12
幕間の編。
バイアス王国、かつて「ランド王国」という呼称があったが、「ライン・バイアス」により、国名が一変し、国の名前をバイアス王国にしたという歴史があった。
「ライン・バイアス」という人物も、実は別の名前があり、その前身は「ベル・アイランド」という名前だった。
そして、国名が変わった途端、すぐ周辺国との外交関係を「友好」に結べたと発表し、百年以上の平和が続いた。
これらのことは、バイアス王国の人間であれば、誰もが知っていることだ。当然、騎士であるカイルも例外ではない。
カイルは、自分が住んでいる土地を治める子爵家により設立した騎士団に所属する騎士である。
決して戦争では使われず、ただ領民のために、治安のために、一小さな、少し名もない騎士団なのだ。そして、カイルはこの騎士団の中に騎士隊長になれたのだ。
騎士隊長になれた理由は、財政管理と人員管理、また学識があったから。このことはよく騎士の間に揶揄される理由になる。なぜなら、騎士団では、「騎士」になった人は「騎士の誇り」より、ほぼ「生活」のためにやっていた。カイルも同じだ。
「騎士」は、一つの「職業」だ。
その「騎士の誇り」は、騎士になる時、覚えなければならない一つの教え――「国の安全は騎士にあり、精神にある」と、「ライン・バイアス」が初めて騎士団を設立した大事な教えだった。
その教えが各貴族の領地になると、「領地の安全は……」になって、今はいろんな解釈が伝えられていた。
そして、その観念と各解釈により、今となって、「騎士」というものはただの「騎士」になったのだ。つまり、王族でも貴族でもない、一つの「職業」だ。
だから、今の騎士にとって、「騎士の誇り」精神はもはやただの飾りと化していく。「生活」のために覚えなければならないもの。
そのため、今日の領主の招集令、カイルを含め、騎士たちが一体何のために招集しているのか、まったくわからなかった。
もしかして、ロードルフ子爵もアレをやるのか……カイルはそう思って、心配していた。
ロードルフ子爵――この名前を聞いて、あまりいい顔をする人がいなかった。前の領主と比べて、かなりマシな人物だったに違いないが、あまり良い噂と素性が聞こえていなかった。
「冷酷者」、「乖離」、「心知らず」、また一つの噂も婚約者から流れていたそうで、貴族の間では「壁男」と呼ばれていたらしい。「人」としてあまり良くなかったが、政策と領地の仕事、他に安全面もうまくこなしていたため、ただの「領主」として、あまり嫌われていなかった。
ロードルフ子爵が何がやったとカイルは真っ先に思いつく仕事がこの二週間前、治安を維持するために、彼は50人近くの人数を率いて、領内の町と各村に巡回することだった。
騎士隊長の身分もあって、時々ロードルフ子爵と対面することもあった。だから、噂のことが本当だったってことは知っていた。一度彼と喋っていると、何でそういう噂があるのかということがわかるようになる。
そのため、カイルは本気で心配している。なぜなら、領主がこうやって騎士たちを招集するのは、あまり見たことがなかったから。
ただ一度だけ、カイルは招集されたことがあった。決していい経験ではなかった。
あれは前の領主がやっていたことだった。まるで鬱憤を晴らすために、全ての騎士たちに過度な訓練をさせていた。そのせいで、騎士たちが町中に、他に各村を見回る余裕もなかった。領地の治安が一時的に悪化し、処罰も受けられていた。とても理不尽なことだった。
そしてその後、なるべくどんな時でもキツイ訓練を耐えられるように、カイルは各騎士たちに身体の鍛えに要求していた。そのせいで、騎士たちに良く思われていなかった。そして、カイルは頭脳の良さが揶揄される対象となったのだ。管理の人材が「騎士の誇り」を持っていると。
もし、今回そのようなことがあれば、カイルはもう騎士隊長をやめることに決意した。
俺はただの「騎士」ではなく、自分も「人」だという気持ちの表明だ。
そして、パカラッ、パカラッ……
馬に乗っているロードルフ子爵が騎士団専用の広場に来た。ロードルフ子爵の身嗜みは騎士より、貴族領主にふさわしく姿だった。隣にいる人は一人の召使いと一人の馬の世話人。雑物とロードルフ子爵が使っている騎士の剣を持っている。
カイルは、ロードルフ子爵が騎士の姿ではないことに、恐らく領主としての話があると推測していた。
つまり、前の領主みたいなことをするつもりがなかったらしいと、カイルが安心した。
ロードルフ子爵が下馬の後、すぐカイルのことを呼んでいた。
「騎士隊長!」
「はっ!」カイルは応じながら、ロードルフ子爵の前に走って対面し、騎士としての敬礼――両手を剣の柄頭に置いていくように、右足を横に振って、左足にカンと踵の部分をぶつかること――をした。
「ここに集まった人は全員か!」ロードルフ子爵の声量が大きく、集まる騎士たち全員が聞こえている。
この確認に少し戸惑いながらも、カイルは答えようとしたが、
「……はっ!各村の騎士――」
「村はいい!今はこの町の騎士たちだけでいい!」
「はっ!失礼しました!見回り番と見張り番以外、この町にいる騎士たち、全員ここに集まりました!総人数520名、実人数460名が集まりました!」
「よろしい!」そして、ロードルフ子爵がこの言葉の次に言った言葉に、カイルは一瞬頭が空白になった。
「……ご苦労だった。」
え?
