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悪領主、自分の意志と戦う  作者: ヨガ
第四章
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6

幕間の編!

 レイヤーは娼婦の子だ。その名前も、レイヤーが生まれた時、まるでそのような髪型がしているから、母に付けられたのだ。


 彼女は美しい黒髪と青い瞳を持ち、とてもかわいくて、愛想が良い子だ。平民の間では、親子二人も良い扱いされており、差別的なことがされていなかった。


 しかし、平穏な生活はずっと続けられなかった。


 五歳の時、レイヤーと彼女の母は、地元の領主――とある子爵家に、メイドの使用人として迎えられた。その原因は、レイヤーの母がとても綺麗だから。


「貴族」にとって、「使用人」も一つ見せびらかすような「道具」だから。この頃、レイヤーはまだわからなかった。


「レイヤー、私の愛しい子……君に悪い思いをさせてしまったかもしれない。本当に……ごめんなさい。」


 どうして、母は悲しい顔をしているの?この頃、レイヤーはまだわからなかった。


「ううん、りょうしゅのそのむすこさん――ロードルフさま、わたしによくしてもらってたの。やさしい子だよ。」


「そう……なら、その子を大事にして。恐らく、今はまだ『貴族』のことがわからなかっただろう。」


「きぞく……?」


「ええ、レイヤー。ちゃんと覚えておきなさい。君は今後、苦しい運命になるかもしれない。今後、悲しいことがいっぱい遭うかもしれない。でも、そのような『運命』に、決して心折れてはいけません。」


 レイヤーは何もわからないまま、首をかしげる。母の言葉が彼女にとって難しかった。


 しかし、彼女はちゃんと覚えている。母が軽く手を握ってくれたことを、その手の感触を。


「そうすれば、ずっとその『運命』に抗えれば、いずれ誰かが助けにきてくれるでしょう。」レイヤーの母はまるで自分にも語っているように、レイヤーに抱きしめた。


「かあさん……?」


「大丈夫。レイヤー。母はずっと君のそばにいるよ。たとえ死んだとしても。」嗚咽のような声、レイヤーはまだわからなかった。しかし、母には何か悲しいことが起きたに違いない。


「かあさん、どうしてそんなにかなしいの……どうしてそんなかなしいことを言うの?」レイヤーは母の感情に伝染され、泣きそうな顔になっていた。


「ごめんなさい。レイヤー。君には絶対同じようなことが起きないために、母さんは頑張るしかない……やるしかないわ。」


 いったい、母さんの身に、何か起きたのか――レイヤーにはまだわからなかった。しかし、レイヤーも母と同じ、涙がボロボロと泣き出した。


「レイヤー……覚えて。もし、誰かが君に助けてあげた時、迷わずその手を握ってなさい。私たちは、あまりにも無力な『人』だから。」


「ううう……わかった。」レイヤーは泣きながら、母に返事した。


「人」は一瞬で変われる生き物じゃない。しかし、本当にあるとしたら、それはきっと大きなきっかけがあったのだろう。


 翌年、レイヤーの母が死んでしまった。死因は、彼女が自尽じじんした。


 レイヤーはわからなかった。どうして母は死んだのだろう。


 その日から、領主が乱暴し始め、自分の息子に、使用人に、騎士に、領地に、乱雑な扱いに、暴政し始めた。


 そして、領主の息子、ずっとレイヤーのそばにいてあげた。これは二人にとって、一つの分岐点となった。一つのきっかけとなった。


 二人はよく一緒にいた。密かな好意を感じながら、領主の目に映られないように、一緒に遊んでいた。


 二人の間、密かな絆が築いていた。


 ****


 レイヤーが八歳の時、領主の息子が九歳となった。


 この年、二人にとって凄まじい分岐点となった。


 領主の息子は、「犯罪者」を殺さなければならなかった。レイヤーは、その「死体」を片付けなければならなかった。「使用人」は「道具」だ。


 あの状況、レイヤーにはどうにもならなかった。たとえ心の中で「ダメ」と叫んでも、あの状況には、他の誰も阻止できなかった。誰も領主の圧政に、反抗できなかった。誰も領主の意見に、逆らえなかった。


