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アリエス――五十鈴部長に会えるまであと二日。
昨日外の騒動はメリー伯爵が見事に抑えた。彼女のカリスマ、とても凄まじい。今日で昨日みたいに集まった市民はもういない。
精々メリー伯爵の心配で5~10人くらい、メリー伯爵に会いたい感じだった。一応心配のふりをして、暗殺しにくる可能性があるため、その人たちに気軽に会えないが。
「メリー様。外に出る時、ちゃんと召使いと執事を連れて行ってください。」
メリー伯爵は一週間滞在する予定があるため、今日もメリー伯爵の姿が見える。そして、今は外に出て、市民と交流するつもり。
「わかっていますわよ。ロードルフ様は心配しすぎます!」
「心配するのは当然でしょう。昔と全然違いますので。」
「わたくしも知っていますわよ!」
(ふふ。半年前はメリー伯爵のことを母みたいと言ったが、今は逆にロードルフ子爵が父さんみたいになったね。)
「ああ?誰が父さんだよ!」
「ふふっ!ああ――わたくし、父さんに嫌われてしまったでしょうか?ひどいですわ。シクシク……」明らかに泣いてない嘘泣き、メリー伯爵は羽扇で涙を拭いた仕草をした。
「ふん。ばかばかしい……そんなことより、あの二人は今どこにいる?君が出かける間、あの二人を教育するだろう?」
「相変わらずせっかちな男ですね。もうすぐ来るでしょう。」
「だといいんだが――」そしてロードルフ子爵がこう言った途端、トントンと、ちょうどいいタイミングでドアーが叩かれた。
「メリー伯爵様――」という声も聞こえた。
「来ましたね。」
「ふん。」
二人は一緒に玄関の前に移動して、召使いが扉を開けてくれた。一人の男性と一人の女性が外に立っている。身嗜みは整っていて、清潔感と顔付きは一目で見れば好印象だった。
「ラファートさん。マリーグージュさん。ごきげんよう。」メリー伯爵は貴族の女性の礼をして、二人に挨拶した。
「あ、ご、ごきげんよう!メリー伯爵様!」「は、はい!ごきげんようです!メリー伯爵ざま!」二人ともぎこちない挨拶を返した。それに、マリーグージュという女性は噛んでしまった。
メリー伯爵は二人に優しく微笑んで、「では、ロードルフ様。あとは君に任せましたわよ。」と言った。
ロードルフ子爵は頷いて、二人を見た。
「わざわざこちらにいらっしゃってくださるとは、ありがたいことだ。二人とも。短い間だが、今日からお前らにしっかり教えてやる!覚悟しろ!」
「は、はい!覚悟しました!」「わ、わかりました!」
「心配しないでね。こう見えても悪い人ではありません。少々厳しいかもしれませんが……」
「もういいだろう。早く行け!お前ら、ついてこい!」
この二人はメリー伯爵自身が抜擢した人物で、信頼できる人だ。計画が進んでいる間もよく手伝ってくれた。つまり、計画を知っている人だ。
当然、この二人はメリー伯爵方面の人だ。計画を執行する人はロードルフ子爵方面の人だけだと良くないから。どの人に計画を伝えたか、その判断はメリー伯爵に任せた。そして計画の間、二人のことを伝えてくれた。
ラファートは男性の名前で、マリーグージュは女性の名前。
ラファートは騎士の経歴であって、政治の素質もあるらしい。この経歴は結構ロードルフ子爵と似ている。
そして、マリーグージュは市民の成り上がりだ。メリー伯爵を憧れていて、勉強もしっかりしっている。こちらはメリー伯爵と似ている。
二人を領主の位置に引き継がせるために、この間はロードルフ子爵が教育を施す。少しずつ、王国の意識形態を変えさせる。
五十鈴部長に会えるまでの二日間、ほぼ教えることにした。ロードルフ子爵は嫌な口ぶりをしたが、丁寧に教えてあげた。
集中できるように、適切な休憩時間を設けた。学習意欲が湧くように、応用例とシチュエーションをして、無理やり全部の知識を押し付けるではなく、一つ一つの問題にして二人に考えさせた。私に貴族の知識を教える時と同じだ。
やはり、この人はすごい。私はそう思った。
そして、五十鈴部長に会える日の前日の夜、
眠る前に、珍しくロードルフ子爵から話しかけてきた。
「明日だな。心の準備は?」
(うん。できている。)
「そうか……良かったな。明日で昔の友人と出会える。」
(そうね。ずっと楽しみにしている。明日でやっと――)
「だが、事故とか起きる可能性もあるんだな。ひょっとしたら――」
(何ですぐそんなこと言うの……)嫌な男……
「は!一昨日、君も俺が父さんみたいとか言っただろう。あれの仕返しだ。」
(……本当に嫌な男。何でレイヤーさんは君のことが好きになっただろう。)
「あの子と関係ないだろう。」
(これもさっきの仕返しだ。)
「はっ!俺に喧嘩を売ったな?いいだろう!この料理下手くそ!」
(はあ?君の方こそ不器用すぎる堅物――)そして、私たちはしばらく意味のない言い争いをした。
「はぁ……やるな。」
(君もね。)
「もういい。とにかくだ。君が余計な心配をしていないなら、俺は寝る。」
余計な心配……あ。
(もしかして私のこと、気にかけてくれた?)
