでだ。


 もっと知りたいなら、歴史分野の学者に聞け。未だに研究しているらしい。」


(なるほど……ちなみに、建国の日と今の月日って、どのぐらいの年月が経ったの?)


「……時間も分からないのか?」


(ええ。分からない。)


「たしか100年以上経っただろう。今『共通歴』692年4月だ。『バイアス歴』で言うと、102年4月だ。」


 暦法が二つ。類似で考えたら、「共通歴」は「西暦」みたいな感じかな?そして、「バイアス歴」は日本の「年号」みたいな感じかな?


 ……だが、家具が結構近代な感じだから、歴史感覚で考えてはいけないかも。歴史の授業で習ったのは、たしか西暦692年、外国史だと東ローマ帝国とか、日本史だと飛鳥時代とか……


 うん、雰囲気が全然違う。やめておこう。


 (……時間教えてくれてありがとう。)


「ふん。それで、二つ目は割と最近のことだったが……あくまで風の噂だ。聞けるものも制限されている。


 二年前、とある侯爵のある次女が事故に遭ったらしい。


 その事故にあってから、次女の行動が貴族らしくなかった。昔は淑やかで、誰にでも親切なお嬢様らしいが、今は誰も分からなくて、暴力傾向があったようだ。」


 事例が説明し終わったようだ。


 ロードルフ子爵は私の反応を待っている。


 (なるほど。では、一つ聞きたいだが、何で名前と事情が曖昧なまま?)


「この国の出来事じゃないからだ。たとえ次女でも、侯爵の人間だ。情報が管理されている。他の国に流される情報ならなおさらだ。」


 他の国……


 (ちなみに、この「バイアス王国」の外交の状況は?)


「これ以上聞きたいなら、まず俺に質問させろ。」


 (……確かに、ずっと私が質問している気がする。)


「ふん。お前がさっき『気になること』と言ったか。その『気になること』は何なのか、教えろ。」


 (絶対教えなきゃいけないの?)


「……さっさと言え!」


 (教えてもいいが、まず聞かなきゃいけないことがある。この言葉の概念が分かるかどうか、私が言えることも大きな違いがある。)


「その言葉はなんだ。」


(ロードルフ子爵はこの言葉が知っているか?「多重人格」って。)


「……」ロードルフ子爵は口を閉じた。


 (今沈黙は「黙認」ということで、つまり「知っている」とみなされてもいい?)


 ここははっきりした方がいい。曖昧なままでは少しまずい。


「チッ。知らなかったよ。だが、字面のままで読み取ってもらって結構だろう。」


 知らなかった、か。これは「大事な情報」だ。


 (なるほど。ロードルフ子爵は頭がいいね。)とりあえず、適当に返答しよう。


「不快だ。お前に褒められたいと言ったことじゃない!」


 お?これは……


 (私、皮肉のつもりだが?)


「ぐっ……もういい!何が言いたいか早く言え!」


 珍しくロードルフ子爵から「恥ずかしい」感情を感じた。「感情的」になった。


 今なら、「誤魔化せる」かもしれない。


 (そうか。「多重人格」、もっと正しく言えば「解離性同一症」ということ。これはあくまで私が学校の図書館で見たもので、詳細は……)


「どうでもいいことだ。要点を伝えろ!」


 (……意味は概ね、複数の人格が同一人物の中にコントロールされた状態ということ……今、私たちの状態と似ていると思わないか?)


「……」ロードルフ子爵は黙っているまま。何も反応しなかった。


 実は、もっと大事なことがある。その本にはこう書いてあった。


 “解離症は通常、圧倒的なストレスやトラウマが引き金となって発症する。例によっては、虐待、事故、災害……


 あるいは、耐えがたい心理的な葛藤、受け入れがたい情報や感情など、意識的に思考から切り離さざるを得なくなる状況があるだと……”


 もちろん、私は「お節介」したくないから、言わなかった。


 あえて「誤魔化した」。


「それだけ?話の見当がつかないな。自分の知識をアピールしたいだけなのか?」


 気付いているか?


(違う、私はただ自分の「推測」を考えているだけだ。その「気になること」を聞きたいのはロードルフ子爵の方だろう?)


「だが、『情報』釣り合わない!お前の言い方だと、もっとあったはずだ!」


「誤魔化せ」ないのか……いや、ここは――


 (私が言ったのは――)でも、これを言ったら、本当にいいのか?


 もし、“私が言ったのはちょっと気になることがあったからって、別に深い意味があるわけじゃないだろう。勝手にもっと何かあると思ったのはあなただけだろう。”と言ったら、せっかく解いた警戒心と少しの信頼がなくなってしまうだろう……


 もっと良い言い方がある。


「言ったのは?」


(……ロードルフ子爵に少し思い出してほしい。私はさっきそう言ったよ。“言葉の概念が分かるかどうか、私が言えることも大きな違いがある”と。)


「それがどうした?」


(つまり、“わからなかったら、言えることもここまで”ということ。)


「ふん!理屈が通っているが、納得できないな。」


 (それは申し訳ない。でも、意志を変えるつもりはない。)


「……いいだろう。お前の気持ちと意志に免じて、“さっきのこと”を許そう。でも、これでわかるだろうな。俺はそこまでアホではない。」


 やはり気づいたか。


 (ありがとう。)


「礼はいい。お前のためではない。ただお前の『推測』とかもう興味がないだけだ。」


 (そうか。)


「代わりに『バイアス王国』の外交状況を教えてあげてもいい。」


 (え、いいの?)


「ああ、だが教えた代わりに、お前にやらせたいことが二つあるからな。その間、身体を貸してあげてもいい……いいや、もし二つもこなせるなら、お前の意志次第で、好きな時に身体を貸してあげてもいい。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