 この頃、レイヤーがわかった。どうして母は自ら命を絶ってしまったことを。


 きっとその悲しいことが逆らえなかっただろう。


 だから、自分の命を引き換えに、自分は「人」であると、自分が操り人形ではないと、「道具」ではないと……


 あの日、レイヤーがわかってしまった。だから、彼女は一度考えてしまった。自分も「母みたいになろう」。


 しかし――


「レイヤー。」部屋のドアー叩かれた。それは、領主の息子の声。


「……どうしました。ご主人様。」レイヤーはゆっくりとドアーを開いて、隙間から領主の息子を見た。


 領主の息子は不満な顔で、そして、悲しそうな雰囲気を感じた。


「だからその“ご主人様”とかやめろ。僕は、あの……ふん!とりあえず、それやめろ!」


「しかし、そう言わないと……」


「今は僕らしかいない。頼む、レイヤー。」


 実は二人の関係、使用人たちも何となく察している。レイヤーは言わなかった。愛想が良い子、その使用人たちにもちゃんと「心」がある「人」だ。だから、誰も言わなかった。


 あの領主だけ、何も知らなかった。これは、当然の報いだ。


「……わかりま――わかった。ロードルフ様。」


「ふん。」少し不機嫌そうな声だが、その中に喜んでいる感じがした。レイヤーも少し心が救われたような気がした。


「そして、ロードルフ様はどうしてこんな時間にわたしに?」


「……僕、『人』を殺してしまった。だから、気になっているんだ。その、『真相』を……」


 領主の息子――ロードルフのその目には、まだ生気がある。まだ諦めていなかった。まだ「運命」に反抗するつもりだ。


 だから、今レイヤーは彼と同じ、反抗してみたかった。


「しかし、わたし一人では……」


「他の使用人も伝えていたんだ。了承も得た……だから、『真実』がわかったら、また君たちに伝える。その時、もう誤魔化さなくてもいい。」


「……わかった。しかし、どうか――」変えないでくれ、この言葉だけ、レイヤーは言えなかった。


 なぜなら、「人」は一瞬で変われる生き物じゃない。しかし、本当にあるとしたら、それはきっと大きなきっかけがあったのだろう。


 まるで自分自身みたいに。


 変えないでくれ――それは、決してできないことだろう。それは、一つの束縛になるだろう。


 だからレイヤーは、


「――どうか、お気を付けください。わたしはもう、ロードルフ様まで失いたくありません。」


 ロードルフは少し目を見開いて、少し無力な微笑みをしていた。


「……わかっている。僕も、レイヤーのことが失いたくない。もし、僕は僕じゃない時、頼む……僕のそばにいてほしい。」


「……もし、わたしで良ければ。」レイヤーは頭を下げた。


「いいえ、君がいい。君の方がいい。」


 そして、ロードルフは「真実」を知ってても、一瞬で変わらなかった。


 だが、彼は少しずつ、少しずつ……「悪領主」によって、「貴族学校」によって、変えさせられていた。それでも、ロードルフはまだ諦めていなかった。少なくとも、14歳の時まで。


 ****


 レイヤーが13歳の時、ロードルフが14歳。この年、二人の間に乗り越えられない壁が立っていた。


 あの領主が死んでしまった。婚約者も押し付けられた。とある伯爵領の令嬢だ。


「領主、爵位、婚約……」


 あの領主の死によって、全てがぐちゃぐちゃになった。人生全てが……


 ロードルフは「ロードルフ子爵」になった。まだ騎士につく間もなく、爵位と領主の身となった。


 きっと王族は何かの理由で、すぐ「この身と領地を回収する」つもりだろう。14歳のロードルフにとって、そのくらいのことがわかる。


 何せ、ロードルフは成人でも力もない……無力な人間だ。


「これは恐らく、『運命』でしょう。ご主人様。」レイヤーは、慰めるつもりだった。


「『運命』……?」


「私たち、絶対結ばれない運命があると思います。だから……」


「アイツがやったことが俺らの運命だと?!ふざけるな!」ロードルフは怒っていた。自分の無力さに。


「申し訳ございません。ご主人様。僭越ながら、ロードルフ様は婚約者になってしまった以上、私たちはもうこのように喋ることができないと思います。ご主人様。」レイヤーは頭を下げた。この「運命」に。