「は、はっ!とんでもない!仕事をしたまでです!」カイルは緊張していて、あまりいい対応ができなかった。この対応にロードルフ子爵は眉をひそめた。
「召使い!剣を!」
カイルはすぐ自分がやってしまったに気付き、内心が慌てている。ロードルフ子爵が礼を言うこと自体が珍しかったから、対応が思いつかなかった。かといって、どう訂正するのもわからなかった。カイルはそのままにしておきたかった。
だが、許されなかったかもしれない。
ロードルフ子爵はまだ「隊列に戻れ」と言わなかったから、カイルは勝手に戻ってはいけない。
「剣を」と言ったロードルフ子爵に、カイルは怖がっている。冷や汗もかいた。
まさか、対応が良くなかったから、傷つけるつもりなのか?カイルは一瞬自分も剣を抜いた方がいいのかと思ったが、次の瞬間、またわからなくなってしまった。
ロードルフ子爵が剣を取った後、召使いに「……ありがとう」と言った。
ありがとう?召使いに?
次に、その召使いが「大変光栄に存じます、子爵様。」と頭を下げて、右手を胸に45度、貴族の敬礼をした。
この動作を見て、カイルは一瞬何が起きたのかわからなかったが……すぐその本意に気づいた。
まさか、手本を見せてくれた、のか?と、カイルは少し信じられなかったが、すぐその召使いの動きと言葉に真似した。
「大変光栄に存じます!子爵様!」
「……次は騎士の敬礼で言え!隊列に戻れ!」
「はっ!」どうやら正しかったらしい。カイルはほっと安心して、騎士たちの隊列に戻った。ややおかしいと思ったが、とにかく安全だった。
隊列に戻る途中、騎士たちの目付きに少し嘲笑の感情が見えた。恐らく、今後はさっきの対応が馬鹿にされるだろう。カイルは何となくそう感じた。
ロードルフ子爵は剣を土の中に刺し、両手を柄頭の部分に置いた。視線が全員の方に一通り一瞥した。
「今日はここに来て、お前らに一つ大事なお知らせがある。」
これを聞いて、誰も疑問を露にしないが、内心では「何のことだ」と思っている。
「そして、喜べ!お前らに選択肢を与えるつもりだ!」
選択肢?
招集をして、大事なお知らせ、また、「騎士」ということは誰もが思っている……まさか、「戦争」とか起きるのか?
しかし、そのような噂は誰も聞いたことがなかった。だから、この言葉に、騎士たちは少し動揺していた。
「……びびるんじゃない!情けない様子を見せるんじゃない!」
まさか本当に「戦争」を……?と、次の話、誰も自分の耳に疑っていた。
「いいか。これはずっとお前らに聞きたいことだった。お前らは本当に『騎士』になりたかったのか?」音量の大きさは聞き間違いにならないほど、誰も意味がわからなかった。
え?どういうこと?
領主がおかしくなった?
戦争?いや、でも……
この質問は何のために?
