7
「早くメリー様を解放してください!」「そうだ、そうだ!」「メリー様を返してください!」「もう無罪判定されただろう!」
朝、ロードルフ子爵は外の声を聞いていて、朝ごはんを食べている。
「ふん。朝から元気なやつら。」
(やっとメリー様を無罪にしたんだから、仕方ないと思う。)
「はあ……メリー様、後で頼みますよ。」ロードルフ子爵は対面に座っているメリー伯爵に話しかけた。
「ええ。わたくしのことを心配している人たちですから、任せてくださいな。」とメリー伯爵は食事をしながら言った。
メリー伯爵は無罪になった。王族に処刑されない。何の罪も問われない。計画を立てて半年が経った今、やっとメリー伯爵を助けた。
半年……長いようで短いようで、計画が成功した。
今思えば、色んな意外なことが起きた。一番意外なことは政治体制の改変だった。
君主制が代議民主制に。貴族の肩書きはもはや名ばかりのもの。この改変は「侯爵の次女」のおかげだ。また、「侯爵の次女」の正体はやはり「五十鈴部長」だ。
正直、「侯爵の次女」は「五十鈴部長」だということがわかるだけで、私はとても嬉しかった。知り合いがいるだけで、心が救われたような気がした。
しかし、元々の計画では政治体制の改変まで考えていなかった。ただメリー伯爵に侯爵の次女と繋がりを持ていけば、計画がうまく進められると思った。
だって。外国から支援をもらうには少し難しい。繋がりができるかどうかもわからない。あまり期待していなかった。
でも、五十鈴部長が王族の弱みとか、知られたくないこととか、全部知っていたらしい。それらのことが密書を通して、私に教えてくれた。彼のおかげで、計画が順調に進んでいた。
私は半年前のことを思い出して、二人の他愛のない話を聞いている。
戦いが終わった時、次は町に入ること。
ここの計画は、一日中鉄格子に入れたメリー伯爵を市民の前に晒して、同情を煽るつもりだったが、市民の反応が予想以上に激しくて、半日で「仮釈放」という体で、メリー伯爵をロードルフ子爵の屋敷の中に住ませられた。
“「これが市民の力か……」”
“「さすがに予想外でしたわ。」”
“(それほど市民のことを大事にしていたという証拠だよ。だから市民も同じく支援していた。)”
あの時、二人も驚いた。市民がいかに大人数で激しい反応であることを。
あれは絶対メリー伯爵に何をしたらすぐ暴動しそうな反応だった。戦いと違う怖さだった。
“「クロイ様に褒めていただいてありがとう。でも、暴動が起こらないのは何よりです。ちゃんと計画通りに進んでいましたね。」”
“「ふん。使用人たちはちゃんとやっていましたからな。」”
“「ええ、そうですね。今すぐでも感謝したいですわ。」”
“「はっ!全部終わってからにしろ。まだ初期段階だ。」”
“「わかっていますわよ。」”
暴動が起こらなかったのは執事がちゃんとリーダー役を演じて、使用人たちがちゃんと噂を流したおかげだ。
執事は先頭に立って、率先して何か言うべきか、どう行動すべきか、市民に手本を見せたのだった。この行動は暴動の抑えとして、また噂のためにやっていたのだ。
まず、使用人たちは裏で執事が諫言してクビにされたが、忠誠心が働いていて、いかに素晴らしい人なのかという噂を流した。
この噂の真否は、たまたまあの深夜で聞いた市民が証言できる。
たとえ誰も聞いてなくても、執事が「行進」の蜂起人で、行動で示せば噂の信憑性が高まる。
また、使用人たちが直々話しても、話さなくても疑われない。だって、執事と一緒にクビされた使用人だから。その「立場」は執事と同じだ。
しかし、使用人たちには一つ流してはいけない噂がある。
それはロードルフ子爵の「評価」を下げること。
もしロードルフ子爵の印象を悪くしたら、暴動が起こる可能性が上がる。かといって、完全に良くしても不自然。計画がバレるリスクもある。
そのため、どう維持するかが課題になる。行進を続けさせて、暴動が起こらない範囲で。
そして、全員が考えた結果、噂の流れは――
****
“「どうして執事さんは『行進』みたいな『反乱行動』をしても忠告するなの?理不尽な『貴族様』だろう?」”
“「実は、ロードルフ子爵様は『王族』と違って、完全に横暴な人ではない……」”
“「少しわかりにくいが、メリー伯爵様は王族と対立してしまって、『領民を守る』ために、メリー伯爵様と関係を切断するつもりだ。」”
“「行進によって諫言するなら、ロードルフ子爵様は『もう少し考えてくれる』かもしれない。」”
“「クビにされたけど、殺されないだけで『不幸中の幸い』……」”
****
――という感じにした。
王族と違う。
領民を守る。
もう少し考えてくれる。
クビだけで済む。
つまり、「王族と比べて」、ロードルフ子爵様ならまだチャンスがある。
そして、ロードルフ子爵は執事と合わせて、自分は市民の圧力に負けて、もう一度考え直す態度を見せれば、その噂の信憑性が高くなる。
しかし、“「前の領主と違って、メリー伯爵の政策も受け入れた。少しメリー伯爵に感化されたかもしれない。」”このような噂はダメだ。
少しでもメリー伯爵と関係があるような噂を匂わせたら、計画がバレるリスクがある。
一日中メリー伯爵を市民の前に晒す → 執事が先頭に立て諫言する →ロードルフ子爵は市民の圧力に負けて考え直す。
台本はこんな感じだ。若干ずれがあっても、ちゃんと計画通りだった。
そして、次の段階は、王族に助けを求める、手を組むふりなど、あるい王族に助けられるまで、自分の無能と市民に手を焼いていると思われること。