「ふざけるな!ご主人様なんかやめろっつってんだろう!こんな『婚約』誰か認めるか!」


「王族が決めた以上、認めざるをえないです!ご主人様!」


「ふざけるな!」


「……すみません。ロードルフ……子爵様。メリーお嬢様のご来訪です。」一人の使用人がそう告げた。


「その方に帰れと言え!」


「しかし……」


「俺は……俺は――」


 レイヤーはロードルフの身体を強く抱きしめた。


「失礼な行動をとってしまい、申し訳ございません。しかし、ロードルフ様。私たちは……もう頑張るしかない、やるしかないです……」


 頑張るしかない、やるしかない……ロードルフはその言葉を反芻して、身体が震えている。


「大丈夫。ロードルフ様。レイヤーは、わたしはずっと、君のそばにいるよ。たとえ死んだとしても。」


 この年、二人の間では、乗り越えられない壁がたてられた。


 ****


「あら、辛気臭い顔をしていらっしゃる方ですわね。でも、容姿は悪くありませんわ。そうでしょう。執事。」メリーは羽扇を持ちながら、その隣に執事が立っていた。


 ロードルフの後ろに、レイヤーが立っていた。


「ええ。おっしゃる通りでございます。」


「いいでしょう。この『婚約』もさほど悪いことばっかりじゃないですわ。あなた、名前は?」


「ロードルフ……子爵。メリーお嬢様……一つ願いたいことがあります。」レイヤーはロードルフの服の一角を引っ張って、ダメという意味だ。


 しかし、ロードルフは拳を握って無視した。彼は、もう一度試してみたかった。


「何ですの?」


「……今すぐ、帰ってくれ。」


「あら、わたくしにそのような口調……まったく礼儀になっていませんわ。わたくし、伯爵令嬢ですわよ。」


「だから何だ。お前のことなんか、少しも興味もない!帰れ!」


「ご主人様!」レイヤーはすぐ阻止した。


 メリーはこの二人のことを見て、すぐはっとなって、羽扇で顔を隠しながら、目の部分だけで二人を見た。


「あらやだやだ……いやですわ。これではまるで、わたくしが悪人みたいではないですか。この『婚約』はわたくしが決めたことじゃないですわよ。怒るにしても、王族たちにしてくださいな。もし本当にできるならね。」


「……そんなの知るか!帰れ!」


「……執事!」


「はっ。」


 そして、ロードルフは一瞬のすきに、地面に抑えられていた。レイヤーも何もできなかった。


「ロードルフ様。あなたは自分の父上に教えられてませんか?自分の『感情』を抑えてって。」


「……『気持ち』ならとっくに抑えられている!じゃないと――」メリーはロードルフの言葉に、そして、その怒りに震えている体に、眉をひそめて、羽扇をスッと収まった。


「……これはひどいですわ。たぶんわたくしが何言っても、聞いてくれなそうですわ。そこの子!」メリーはレイヤーを呼んでいた。


 レイヤーは真っ青な顔で、メリーの前に行った。


「君は彼より賢そうですわ。一体どういうことでしょうか。ちゃんと言いなさい。」


「それは……」レイヤーは迷っている。今までのことを言うかどうか。


 メリーはその迷いに、何となく察していた。そして、はあと嘆いて、こう言った。


「わたくし、『婚約者』として、君たちのことを支持しておりますわ。『気持ち』として、君たちを助けたかったのです。信じてくれません?」メリーは両手でレイヤーの手を軽く包んだ。


 もし、誰かが君に助けてあげた時、迷わずその手を握ってなさい……レイヤーの心に、母さんの言葉が浮かび上がった。


 そして、ロードルフは、


「誰かそんな言葉を信じるか!聞くな!レイヤー!」と言った。


「はあ……『ロードルフ子爵』、わたくし、今あなたと会話しておりません。それに馬鹿ですわね。『貴族』の前に、このような『感情』をさらけ出して……レイヤー、君なら、わかると思いますわ。」


 ここは二人にとって、また一つ大きな分岐点だった。


「言うな!レイヤー!」


「わたくしが助けたい『気持ち』、信じてくれません?」


 レイヤーの心に、母さんの言葉が浮かび上がった。


「ごめんなさい。ご主人様。」


 何で謝る?ロードルフは一番レイヤーから聞きたくなかった言葉。これを聞いた瞬間、どこかに脱力感を感じた。


「はあ……まったく、わたくしに出会ったことに感謝しなさいな。他のところに言いましょう。レイヤーの子よ。」


「……おい!」


「あなたはいずれわかるようになりますわ。『ロードルフ子爵』。今の君はいかに無力な『人』であることを。そして、今のあなたは『貴族』であることを。執事、彼をわたくしたちの会話に邪魔させないでくださいませ。」


