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鏡の前に質問を交わした日以来、二週間が経った。
私はロードルフ子爵とあまり交流することがなかった。
ロードルフ子爵は忙しい生活を送っている。
領地の経営、財政、貿易、外交、軍事、教育……そのほとんどの事務が一人でこなしている。
もちろん領地には、市長、町長、村長、また自治団体とかもあるが、最終判断は領主にある。
事務は大なり小なり、ほぼ毎日送ってくる。
重大な建設から、草の毟りまで領主に決断させる。
一度(なぜそんな無効率なことをするの)と聞いたら、
「王国の法律だから。」と返答された。
法律なら仕方ない。
彼の仕事に対して横槍を入れるつもりはない。適当な助言も状況を悪化するかもしれないし。
でも、身体が動けない。自分の身体じゃないから、何もできない。
ずっと無作為のまま、ロードルフ子爵の仕事を見ているから、私、少しつまらなくなってきた。
そして、人間は退屈になると、余計な考えが増える。
(私、何でここにいるの?)
(私、本当に生きているの?)
(誰か教えて、私は何のためにこの世界に生きている?)
ぽん!と強く叩いた音。
ロードルフ子爵が拳で机を叩いた。その手の痛みも私に伝わってきた。
「うるさい!意味のない質問をするな!」
(すみません。ただつまらなくて、つい考えてしまった。)
「は!勉強はそういうものだ!楽しく勉強したいなら、王族の宮廷闘争に巻き込まれろ。」
……?変な言い方だな。
(私は勉強しているの?)
「はあ?お前学生だろう?なら勉強するのは学生の本分だ。」
そうだけど……しかし、私が聞きたいのはちょっと違う。
(私……今勉強できないよ。)
ロードルフ子爵が私の言葉を聞くと、ビクッと動きが止まった。
そして感情も伝わってきた。怒りだ。
ロードルフ子爵は無言のまま、鏡の前に立った。
「貴様、ずっと俺様の身体にいるつもりか?」あの怒りの目つき、鏡を通して私に向けてくる。
(そのつもりはないよ。)
「なら、さっきの回答はどういうことだ!」
(そのままの意味だよ。勉強できない。)
「……もう一度聞こう。貴様、ずっと俺様の身体にいるつもりか?」
何となく察しがついた。そして、この問題はさっきと同じ回答じゃ絶対ダメ。
(もし原因が知りたいなら、その質問を変えてくれない?)
「言葉遊びはどうでもいい!俺様が何か言いたいのは貴様も知っているはずだ!」
はあ……
(だから?)
「はあ?」ロードルフ子爵は拳で鏡を叩いた。その力が凄まじく、鏡にもヒビが入った。
もちろん、痛い。感情や感覚も共有しているから、私も分かる。ロードルフ子爵は怒りのあまり、全身が震えている。
(ロードルフ子爵、あなたが怒っていると、知力が下がっているようだ。そして、すぐ暴力に頼る癖がある。)
その癖のせいで、自分の身体でも容赦はない。
もちろん、身体の中に「私」がいるから、「私」に対して怒っているのはわかる。
今は人がいないけど、外人から見れば、突然怒りだしているにしか見えない。そして自傷までする。
本当はお節介とかしたくない。ロードルフ子爵の態度も悪いから、あまり関わりたくない。
だから、あまり交流しなかった。
この二週間、一緒に暮らしてきたようなものだ。彼の人となりも、言いたいことも何となくわかる。
恐らく、彼の意味は「俺の事務を見て、少しても学習をしろ!勉強しろ!」ということだろう。
でも、それに従う義理はない。
なぜなら、私は「ロードルフ子爵」ではない。「黒井さな子」だ。
ロードルフ子爵がずっと無言のまま、「私」を睨んでいる。
ずっと怒るのもさすがに私も影響されるから、説明するか。
(私たちは協力する義務はあるかもしれないが、君の言うことに従う義理はないよ……)




