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「あ?なぜ謝った?」
(実は、私は自分の「気持ち」を君に押しつけてしまった。)
「お前の『気持ち』?」
(そう。君の「気持ち」が無茶苦茶になるのは、あの犯罪者たちを殺す前に、私が「気持ち」を押しつけてしまったから。)
ロードルフ子爵はしばらく考えてから、言葉を紡いだ。
「この『気持ち』の意味は……『価値観』、いや、『意志』の方か。」
(ええ。それがやりたくないという意志。)
「やりたくない……そうか。だからわからなかったんだ、ずっと考えてもわからない部分が。お前が『気持ち』を押しつけてきたんだから。お前の『意志』が俺の『気持ち』と混ざったから。」
(そうだ。私は「価値観」を押しつけてない。押しつけたのは「意志」のほうだ。)
「なるほど。」
(あの状況は「仕方ない」ことだった。だから、ごめんなさい。)
私の言葉を聞いて、ロードルフ子爵は少し変な感情が芽生えたようだ。息が少し荒くなった。
「ああ。わかった。だが、それがどうした。俺も殺したくない気持ちがあったんだ。『仕方ない』ことだ。何で謝る?」
(私がそうしたかったから。)
「理由を言え、もっと具体的な理由を。」
(やりたくない気持ちがあるなら、私は謝らなければならない。)
「これだとあいまいすぎる!」
(悪いことをしたと思うから謝るんだ!)
「俺が『気持ち』を感じたのが『間違っている』と言いたいのか!」
(そんなことを言ってない!「方法」が間違っていると言っている!)
ロードルフ子爵は不快感を抑えつつ、手でこめかみに抑え込んだ。
「これは押し付けだろう!」
(そうだ!押しつけだ!だが、「押しつけ」を理由に謝らない人間がただのクソだ!)
「『押しつけ』を理由に……そういえば、お前……」
(たしかロードルフ子爵は「見た」よね。私の「つまらない人生」。)
元々不快な感情が複雑な気持ちになった。たぶん、ロードルフ子爵は思い出したのだろう。
(私はあんなの「なりたくない」。だから、私に謝らせて。ごめんなさい。もっといい方法で気付かせるべきだった。)
ロードルフ子爵は静かになった。複雑な気持ちは収まらない。恐らく、この状況にどう対応するかわからないだろう。
私はさっき理由を言いかけたことを思い出した。
(君は、さっき私に聞いてた。「犯罪者」は「人」として見る理由、外見だけじゃない理由を。)
「……ああ、そうだな。」
(それは、「犯罪者」が「気持ち」があるから。)
「それは決めつけ――いや、お前にとって、この方が決めつけか。」
(ええ。「人」は「気持ち」を「無視」してから「人」でなくなる。
「犯罪者」は、
どうして犯罪するか、
どういう関係で、
どういう理由で、
そして、どうしてその「被害者」を選んだのか、
絶対理由がないわけがないから。
たとえ他人から見て「つまらない理由」でも、それは「犯罪者」にとって「無視」できない「気持ち」だから。)
「……だから、『犯罪者』は『人』であると。」
(そうだ。むしろ、「犯罪者」は自分の「気持ち」が「無視」できないから、犯罪したんだ。
もちろん犯罪は良くない。私も犯罪者が嫌い。だけと、「人」にならない理由じゃない。)
「そうか。それについて、よくわかった。だが、今は……」
(ね、君は自分の昔のことを話した。私も言ってもいいかな?「言いたい」気持ちがあるんだ。)
ロードルフ子爵は少し間を空けて、答えた。
「……いいだろう。」
(私は小学二年生の時……つまり、八歳の時。パパと母さんが離婚した。)
ロードルフ子爵は静かに聞いてくれる。
(離婚のきっかけはパパの会社が倒産したからだ。生活のために、パパと母さんはずっとバイトしながら、職業を探していた。
しかし、パパは年齢のせいで、どの会社でも受け入れられず、なかなか見つからなかった。ずっとバイト生活で、何とか耐えたんだが……母さんが耐えられなかった。)
「確かに、お前の記憶ではそのような女性がいたんだな。」
(ええ。
母さんは元々パパの職業が安定だから、結婚してあげたと、離婚する時にそう言った。
パパの会社が倒産した後、自分も働かなければならなかった。そして、パパと順番で私の世話をしなければならなかった。
だから、母さんがこの生活が耐えられなかった。
「子持ちでバツイチの女性、良い男が見つからないから」と、私をパパに押し付けた。