ここで全員が動揺を隠しきれなかった。ひそひそとした話が一気に増えて、大きな声となった。
ロードルフ子爵は不満な顔で、すぐ「静かに!」と吼えた。
「お前ら、返事は?」ロードルフ子爵は同じく大音量で言った。
「「「はっ!ずっと『騎士』になりたいです!」」」騎士一斉に答えたが、ロードルフ子爵は冷笑した。
「嘘だ!お前らは騎士になりたくないだろう!」
「「「いいえ!騎士になりたいです!」」」
「ならば、これを聞いて、まだなりたいのか?」
騎士たちは疑問を感じつつ、ロードルフ子爵は次のことを言った。
「俺は『安全税』を取り下げるつもりだ!」
「安全税」を?誰も意味がわからなくなって、静かになった。
「どういう……ことですか?これはつまり、俺たちの給料は――」一人の騎士が言った。
ロードルフ子爵はすぐ口を挟んで、
「支払わないとは言ってない。そもそも、お前らの給料は王国と子爵家が支払っているんだ。つまり、『安全税』の部分を減らすんだ。このことは知らないとは言わせない。そうだろう!騎士隊長!」
ここでカイルが呼ばれたことに少々怯えながら、返答した。
「はっ!騎士の給料は、王国の支出+貴族の支出+安全税の体制です!つまり、ロードルフ子爵様は安全税だけ取り下げるつもりです!」
「そうだ!いい返答だ!これでわかったか。お前らは『騎士』になりたいだろう!ならば、『騎士の誇り』を持っているお前らに、金なんか無用だ!」
ここで、一瞬シンと静かになった。誰もよくわかった。さっきの問答が「罠」だった……でも、カイルはここで勇気を振り絞って、隊列の中に大きく騎士の敬礼をした後、ロードルフ子爵の注目を引いた。
「なんだ、騎士隊長!」
「……申し訳ございません!ロードルフ子爵様!俺は、実は『騎士』になりたくなかったです!」
カイルは少し前でおかしいと思った。だが、それは違和感があるだけの程度だから、気にしてなかった。
二週間前のあの巡回、ロードルフ子爵は「賊」の前に、「騎士の誇り」を聞いてきた。なぜ突然質問してきたのがわからない。
だが、さっきのありがとう……そしてご苦労だった……二週間前のことに加えて、カイルは一つ大胆な推測をしている。
もし、本当はこのことだけを伝えるためじゃなかったら、せめて自分だけでも――
「……ほう?では、お前はなぜ『騎士』になったか?」ロードルフ子爵のこの口調もあまり聞いたことがなかった。
ここでカイルは自分の推測に少し自信をもった。
恐らく、ロードルフ子爵は何かが変わった……性格とかじゃない、もっと本質的な何かが……きっかけは、あの「賊」たちなのか?どうでもいいが……
「俺は、『金』のために、『騎士』になったのです!」
沈黙。
ロードルフ子爵は少しふっと嗤った。他の騎士たちはカイルが終わったと思っていたが、
「そうか!素晴らしい返答だ。ならば、お前にいいものを与えてやる。俺の前へ来い!」
「は、はっ!」カイルはロードルフ子爵の前に行った。
ロードルフ子爵は地の中に刺した剣を持ち上げた。
まさか、本当は「いいもの」と称して、処刑するつもり?カイルの妄想に反して、ロードルフ子爵はその剣をカイルの肩に両方にトン・トンと叩いて、
「お前が誠実に話した勇気に、一つの『権利』を与えてやる。」と言った。
何が起きたかまだわからない中、ロードルフ子爵はまた召使いを呼んで、一つの四方形の札をカイルの手に握らせた。
「これは、『騎士』としての身分証明だ。これがあれば、俺の領内にいるもの、教育費用、他に生活するために必要な費用が減少される。すでに政策の通達を手配している。近いうちに、領内に広がるはずだ。」
「……は。」
「ちゃんとした返事ができないのか!」
「はっ!ありがとうございます!」
え、つまり……安全税を取り下げる処置として、騎士への生活費の減免、か?もちろんカイルにとって、これはとてもありがたいことだった。なぜなら、安全税は決して固定の数ではなかった。変数が一番大きかったからだ。
その変数の問題は、貴族の気分による、「適切な」安全税を与えている。つまり、給料が少ない時、それは「安全税」が少ないから……だから、「安全税」を取り下げる時、誰もが動揺していた。
しかし、今カイルにとって、「安全税」が取り下げることは、逆に待遇が良くなっている。
カイルは、少し疑問を感じながらも、手の札を強く握りしめた。
