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幕間の編です。
メリーは伯爵の家庭に生まれ、一人っ子だ。生まれて二年も経てなく、父が死んでいた。そのため、彼女はあまり父のことが覚えていなかった。ずっと母の手によって大事に育った。
メリーの母が美しくて、才能に溢れ、教養もあり、優雅な人物だった。貴族社会では珍しく「女性」として、影響力と領地を持つ女伯爵である。
メリーの夢は、母みたいになりたいことだった。
「メリー。」
「はい。母上。」
「知識を学ぶことにつらいと思う時がありますか?」
「……いいえ、そんなことはありません。」
「ふふっ、答えは合格ですが、顔つきがまだまだですわね。」メリーの母は羽扇で軽くメリーの鼻に突いた。
「うっ……ごめんなさい。母上。」小さなメリーは自分の鼻を触りながら謝った。
「謝る必要はありませんよ。今後ちゃんと身につけていけば問題ありません。」
「わかりました。母上。」
「……ちゃんと覚えていなさいね。この貴族社会では、『知識』はとても大切なものです。時間がかかるかもしれませんが、覚えられないと色々不便ですもの。心におきなさい。」
「はい!わかりました!母上。」メリーは母の微笑み、言うことを心に留めた。
「しかし……母上。」
「何でしょうか。」
「『不老不死』のこと、本当に勉強する必要があるでしょうか?そのこと、あまりにも……跳躍しすぎで……」
「ふふっ、メリーは賢い子ですね。そうですね。普通なら、勉強する必要がありませんでしょう。」
「では、どうして……」
「いい?人なら……いいえ、『貴族』なら、何をするには『仮面』が必要です。大事なのは、『不老不死』を追求することではありません。『何のために』やっていることです。『何のために』やっていたら、『意味ないもの』も『意味あるもの』になります。」
メリーはこの言葉を反芻して、再び質問をした。
「では、母上は何のためにやっていますの?」
「それは……繋がりでしょう。」メリーの母がこの言葉を言う時、メリーは少し虚しさとはかなさを感じた。
「繋がり……」
「ええ。私は常に女性の身として、貴族たちのことに知らされてしまいました。自分はいかに『権利』がないことを……だから、他人との繋がりによって、『自分の価値』を自分で引き出すしかありません。」母の声が弱くても、メリーの耳に響いている。今のメリーにとって、難しい言葉だった。それでも、メリーは言葉を消化し、考えるつもりだった。
「『権利』……」
「メリー。君はいずれわかるようになりますわ。今無理に知る必要がありません。しっかり知識を蓄えて、精進しなさいな。」
「はい。母上。」
メリーの夢は、母みたいになりたいことだった。
****
メリーは八歳となった。この年になると、お茶会パーティー――貴族の社交デビューに出なければいけない。
そして、メリーは母から一つのプレゼントを受け取った。
「母上、この羽扇は……」
「ええ、君へのプレゼントです。女性の羽扇は貴族の証明です。必ず失わないように、しっかり持ちなさい。」
「わかりました。母上。」
「正式な社交場合では、扇言葉の意味をすでに覚えていました?」
「はい。覚えています。」
「よろしい。では、少し試験を――」
二人は簡単なやり取りをした後、メリーの母は満足な顔をして、喜んでいる微笑みをかけた。
「素晴らしいです。メリーは本当に賢い子ですね。」
「母上のおかげです。」
「これなら、明日のパーティーも大丈夫でしょう。」
「でも、母上……」メリーは少し緊張な顔をした。メリーの母はしょうがない笑顔をして、羽扇で軽くメリーの鼻に突いた。
「顔付き。」
「ごめんなさい……」メリーは謝りながら、キリっとした表情に置き換えた。
「君は緊張していますね?」
メリーは頷いた。
「大丈夫ですわよ。私は君の傍にいますから。何があった時、私が助けますわ。」
「ありがとうございます。母上。」
翌日、メリーは社交デビューした。メリー自身は無難なく社交デビューし終わった。あまり意外がなく、他の貴族の令嬢たちと繋がりを持っていた。
しかし、メリーの母が女伯爵であるため、このパーティーでは男も混ざっている。主に事務の事情で入っていた。メリーのことがあまり気にしていなかった。ただ、その貴族たち、その人たちは母に対しての対応はあまりにもひどかった。
領地、爵位、名声、未亡人、身体など……問題ではないものでも問題視されていた。夫人がいたものの、母の身体に触ったり、くっつたり……夫人がメリーの母に味方にしたものの、夫人の発言が無視されたり、ないがしろにされたり……
この日を境に、メリーはやっと母が言ったことがわかった。その仮面とは、権利とは、自分の価値とは……一体何ものなのかを。
当日の夜、メリーは母に聞いてみた。
「母上。その……」
「あら、メリー。今日無事に終わりましたね。」
「ありがとうございます。母上。でも、母上は……いつもあんな風にされていましたの?」
メリーがあの状況を見てしまったとわかって、メリーの母は数秒も喋らなかった。少し無力な表情でメリーに話した。
「……ええ、そうですね。でも、メリーはそのようなことを受ける必要がありません。そうなる前に、母が先にいい相手を見つけ出してあげますから。」
「いい相手……」これは婚約の意味、八歳のメリーでもわかっている。