「ふん。君は何をやる前に、よく余計なことを考えていただろう。そういうことだ。」
そうか……私が今回ももしかして何か心配してないかと考えていただろう。
(ありがとう。)
「礼はいい。まだ会ってないからな。」
(ううん。心配してくれてありがとうという意味。)
「ふん……ならどういたしまして。」少しぎこちない返事だが、何となく微笑ましい感じがした。
ロードルフ子爵は初めて会う頃と比べて、全然違った。それは私の見方が変わったのか、彼自身が変わったのかわからないが……関係性が確実に変わった。
ロードルフ子爵は目を閉じた。だが、もう一度私に話しかけた。
「なあ。短い間だが……」眠る気配を感じないが、話が途中で止まった。
彼の言葉を待ちつつ、少し眠気を感じた。共有感覚だから、彼が寝たかったことはわかった。
そして、まるでこの時間を計算したかのように、私に返事させないように、彼とともに意識が眠りに落ちる寸前、「ありがとう」という言葉が聞こえた。
……嫌な男だ。だが、少し悪くないと思う自分がいた。
(……どういたしまして。)すぐ眠りに落ちたため、私は言えたかどうかわからないが、何となく彼は「ふん」という感じがした。
眠りに落ちた後、すぐ翌日となった。
アリエスと対面する場所は領事館だ。
外国の重要人物と会うため、必ず護衛が付く。その護衛はカイル隊長と三十数名の騎士。外部と内部それぞれ何名が配置して、カイル隊長は一緒に入るという形だ。
そして昼頃、メリー伯爵とカイル隊長、またレイヤーと召使いも一緒に領事館でアリエスを迎える。形式上、メリー伯爵が外交する人物だから、相手の侯爵もここに来る。
私たちは領事館の前に待っていた。
パッカパッカ……馬車の音。少し遠いところにゆっくりとこちらに近づいた。
点みたいな影もゆっくりと大きくなって、やがて馬車の輪郭が明晰になった。そして、馬車が間近で止まった。
馬車から降りた人物は一人の五十代の男性とこちらの年とあまり離れていない成人の女性だ。二人とも優雅な感じで、特に女性のほうは麗しく感じる。
彼女の中に、五十鈴部長が……まだ両方何も話してなかったのに、アリエスはすぐ何かに気付いたように、真っ直ぐこちらに向けて、優しく微笑んだ。礼もした。
五十鈴部長が教えただろう……
「申し訳ございません。少々時間をかけてしまいました。お待たせいたしました。」と侯爵が言った。
「いいえ、構いません。ずっとあなたたちのことを心からお待ちしておりました。」とメリー伯爵が言った。
両方簡単な挨拶をした後、ロードルフ子爵はすぐ領事館の中に案内した。
交流室に行く途中、両方は簡単な対話をした。侯爵は優しい人だ。名前はウィリアムという。
そして、領事館の交流室についたら、両方とも重要な護衛を残して、他の護衛に交流室を守るように命じた。各召使いと使用人も一緒に入った。
交流室の門を閉じた後、「では、こちらの人は全員信用できる人でしょう。」とウィリアムが言った。
「ええ、そうですわ。」とメリー伯爵が言った。
「では、あとはこの二人に任せましょうか?」
「ええ、そうしましょう。」
見合いじゃないのに、見合いの感じ……
そして沈黙の間。この間は私にとって少し気まずい。
とりあえず話題は……ロードルフ子爵の視線によって、アリエスの様子が見える。美しい人だ。
(綺麗な方だね。)
「アリエスさんが綺麗な方だと言いましたぞ。こいつ。」ロードルフ子爵は自分の頭を指して言った。
アリエスは少し目を見開いて、微笑みを見せてくれた。
「ありがとうございます。クロイ様。」と彼女は目を細めて、嬉しい表情を見せてくれた。
「彼も、ロードルフ子爵様がさな子さんと仲がいいねと言いました。」
「ふん。仲がいいとは言えませんが、そう見えるでしょうか。」
「ええ……ええと、そして、彼はツンデレだねと言いました。」
「ツンデレ?なんだそれ。君知ってるか?」ロードルフ子爵は地面に向けて私に言った。
「え?私は……あ、私ではありませんね。」アリエスがロードルフ子爵の手を前に出した動きを見てこう言った。
(なんだろう?多分何かの用語だと思う。たしか五十鈴部長は漫画とかゲームとか好きだったから、それらの知識かな?)
