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悪領主、自分の意志と戦う  作者: ヨガ
第五章
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1

 死……


 私は、誰かの手によって、殺された。「死ぬ直前」の記憶がある……後のことはどうしても覚えられない。


 私は、本当に死んでいたかもしれない。


 では、もし私が死んだら、私は帰れるのか?もし私が死んだら、私は元の身体に戻れるのか?


 ああ、あああああ――ダメだ。


 ダメだ、ダメだ、ダメだ!


 考えるな……そんなことを考えるな!そんなの嘘に決まっている!記憶が正しくない時もよくあることだ!


 それに、私は今、考えている!


 私は今、ここにいる!考えているゆえに、私がいる!パパが教えてくれた哲学の思考だ。この記憶は私の記憶だ!


「私」は「黒井さな子」だ!大丈夫!私は帰れる……「私」は――!


 あれ、しかし……この朧げな感覚が「誰」の感覚だ?


 そもそも、この「身体」は「誰」の身体?答えは「ロードルフ子爵」だ。


 なら、身体が違うなら、脳が違うなら、私の「思考」は、本当に「私」の思考なのか?


 もし「人」は自分じゃない「身体」で考えていると、その「思考」は本当に「自分」が考えているなのか?


 答えはいいえ。この「思考」は「私」ではない可能性も十分ありえる。


 だって、「多重人格」のこともありえる。実は「私」は「ロードルフ子爵」が解離したもう一人の「彼」、十分ありえる!


「彼」の「一部」の可能性も十分ありえる!


 ……ああ、ダメだ。哲学のことは私にはわからない。パパならわかるかもしれない。私には無理だ。


 ずっとこの空間にいたら、「思考」が歪む。


 出よ、出よ……ここから出よう。「心の空間」から出よう!


 私はすぐ「心の空間」から逃げ出した。


 そして、少しおぼろげでも、鮮明な感覚が私に「生」を感じさせた。しかし、この「感覚」は私の感覚ではない。ロードルフ子爵の感覚だ、


 ロードルフ子爵は今ご飯食べている。メリー伯爵と会話しながら……


 そうだ、もう一つ方法がある。


 会話しよう。


 会話したら、自分の存在が証明される!会話したら、自分が認識される。


「人」は「人」と交流しあってからこそ、存在が証明される!「現実」が感じられる!


 会話しよう。あと、私の「事実」も伝えなきゃ……


 (……ロードルフ子爵、私、帰れないかもしれない……)


「あ?」ロードルフ子爵は食事を止めて、疑惑の声を発した。


「あら?どうしました?」メリー伯爵の声も聞こえる。


 大丈夫、「感覚」がある……でも、これは「私」の「感覚」ではない。とりあえず、「会話」を続けねば……


 (私、帰れないかもしれない。死んでいたかもしれない……)


「どういう意味だ?」


 ロードルフ子爵の声が聞こえるのに、メリー伯爵の顔が見えるのに、現実感がなくなる一方……怖い、怖い。


 (ねえ、私……生きているの?)


「お前一体どうした?」ロードルフ子爵のイライラした声が、少し私を引き戻した。


 感情……もしかして、その感情こそが、鍵かもしれない。


 (私、生きているよね?)


「どうしたんだ、貴様!『隠れる』つもりじゃないのか?」


 (早く教えて!私はまだ生きているよね!)


「わけわからんことを言うじゃない!貴様は生きているだろう!」


 (……本当なのか?証拠は?私が生きている証拠はどこにある?)


「貴様は何なんだ!証拠も何も、生きていることに証拠が必要ないだろう!」


 意味がない会話……でも、会話しているこそ、「私」がいた。もっと、もっと話さなければ――


 (ねえ――)


 ****


「ロードルフ様……クロイ様はどうしました?」メリー伯爵は心配な顔をして言った。


「知らん!突然わけわからんことを言い出した!今もずっと意味わからんことを言っている!うるさいんだよ!」ロードルフ子爵は怒った顔をしていて、こめかみの部分を抑えている。


 メリー伯爵はその感覚がわからないため、自分が考えていた助言を言った。


「そうですか……よくわかりませんが、とりあえず食事しましょうか。人は食事することによって、安心されますわよ。」


 (ねえ、ロードルフ子爵、私――)メリー伯爵の言葉が黒井さな子のところに届いてなかったようだ。相変わらずロードルフ子爵の脳内に話しかけている。


「黙れ!証拠がほしいんだろう!なら『感覚』を感じてみろ!お前は感じられるだろう!俺の『感覚』を!ならしばらく黙って感じてみろ!」


 しかし、ロードルフ子爵の言葉は黒井さな子の心に届いていなかった。

 逆に、黒井さな子に激高にしてしまった。


 今、黒井さな子は取り乱してしまっている。


 ロードルフ子爵はわかっている。まるで脳内が勝手に暴れまわっているような感じだった。


「くそ……!」


 メリー伯爵は何が考えているようで、ロードルフ子爵に話しかけた。


「ロードルフ様、クロイ様はずっと何をおっしゃっていますの?」


「ずっと自分の存在だの、証拠だのがほしいとか言っている。それと、自分が死んでいたから、帰れないかもしれないと……」


「……なるほど。ロードルフ様、君はこの状態で、どのぐらい耐えられるでしょうか?」


「……ああ?」


「クロイ様はずっと君に話しかけていると、それは良くない状態ですか?」


「……頭痛がする。今回結構ひどい。」


「そうですか。ならば、しばらくクロイ様と会話してあげてください。おそらく、クロイ様は『会話』し続けてほしいでしょう。」


「どういう意味だ。」


「つまり、クロイ様は突然会話したくなるような『気持ち』があるでしょう。わたくしも時々そのようなことがありました。それは大体『寂しく』感じた時、あるいは『混乱』した時でしたわ。だから、しばらく会話してあげてください。」


「何で俺が……」


「たぶんクロイ様にとって、会話できるのは君しかありませんから。」


 ロードルフ子爵は頭痛を耐えながら、はあと嘆いた。「いいだろう」と独り言を言って、


「おい!お前――」


 この時、二人の意志が会話している。 

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