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死……
私は、誰かの手によって、殺された。「死ぬ直前」の記憶がある……後のことはどうしても覚えられない。
私は、本当に死んでいたかもしれない。
では、もし私が死んだら、私は帰れるのか?もし私が死んだら、私は元の身体に戻れるのか?
ああ、あああああ――ダメだ。
ダメだ、ダメだ、ダメだ!
考えるな……そんなことを考えるな!そんなの嘘に決まっている!記憶が正しくない時もよくあることだ!
それに、私は今、考えている!
私は今、ここにいる!考えているゆえに、私がいる!パパが教えてくれた哲学の思考だ。この記憶は私の記憶だ!
「私」は「黒井さな子」だ!大丈夫!私は帰れる……「私」は――!
あれ、しかし……この朧げな感覚が「誰」の感覚だ?
そもそも、この「身体」は「誰」の身体?答えは「ロードルフ子爵」だ。
なら、身体が違うなら、脳が違うなら、私の「思考」は、本当に「私」の思考なのか?
もし「人」は自分じゃない「身体」で考えていると、その「思考」は本当に「自分」が考えているなのか?
答えはいいえ。この「思考」は「私」ではない可能性も十分ありえる。
だって、「多重人格」のこともありえる。実は「私」は「ロードルフ子爵」が解離したもう一人の「彼」、十分ありえる!
「彼」の「一部」の可能性も十分ありえる!
……ああ、ダメだ。哲学のことは私にはわからない。パパならわかるかもしれない。私には無理だ。
ずっとこの空間にいたら、「思考」が歪む。
出よ、出よ……ここから出よう。「心の空間」から出よう!
私はすぐ「心の空間」から逃げ出した。
そして、少しおぼろげでも、鮮明な感覚が私に「生」を感じさせた。しかし、この「感覚」は私の感覚ではない。ロードルフ子爵の感覚だ、
ロードルフ子爵は今ご飯食べている。メリー伯爵と会話しながら……
そうだ、もう一つ方法がある。
会話しよう。
会話したら、自分の存在が証明される!会話したら、自分が認識される。
「人」は「人」と交流しあってからこそ、存在が証明される!「現実」が感じられる!
会話しよう。あと、私の「事実」も伝えなきゃ……
(……ロードルフ子爵、私、帰れないかもしれない……)
「あ?」ロードルフ子爵は食事を止めて、疑惑の声を発した。
「あら?どうしました?」メリー伯爵の声も聞こえる。
大丈夫、「感覚」がある……でも、これは「私」の「感覚」ではない。とりあえず、「会話」を続けねば……
(私、帰れないかもしれない。死んでいたかもしれない……)
「どういう意味だ?」
ロードルフ子爵の声が聞こえるのに、メリー伯爵の顔が見えるのに、現実感がなくなる一方……怖い、怖い。
(ねえ、私……生きているの?)
「お前一体どうした?」ロードルフ子爵のイライラした声が、少し私を引き戻した。
感情……もしかして、その感情こそが、鍵かもしれない。
(私、生きているよね?)
「どうしたんだ、貴様!『隠れる』つもりじゃないのか?」
(早く教えて!私はまだ生きているよね!)
「わけわからんことを言うじゃない!貴様は生きているだろう!」
(……本当なのか?証拠は?私が生きている証拠はどこにある?)
「貴様は何なんだ!証拠も何も、生きていることに証拠が必要ないだろう!」
意味がない会話……でも、会話しているこそ、「私」がいた。もっと、もっと話さなければ――
(ねえ――)
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「ロードルフ様……クロイ様はどうしました?」メリー伯爵は心配な顔をして言った。
「知らん!突然わけわからんことを言い出した!今もずっと意味わからんことを言っている!うるさいんだよ!」ロードルフ子爵は怒った顔をしていて、こめかみの部分を抑えている。
メリー伯爵はその感覚がわからないため、自分が考えていた助言を言った。
「そうですか……よくわかりませんが、とりあえず食事しましょうか。人は食事することによって、安心されますわよ。」
(ねえ、ロードルフ子爵、私――)メリー伯爵の言葉が黒井さな子のところに届いてなかったようだ。相変わらずロードルフ子爵の脳内に話しかけている。
「黙れ!証拠がほしいんだろう!なら『感覚』を感じてみろ!お前は感じられるだろう!俺の『感覚』を!ならしばらく黙って感じてみろ!」
しかし、ロードルフ子爵の言葉は黒井さな子の心に届いていなかった。
逆に、黒井さな子に激高にしてしまった。
今、黒井さな子は取り乱してしまっている。
ロードルフ子爵はわかっている。まるで脳内が勝手に暴れまわっているような感じだった。
「くそ……!」
メリー伯爵は何が考えているようで、ロードルフ子爵に話しかけた。
「ロードルフ様、クロイ様はずっと何をおっしゃっていますの?」
「ずっと自分の存在だの、証拠だのがほしいとか言っている。それと、自分が死んでいたから、帰れないかもしれないと……」
「……なるほど。ロードルフ様、君はこの状態で、どのぐらい耐えられるでしょうか?」
「……ああ?」
「クロイ様はずっと君に話しかけていると、それは良くない状態ですか?」
「……頭痛がする。今回結構ひどい。」
「そうですか。ならば、しばらくクロイ様と会話してあげてください。おそらく、クロイ様は『会話』し続けてほしいでしょう。」
「どういう意味だ。」
「つまり、クロイ様は突然会話したくなるような『気持ち』があるでしょう。わたくしも時々そのようなことがありました。それは大体『寂しく』感じた時、あるいは『混乱』した時でしたわ。だから、しばらく会話してあげてください。」
「何で俺が……」
「たぶんクロイ様にとって、会話できるのは君しかありませんから。」
ロードルフ子爵は頭痛を耐えながら、はあと嘆いた。「いいだろう」と独り言を言って、
「おい!お前――」
この時、二人の意志が会話している。