「それはマンガとかゲームの知識か?」
アリエスは何か考えているような感じで天井を見ている。この動きはたぶん五十鈴部長を聞いているということだろう。
これが他人の視点で見ている感覚か。少し新鮮……
「……ええ、彼の話が簡潔に言うとそうですね。正式はオタク知識ということらしい。」
「なるほど、では――」
そして、私たちはしばらくこの形で会話し続けていた。代弁と言っても、どの話の返答も五十鈴部長だと感じられる。
会話が一段落の後、ロードルフ子爵は「では、そろそろです。」と言った。
「その意味は……」
「ずっとこの形で会話するのも面倒でしょう。30分、これは私たちの限界です。あなたたちは?」
30分、身体が変わる時間がこの半年間で少しずつ長くなった。
時間が長くなる理屈はわからない。でも、「慣れ」じゃないのは確定だ。ある日、突然一分や二分で長くなる感じだ。そして今は30分。
「30分……そうですか。どうですか?」アリエスは返事を待っているようだ。しばらく天井を見続けていた。
たぶん一分もないだろう。しかし、待っている時間が少し長く感じた。
どうして迷うだろうか?もしかして、私と会いたくないのか?それとも、もっと大事な何かが――
「あ、会いたいようです。」アリエスはこちらに微笑んでいた。
「そうですか。では、準備はできたか?」ロードルフ子爵は地面に向けて、私に言った。
(ええ。)この返事とともに、私は表に押し出された。
鮮明な現実が広がっていた。周りの人たちを見て、少し湧き上がる恐怖心、やはりどうしても抑えられない。
「クロイ様。大丈夫ですわ。」とメリー伯爵が優しく、私に安心するように言った。召使いとレイヤーも同じように言った。
「……うん。ありがとう。みんな。」喋る度、現実感が遠くなるような感じ。自分じゃない声。どうしても慣れない。
深呼吸をして、私は目の前のアリエスを見ている。
彼女は私を見て、優しい笑顔を見せてくれた。その後、すぐ目を閉じた。
五十鈴部長と変わるつもりだろう。
間もなく、アリエスは目を開けた。雰囲気はさっきと全然違って、若干の不安があり、苦笑いでもしているように私を見ている。
「五十鈴部長?」
「さな子?」
「本当に……五十鈴部長?」
「ああ。五十鈴貫太郎だ。」全然違う声、全然違う人……
でも、私は本当に彼だと確信した。
彼はアリエスの身体で、ゆっくりと立ち上がり、初めてディベート部に出会ったあのポーズとアレを言った。
「いらっしゃい!諸君!我はあなたたち新入部員の入部を心からお待ちしておりましたぞ!」両手を腰に当てながら、肘をくの字に曲げて、胸を張る。自慢げにポーズを取っている。
少し誇張な話し方と痛々しい言葉……この仕草に他人は少し驚いた様子だが、今の私にとってただ安心の印……
「本当だ……本当に五十鈴部長だ……うう……ごめん!ごめん!私……」
私は安心して、頬に熱い液体が流れていたと感じた。堰を切ったようにずっと、ずっと……流れているのを感じた。