ロードルフ子爵は命令しなかったため、カイルは隊列に戻れない。
「これでわかったか?もう一度お前らに聞く、お前らはなぜ『騎士』になったのか!」
今回誰も返事しなかった。かといって、全員が「金のため」でも言えなかった。騎士になる目的はそれぞれだから。
「ふん……騎士隊長!」
「はっ!」
「あとは全員の目的を聞いてくれ!」
「かしこまりました!」
「そして、お前に『減免の権利』を与える。」
「その……その意味はわかりません!」
「適任するやつを探せってことだ!」
「かしこまりました!」
ロードルフ子爵はここで間をおき、全員の目線に気を配った。剣を握っている右手の食指が、剣の柄にトントンと二つ叩いた。
カイルは特に気付かなかったが、ロードルフ子爵はそのような手癖がついたのかと思っている。さっきも変な間や召使いを呼んでいる時、時々見てしまった。
「……そして、さっきも言った。俺はお前らに選択肢を与えるつもりだ。
お前らは決して『騎士の誇り』など持っていない。そのぐらいわかっている。だが、お前らは騎士になることは、ほとんど俺のクソ親父のせいだ。
わかっているか?お前らはなぜ『騎士』にならなければならないのは、俺ら『貴族』のせいだ!このくそったれの貴族社会にな!」
騎士たち全員はどう返事するかわからなかった。カイルも同じだが、静かに静聴している。
「だが、俺は『騎士団』を解散するつもりはない!お前らに申し訳ない『気持ち』があった!だから、俺は今日でここにお前らに問う!
本当に『騎士になりたいのか?』
さっきお前らの返答が素晴らしかった!しかし、それはお前らが『騎士』としての返答だ!俺が『領主』だからだ!
『俺』が聞きたかったのは『騎士』の返答ではない!今の『俺』は、『領主』としてお前らに聞いてるんじゃない!『人』としてお前らに聞いているんだ!」
誰も喋らなかった。しかし、その言葉が静かに誰かの心を掴んでいた。
「このことはよく覚えておけ!もし『騎士』がやりたくない人がいれば、やめればいい!だが、『騎士』をやめた瞬間、お前は守られるべき『民』である!その時、『騎士』に助けを求めればいい!
そして、どんな動機でも、まだ『騎士』としてやりたいならば、ちゃんと『騎士』として、安全に尽力すればいい!
しかし、俺は『騎士』に求めているのは、戦争上の英雄ではない!『領民』たちを守る『騎士』なのだ!『騎士の誇り』を持たなくてもいい!
人たちの安全を守ることこそが、領民たちの安全を守ることこそが、それらこそが『騎士にあり、精神にある』!わかったか!」
「「「はっ!かしこまりました!」」」
「……では、もう一度減免のことについて説明する。今回、お前らは同じようなチャンスがある。動機はどうであれ、騎士がやりたい人がいれば――」
ロードルフ子爵は説明し終わった時、持っている剣を土の中に刺した。
「その時、この剣を取ればいい!
そして、この剣を持って、騎士隊長に言え!
こいつはお前らより誠実であり、勇気がある!ちゃんと従え!『カイル』隊長!」
「……はっ!」一瞬戸惑いながらも、カイルは返答した。
「騎士がやりたい人数と、やりたくない人数を計算して、俺のところに届け。各村の騎士たちにも同じだ!ちゃんと伝えておけ!このことはできるだろう。」
「はっ!できます!」
「よろしい。ちゃんと見回り番と見張り番も伝えておけ。」
「かしこまりました!」
「お前ら!何か問題があれば、カイル隊長を通して、俺に伝えるんだ!そして、それらの問題を紙でもなんでもいい!とにかく覚えておけ!カイル隊長。」
「「「かしこまりました!」」」
「では、俺は帰る。カイル隊長。」
「はっ!」
「ちゃんとやっておくように。」
「かしこまりました!」
「……礼を言う。ありがとう。」
カイルは騎士の敬礼をして、「大変光栄に存じます、子爵様!」と言った。
ロードルフ子爵は馬に乗って、帰っていた。
もし、紙だけの通告だったら、恐らく騎士たちはわかってくれないだろう。直接来るということは、ロードルフ子爵も少し騎士団のことが気にしていた。
そして、何より、ロードルフ子爵に信頼されていた気がする。
礼を言う……ありがとう……やはり、ロードルフ子爵は何かが変わった気がする。
少し感動を覚えた騎士隊長カイルであった。