「邪魔だから、近づかないで」と、いい目もくれなかった。
濃い香水の匂いがして、よく外出した。
そして、母さんはだんだんと、私とパパの存在を無視した。)
「なら、あの女はある時期で見えなかったのは……」やはり私の記憶全部見たのかな。それでも聞いてくれた。
(他の男を見つけたからだ。)
「……なるほど。」
(パパはそれ以来、ずっと私の世話をしていた。常に三つ以上のバイトを兼職しながら、私のことを良くしてくれた。
生理のことがあまりわからなくて、パパはバイトの女性の後輩に聞いた。
病の時、時間を割って側にいてくれた。もし時間がない時、必ず後輩に頼んでおいた。
母さんがいなくても、母さんが離れても、パパは離れなかった。
私にとって、パパは大切な存在だ。「気持ち」を知らせて、示してくれた大事な人だ。)
「あの女は……お前の気持ちを、無視したか?」
(……わからない。
でも、母さんはパパと順番で私の世話をする約束を守らなかった。ずっと世話の「ふり」をした。
「この子は私にはいらない子だよ」と他人との電話で言った。
「子供の父―さん、私もバイトしなきゃだから、この子を邪魔しないでくれる?」と化粧しながら、パパに押し付けた。
「ねえ、君自分は何もできないの?もう子供じゃないだろう」と何もくれなくて、他の男と出掛けた。
母さんの言葉は、一つ一つ、「わからない気持ち」が武器のように、私の「気持ち」に刺さった。
「私はいらない子」
「私は邪魔だ」
「私は何もできなかった」
あまり多くに聞いていて、少し現実性を感じなかった時期があった。そのため、私は一度だけパパに確認してみた。「私はいらない子?」と。)
「それは……」
(パパはとても怒っていた。でも、それは私にじゃなく、母さんにだ。
「子供に何を言っている!」
「子供でも人だ!」
あの時、初めてそんなに怒っているパパが見たんだ。だから、私はずっと泣いていた。パパは私の気持ちを無視してなかった……)
「……そうか。」
(その後、パパはすぐ母さんと離婚届けを提出し、小さなマンションに引っ越した。そして、私たちは最初に決めたことは――)
「『ルール』か。」
(そう。“家族でも、お互いの気持ちを無視しないこと。“、他にもいろいろあった。どれも、大事なルール。)
「じゃあ、お前のパパが言ったんだ。『人』にとって、大事なのは『気持ち』って。」
(うん。)
「あの連中は?あまりいい感じがしない女の連中……」
(まだマシなほう、一応形式上では謝ったから。噂が消えなかったけど。ただの関わりたくない人達。一生会いたくない人は母さんだけ。
そして、私はその人みたいになりたくない。)
「……そう。」
ロードルフ子爵は目を閉じて、気持ちを整理した。私も同じく、昔話のせいで、少し憂鬱になりそうだ。
そして、ロードルフ子爵は言葉を出した。
「いいだろう。理由がわかった。その『気持ち』の押し付けは君の勝手だ。だが、俺は応じるつもりはないぞ。」
(それがいい。そのほうがいい。)
「ふん。お前、本当に『それで』って言いたくないんだな。」
(君の「気持ち」を無視したくないから。)
「あっそう。」
(勝手すぎるだね。私たち。)
「ふん。勝手なのはお前だ。」
(そうなの?)
「はっ!なぜなら、俺は『怒らせ上手のロードルフ子爵』だ。平民と違う。」
ああ……なるほど。
(ロードルフ子爵様。)
「何だ?」
(あなたは「人」を怒らせるのがとても上手のようだね。)
「はっ!お褒めにあずかりありがとう。『罪悪感』の達人さん。」
本当……関わりたくない「人」だ。
でも、少しいいと思っている自分がいる。
「では、気持ちの整理もできた……そろそろ仕事の時間だ。」
(そうだね。では、私は――)
「何?隠れるつもりか?」
(え、でも私は何もできないよ……)
「何もできない?おい、『トロッコ問題』のことを忘れるんじゃない!仕事しながら、話を聞く余裕ぐらいできる!」
(あ、そうだったね。)
気持ちを得てから、ロードルフ子爵は「人」になった。
だが、それは性格が変わるわけではない。あくまで人の気持ちがわかるようになっただけだ。
ロードルフ子爵は知りたがる一面がある。感情的になりやすい。理解が早い。これらが変わるわけじゃない。
「人」は一瞬で変われる生き物じゃないから。
とても難産しました。
いずれ最初が書いたほうを番外編として出します。とても重い話です……




