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そうだな……やっぱりこうなる。
正直、信じてくれても信じなくても、今まさにジレンマみたいな状況に陥っている。
信じてくれたらありがたいが、私は出なければならない。それに、本当に信じているかどうか、確認のしようがない。どこまで話したほうが判断がつかない。
信じないなら、普通のことだったし、強要もできないが、ただ問題は今後どうすれば他人に協力を求めるかだ。それに、ロードルフ子爵が変人だと思われて、何かに行動が制限されると、事態が更に複雑になりそうだ。
どっちに転がっても、あまり良くなかったが、信じてくれたほうが信じないよりいいだろう。
他人の前で私に話しかけないでと制限しなかったし、私もいずれ出なければと思っていた。でないと、できることが少なすぎる。
ロードルフ子爵もすべての要求を受けるお人好しではない。命令しない「ルール」もある。色々なことが加えて、泥沼みたいに何も解決できないような状況だった。
はあ……そもそも、私は好きでロードルフ子爵の身体に入ったわけではない、どうしてこんな目に遭うのかわからない。
ああ、ダメだ。どうすれば帰れるのか頭がいっぱいで、考えがまとまらない……
たぶん私が考えすぎたせいで、ロードルフ子爵は私に話しかけた。
「……だそうだ。おい、お前はどうしたいんだ?返事が遅い。」
そうだ。今何がしたいのが重要だ。
(少し、考えさせて。自己紹介とか。それと、心の準備が必要だから。)
「そうか。あまり長考しすぎないようにな。お前は時々考えすぎる癖がある。」
(うん……そうだね。わかった。長く考えすぎないようにする。)
さあ……どうしようかな。三分、バイトの面接みたいに考えた方がいいのか?それとも……
「あら、どうしましたの?」
「こいつは心の準備が必要だそうです。一度無理させたことがありましたからな。私たちにとってあまり良い経験ではありませんでした。」
「そうですか……では、その『もう一人の方』はわたくしの声が聞こえますかの?」
「聞こえるでしょう。」
「では、わたくしが話しかけたら、『もう一人の方』は返事してくれますか?」
「こいつが返事したいならば、そのうち返事するでしょう。」
「ずっとお前とこいつを呼ばわりしていますが、『もう一人の方』はどんな方でしょうか?」
「……メリー様。やけに熱心ですな。君は信じるではありませんか?」
「正しく言ってくださいな。わたくしは信じるつもり、ですわよ。今はただ、君たちの関係が気になっております。」
「……ああ、そうですか。」
「それにロードルフ様。君の説明だけでは、『もう一人の方』がかわいそうですわ。」
「ああ?」
「さっき、ロードルフ様は時々考えすぎる癖があると申し上げましたが、ロードルフ様はその『もう一人の方』と相談したことがありました?このように打ち明けることについて。」
「……ありませんが、いずれやる必要があることです。こいつも同じ考え方だ。だから、今なら――」
「ロードルフ様。これだから君はまだ未熟ですわよ。もしわたくしでなければ――」
「全部言わせろ!」
「あら。」
うん……なんか言い争っているみたいだけど、大丈夫かな。
「今なら一番適切だと思っています。君だから、協力を求めました。適当に言っているわけではありません。それと、相談ではありませんが、こいつの合意ならさっき得ました。わかりましたか?」
メリー伯爵はキョトンと驚いた顔をしている。そして、ふふっと笑って言った。
「なるほど、そうですか。つまり、君たちにはすでに暗黙のルールができていますね。益々楽しみになりますわ。」
大丈夫っぽい……
(あの――)私は準備ができた時、レイヤーがここに来て、ちょうど話に割り込んだ。
「二人のご歓談に邪魔して申し訳ございませんが、昼ご飯の準備ができておりました。」
ロードルフ子爵は一瞬返事したかったが、私の話も待っているようだ。そして、この間を感じたメリー伯爵は、
「そうですか。では、昼ご飯を食べながら、話し合いましょうか。人は食事する時、緊張感が緩められますよ。」
(あ!じゃあ、そうしましょう!)
「……そうですね。落ち着いて会話するのはもってこいでしょう。」
「では、こちらへ。」レイヤーは二人の案内をしていた。
「そういえばロードルフ様、この子と執事に伝えることは?」メリー伯爵はロードルフ子爵の耳に小声で言った。
「まだだが……お前、大丈夫か?」
うん……メリー伯爵だけだったら、確かに屋敷の人たちも伝えた方がいいかも。屋敷の人なら、ロードルフ子爵も心を許しているし。
(……準備ができた。ロードルフ子爵は言うつもり?)
「そうか。なら……レイヤー!」
「はい。何がご用でしょうか。ご主人様。」
「この屋敷の人たちに全部食堂に集めてこい。言いたいことがある。」
レイヤーは一瞬留まっていたが、すぐ頭を下げて、「はい、かしこまりました。」と返事した。
「いいですの?」
「この屋敷の人なら大丈夫です。」
「そうですか。なら、楽しみにしていますわ。」
「言っておきますが、こいつは結構臆病なやつです。あまり期待しないように。」
「気にしませんわ。君をこのように変えたのは、その『もう一人の方』でしょう。やはり楽しみですわ。」
「……メリー様。ちゃんと手を洗ってくださいね。そうしたら、そのひどい匂いも少し薄くなるでしょう。」
「あら!まだ失礼なことを……ひどいですわ。」
この二人、仲がいいな……
そして、二人が手を洗って、食堂の位置に座った。使用人たちも一人ずつ食堂に来た。
メリー伯爵を含め、食堂にいる人たちは合計八人……少し緊張している。
とりあえず、無難な自己紹介と印象に残らないこと、また自分が無害であることを――
「全員、集まったな。」
「はい。全員集まりました。ご主人様。」レイヤーが言った。
「そうか。ありがとう。」ロードルフ子爵は自然に礼を言った。レイヤーは微笑みをしながら、頭を下げて、そして使用人たちと一緒に立っている。
使用人たちはもう驚かない……改善、できただろうか。
私が現れても大丈夫かな。
(あの、ロードルフ子爵が何か前置きとか言ってくれない?体の中に私がいるとか……)
「……そうだな。
いいか、お前らに伝えたいことがある。俺の身体には、『もう一人』がいた――」
そして、ロードルフ子爵は簡単な前置きを言って、使用人たち――レイヤーと執事以外、その目には少し疑問の感情を感じとれる。しかし、それだけだった。
メリー伯爵、執事、レイヤー三人は静かに聞いている。
これは関係性の差……かな。だから、ロードルフ子爵は信じるつもりか。私は本当に余計な心配をしていたかもしれない。
「――では、『コイツ』の言葉を聞いてやれ。さあ、充分な時間を遅らせたんだ。もうお前の番だ。」ロードルフ子爵の言葉とともに、私は何か押し出されたように、感覚が鮮明になった。




