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それは町から次の村へ行く途中で、現れた人逹だった。兵器を持って、悪い顔で恐喝してきた。
現実性を感じなかった。いや、「感じたくなかった。」
「人を殺す」感触……「何か」を引き裂く感覚……「赤い液体」から錆びた鉄の生臭さ……
思い出したくない、知りたくない、気持ち悪い、反吐が出そう。
だが、私の身体じゃないから、反吐が出そうもなかった。むしろ、何で彼は何も感じなかったのかが疑問だ。
「賊」の正体はわからない。平民か、騎士の成り果てか、それとも傭兵か、あるいは他領から来た民なのか、全部わからない。
だが、悪意を持っているのは確かだ。前もやったことがあった感じ、かなり手慣れた感じだから。
騎士団の人数は40人近く、召使いや馬を世話する人も含めたら、50人くらいいた。
対して「賊」は多くても20人くらい。人数の不利になりふり構わず、金と食糧を要求していた。
ロードルフ子爵はそれを応じせず、ただ馬から降りて、剣を取り出した。
ロードルフ子爵の剣を取り出した様子に、他の騎士たちも下馬の後、同じく剣を取り出した。
私は不安を感じて、すぐロードルフ子爵に話しかけた。
“(あの、その人たちにどうするつもり?)”
まさか私に話しかけられたと思わなかったようで、彼は一瞬動きが留まった。
“「騎士隊長!目の前にいる『奴ら』は何なのか、しっかりと答えろ!騎士としての誇りと教訓、まだ忘れていなかっただろうな!」”
あの時、私は止めたかったが、彼は騎士隊長を通して、自分の理由を述べた。
“「はっ!あいつらは『人』じゃない。領地の安全を邪魔する『賊』であり、『犯罪者』である!」”
“「では、『犯罪者』に対して、どう処置すべきか!」”
“「はっ!騎士として、誇りを持って安らぎの死を与える!」”
“「では、奴らに死を与えたくない『騎士』はこの場にいないだろう!」”
“「「「はっ!領主様!」」」”
彼は何が言いたがる意味がわかる。
“(「犯罪者」になる前に、「人」は「人」だ!罪を償い方法がいくらでもある!私は「人」を殺したくない!あなたの感覚が伝わってくるだよ!しっかり考えてよ!)”
もし、彼は「領民のためなら」という意味を含めた返事をしてくれたら、私は止める理由がなかった。阻止するつもりもなかった。
「人を殺す」ことに、相応な責任を負わなければならない。もし彼はそういう覚悟があるなら、私には阻止する理由がなくなる。
その時、私も一緒に命を背負うつもりだった。
せめて、その覚悟を私に――だが……
“「いい返事だ!いいか。こいつらは『犯罪者』だ!『人』じゃない。『領地』の『安全』を邪魔する奴らに『容赦』は『無用』だ!」”
その返事には、「人」としての「気持ち」がなかった。あくまで、「領主」としての「責務」を果たすだけなんだ。
無理……
彼は「皆殺し」と命令し、「賊」かもしれない「犯罪者」たちを一人も残らず殺した。
思い出したくない。
「人を殺す」感触……知りたくない。
「何か」を引き裂く感覚……気持ち悪い。
「赤い液体」から錆びた鉄の生臭さ……反吐が出そう。
だが、私の身体じゃないから、反吐が出そうもなかった。むしろ、何で彼は何も感じなかったのかが疑問だ。
やはり私には無理だ。
「平気」で「人」を殺すなんて、やはり彼は「人」じゃない。
どうすればいいかわからない。
ならせめて、「治安の維持」をする時、ここに隠れよう。
ここなら、感触が伝わらない。
知りたくないことを知らなければいい。私はそう思いながら、ここに逃げ込んで、「感覚」を遮断してしまった。