メリー伯爵の方は侯爵の次女と繋がりを持つこと。
侯爵の次女の国は「民主派」の人がいるため、今まで外交にも励んでいたメリー伯爵にぴったりな役割だった。
でも、この段階が一番苦労だった。
まず、王族と手を組むふり、このことはできなくてもいい。
これはロードルフ子爵がもうちょっと情報が収集したいから考えた部分だ。無理にする必要はない。王族に助けを求めることが一番の目的だ。
“今俺はメリー伯爵のせいで、市民に悩まれている。手に負えている状態だ”、同じ意味の話でいい。王族に伝えていた。
この行動の目的は王族に市民のことを、メリー伯爵のことを「脅威」に感じさせることだ。
つまり、適当にメリー伯爵に手を出してはいけないと思わせることが重要だ。
そして、市民の行進の時間が長くなればなるほど、脅威がどんどん大きくなる。
その脅威は“自分の領地も同じようなことが起こるじゃないか”という不安。
もしメリー伯爵みたいな人望があったら、この心配はいらない。なんの行動も取らないだろう。
行動しない人は「心配していない」、「起こらない」、「関係ない」と思っている可能性が高い。それに、客観的な事実がなくても、こう思っているかもしれない。
しかし、“自分はロードルフ子爵みたいになりたくない……”と思うなら、また、どうしてもメリー伯爵を取り除くつもりなら、必ず何かの行動を取る。
では、ロードルフ子爵はこの時、王族に助けを求めたら、王族は“この無能なやつが自分に助けを求めた……丁度いい。メリーを取り除くコマとして、何かの策を教えてやろ”と利用するだろう。
正直、何の行動も取らないなら、その方がいい。全部ただの余計な心配で済む。その時、適当な理由でメリー伯爵を解放すればいい。計画とかやらなくていい。普通に領地を発展すればいい。
しかし、王族はやはり行動を取った。
一週間だけ過ぎた後、王族はすぐロードルフ子爵の行動を支持した。そして、“早めにメリーを殺せ、騒乱を抑え”という意味のことを伝えた。
王族は本当にメリー伯爵のことを邪魔だと思って、殺したがっている。
腐りきっている……
王族が行動を取ったため、あの三週間、ずっと茶番みたいな芝居をしなければならなかった。
“殺す!”
“殺してはいけない!”
“じゃあ、もう少し考える!”
芝居の概要は大体こんな感じ……結末は全部ロードルフ子爵が「仕方なく」殺さなかった。
このことは計画で予想していたから、芝居はまだいい。
一番苦労したことは、生活の問題だった。
使用人たち全員仮でもクビにしたから、色んな事は自分でやらなければならない。
洗濯や掃除、雑務などまだなんとかなるが、一番の問題はロードルフ子爵とメリー伯爵二人も料理できないことだった。
料理人はレシピを残したから、何を作るか困らない。
ただ、二人とも料理方法がわからなかった。現代の調理器具じゃないから、私もわからなかった。
結局、野菜や果物、生の食材でもかじれるものを食べて、三週間凌いだ。
二人が憔悴した顔になって、メリー伯爵が更に同情された。ロードルフ子爵も少し同情された。
芝居の三週間、メリー伯爵は時々手紙を書いて、(隙を窺うふり)外に送った。当然、五十鈴部長のところに送った。あの密書も送った、
他の人にとって「日本語」は「線」しか見えないから、どんなに解読したくても解読できない。内容が見られることを心配していなかった。
心配していたのはちゃんと届けるかどうかだ。ほぼ一ヶ月の時間を待っていた。五十鈴部長が返事してくれた。同じく「日本語」で書いた密書だ。
彼と交流できて本当に嬉しかった。
そして、五十鈴部長も計画を支援すると言って、色んな情報を渡してくれた。後のことはもはや問題ではなかった。
「ふん。しかし、王族たちはバカだったな。最後の最後で考えた策は、魔女狩りだったなんて……あきれた。」
「ずっと市民のことをバカだと思っているでしょう。ずっとこうやって責任転嫁していたでしょうね。」
(いや、かなり危なかったよ!もしロードルフ子爵が説得できなかったら、きっと処刑されるよ!)
メリー伯爵は不老不死を求める魔女だとか、彼女の言葉は悪魔のささやきとか、君たちは全て魔女に洗脳されたとか……どれも市民を蠱惑しているような言葉だった。
「わかっている。しかし、こちらの人とメリー様の人もいた。『市民の陳情』と『手紙』も送った。それでも魔女狩りをしたということは、きっと一目も通していなかっただろう。全部見たらそんな行動を取らない。」
(それもそうだが……)
「あら、クロイ様は何と?」
「何も。ただ君のことを心配していただけだろう。」
「ふふ。心配してくれてありがとう。でももう過ぎたことですわ。今はただお互い感想を言っているだけです。気に病む必要はありませんよ。」
(うん。わかっている。)
「ふん。そろそろだな。メリー様。そろそろ外のやつらに静かにしてくれ。君が一番適任だ。」
「ええ。わかっていますわ。ちなみに、ロードルフ様。」
「なんだ。」
「忘れていませんよね?三日後。」
「はっ!こいつがいるから、忘れるわけがない。『アリエス』との対面だろう。」アリエス、侯爵の次女の名前。
「よろしい。では、行きますわ。」
メリー伯爵は召使いと執事を連れて外に出た。
「ロードルフ様、食器を片付けますね。」とレイヤーが言った。
「……ああ。ありがとう。」自分の顔が見えないが、今ロードルフ子爵の表情はきっと微笑んでいる。
計画が終わった。あとは……