「でも、私のことより、母上は……ずっとああなるのは嫌ではありませんか?」
「ええ。嫌ですわよ。」
「なら、どうして……」
「私は変えるつもりですから。そのために、今も頑張っています。だから、嫌でもやるしかありません。しかし、メリー。」
「はい……」メリーは心配な顔をした。
「私の道に歩かなくても構いません。ここは過酷な道です。たとえ私の努力が無駄だとしても、無理に私みたいにならなくても構いません。もし何が嫌だったら、君は、君の方法でやりなさい。」
「わかり……ました。」
「ふふっ、そのために、知識を身につけなさい。顔色も余裕に見せなさい。君は伯爵令嬢ですもの。」
「はい!母上!」メリーはメリー伯爵令嬢になった。母の影響が深かった。当然、母の死の影響も深かった。
****
メリーが九歳の時、メリーの母は不治の病に患った。原因は多忙の上、ロクに食事できない虚弱になった体質だったから。
役割分担がしっかりしても、衛生がよく働いていても、医学の知識も限界がある。ましてや不治の病。
伯爵である母が年々衰弱して、やがてメリーが十二歳の時に死んでしまった。
その間、メリーはもちろん色んな方法で、色んな人にも探したが、無駄だった。でも、市民たちは無力だけだった。贈り物や医者など、色んな伝手も探してくれた。母の人望が高かったから。市民たちの繋がりが大事にしていた。まだやすらぎがある。
しかし、メリーも試しに貴族たちに助けを求めたが、貴族たちは助けるどころか、母が死んでいるのを期待しているだけだった。王族も同じだ。
宮廷闘争、勢力の競り合い……王族、貴族たちは「人」の死を何も思わなかった。ただここの領地が欲しかった。ここの名声が欲しかった。
どいつも同じような意味を繰り返しているだけだった。「うちの子と結婚しよう、君は領地のことがわからないだろう」、「その爵位を引き継いでいる時、また連絡する」など……どれも信じられないような言葉だった。
幸い、メリーの母と交流がある夫人や令嬢たちが手紙を送ってくれた。唯一の救いだったが、彼女たちには何もできなかった。何ができる「権利」がなかった。
そして、メリーが十三歳になる時、王族に強引に婚約を押しつけられた。母が死んだから、好き放題にやった。
メリーは今まで自分がずっと母に守られていたことに再び認識できた。
王族の婚約なんか答えたくない……しかし、自分は何もできなかった。
婚約者に会うしかなかった。
メリーの心の中に、母の言葉が浮かび上がった。
「何のために」やっていたら、意味ないものも意味あるものになる……
しかし、何もなかったら、意味ないものは意味ないものだった。
今自分は「何のために」やっているのか、メリーはわからなかった。
****
「執事、わたくしの婚約者はどんな相手でしょうか?言ってみなさい。」メリーは長年に仕えていた執事に質問をした。
執事はずっと母の執事として働いていた。騎士の経歴があり、仕事の手腕も素晴らしかった。かなり有能な人材だった。
「はっ、婚約者はロードルフという人物です。爵位と領地も亡くなった父から引き継いたものです。恐らく、お嬢様と同じく王族の派閥に巻き込まれた人でしょう。」
「そうですか。少しかわいそうですわ。ぜひ仲良くしたいですわね。」
そして、実際にロードルフと会ってみたら、メリーはとてもショックだった。
あまりにも貴族らしくない男……彼は感情が剥き出し、敵意も凄まじかった。
何より、一番メリーにショックを受けたのは、彼はメイド子が好きであることだった。
今まで貴族と付き合ったことによって、メリーにはわかっている。使用人のことを人として見ている貴族なんて、自分の家以外会ったことがなかった。更に「愛」なんて……
メリーは少し二人の事情に気になった。そして、二人の過去を聞いて、真っ先に浮かび上がった話は――
「ふん――今更、こんな『悪領主』みたいなことができる『貴族』がいたなんて……」今の貴族、悪いでも表では繕うものだ。秩序の中に隠された悪みたいだった。
「しかし、本当なんです!」少し信じがたいが……正常ではないのは確かでしょう。
「まあ、そうでしょうね。信じていますわ。しかし、よくわたくしのことを信じてくれましたわね。」
「それは……メリーお嬢様が助けたい『気持ち』と言いましたから。」
レイヤーの言葉がメリーに少しほんわかになった。
「……まったく、もしわたくしはそのように君をうまく利用したいだけだったらどうします?」
「それは……」これを言っているレイヤーは何も考えてなかったような表情だった。しかし、それがいい。打算とか考えてない、信じたい心がメリーにとって救いだった。あの市民たちみたいに、母のことを助けたいこと……
「まあ、いいでしょう。別にしたくありませんもの。しかし、わたくしができることは『助けること』までよ。」
これは、きっと「正しい」ことでしょう。
「……ありがとうございます!」
「いいですわ。彼もいずれわかるようになりますわ。他人に助けを求めることがどれだけ大切であること――」
きっとこの方が、「何のために」なるでしょう。きっとこの方が、自分の方法になるでしょう。
この子のために、市民たちのために、女性のために、あるいは、この二人の愛のために……
自分は自分の方法で、この「貴族社会」に生きる。
メリーは決めた。「何のために」生きていくのは。