「かしこまりました。メリーお嬢様。」


 ロードルフは何もできないまま、レイヤーを見送ることしかできなかった。


 ****


 そして、レイヤーはメリーに今までのことを言い出した。


「ふん――今更、こんな『悪領主』みたいなことができる『貴族』がいたなんて……」


「しかし、本当なんです!」


「まあ、そうでしょうね。信じていますわ。しかし、よくわたくしのことを信じてくれましたわね。」


「それは……メリーお嬢様が助けたい『気持ち』と言いましたから。」


「……まったく、もしわたくしはそのように君をうまく利用したいだけだったらどうします?」


「それは……」レイヤーは考えてなかった。


「まあ、いいでしょう。別にしたくありませんもの。しかし、わたくしができることは『助けること』までよ。」


「……ありがとうございます!」


「いいですわ。彼もいずれわかるようになりますわ。他人に助けを求めることがどれだけ大切であること。そして、今の彼には色々ありすぎて、何もできませんでしょう。ちゃんと側にいて、支えてあげなさい。君の『言葉』なら、彼の『心』に届くはずですわ。」


「メリーお嬢様……誠に、ありがとうございます。」


「いいですわよ。しかし、普通の方法では、彼は受けられませんでしょう。レイヤー、一緒に考えてくれません?」


「……はい!喜んで!」レイヤーにとって、メリーは大事な恩人だ。


 メリーもこの二人の結末が見たかった。貴族と平民の愛、一体どのような結末に転ぶだろう。


 ****


「さあ、喜びなさい!わたくし、決めましたわ。君とそのメイドの関係を、ぶち壊しますわ!」


「……貴様!」


「悔しいなら、わたくしに抗ってみなさい!しかし、今の君には何もできませんでしょう。」


「俺は……」


「君にチャンスと与えましょう。わたくし、この後、『不老不死』のことを追求する予定があるのですわ。忙しいですの。だから、その執事、君に貸してあげますわ。」


「お前、ふざけているのか!」


 メリーはロードルフ子爵の言葉に傾けるつもりはない。執事に声をかけていた。執事は頷いた後、メリーは羽扇で顔を隠した。


「わたくし、伯爵令嬢ですもの。『貴族』というのは理不尽なやつですわよ。まさか君は自分のクソ親父から何も身につけてありませんか?ロードルフ様。」


「クソ親父……」


「その言葉が気に入りました?なら、精々使いなさいな。ロードルフ子爵。」


「それを俺に呼ぶんじゃない!」


「あら、あなたは今まぎれもなく『貴族』ですわよ。ちゃんと覚えておきなさい。罰として、あなたの『噂』を流しますわ。」


「はあ?ふざけるな!」


「ふざけてありませんわ。もし気に入らないなら、気にしなくてもいいでしょう。しかし、それではその子が守れるでしょうか?」


 メリーは羽扇でレイヤーのほうに指した。


 それを見て、ロードルフは悔しい感情がいっぱいだった。自分が無力だから。何もできないから……


「まあ、時々『婚約者』として、君に助力しますわ。あくまで『婚約者』としてね。」


「誰が……」何が言いたいが、ロードルフはすでに威張れなかった。自分の無力さに気付いて、泣きそうになっていた。


 レイヤーは心配な顔で、ロードルフの服を掴んだ。


「ご主人様……受け取りましょう。これは、きっと運命でしょう。」


 ロードルフは、もうやるしかなかった。頑張るしかなかった。大切な人のために。


「もしその子が大切なら、『貴族』に気付かれないように心しておきなさい。」


「お前に言われなくても……」


「さあ、精々足掻きなさい。ロードルフ様。いずれ、君は『心の余裕』が作れることに祈りますわ。」と、メリーは言いながら去っていた。


 そして10年が経った。


 しかし、この間、ロードルフができることは増えれば増えるほど、「心の余裕」どころか、自分すら、大切な人すら、見失いそうになってしまった。


 その「心の声」を聞くまでに……

ここまで書いて、自分の心まで病みそうです!

たぶんいいね、☆の評価をくれたら、安らぐになります!

是非押してね!

そして次話から、また人物情報の小話が増えます!

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