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悪領主、自分の意志と戦う  作者: ヨガ
第三章
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2

 あの日以来、五日間ほぼ何こともなく経過した。時々挨拶、短めの交流くらいしただけだった。


 ああ、そうだった。思い出した。きっかけは執事の通知だった。


 ****


「子爵様。明日から『巡回の時間』でございます。子爵様の傷口の状況はいかがでしょうか。もう一度医者に診察させておいた方がよろしいでしょうか?」


「いいや、構わん。傷口はもう大したことじゃない。それより、ちゃんと通達を出したか?」


「はい。すでに三日前に手配いたしました。各村と騎士のほうも問題ないと返事してくれました。」


「そう。俺は一週間ここにいない。その間、事務と雑事はお前に任せた。」


「かしこまりました。」執事は右手を左胸に置いて、45度のお辞儀をした。


 (お礼を言った方がいいじゃない?)


 一瞬、ロードルフ子爵は何かが心からこみ上げてきたが、すぐ食指しょくしで軽く「トン」・「トン」と机に叩いた。


(うん……でも、お礼を言ってあげたら、彼は少し楽しくなると思うよ。)


「チッ。」


 そして、ロードルフ子爵は大きく息を吸って、ため息をつくように吐いた後、執事に「おい」と呼び止めた。


「はい。子爵様はまた他に何かご用事がありますでしょうか。」


「……ありがとう。これだけだ。」


「あ、はい!光栄に存じます!」執事は再びお辞儀をした。今回の動きは大きくて深かった。何となくうれしい雰囲気が伝わってきた。


「もう下がるが良い。」


「かしこまりました!」執事は部屋から出ていった。


 執事が出た後、ロードルフ子爵はすぐ不満な口調で私に言った。


「……あいつらの仕事だ。何で礼を言わなきゃいけない。」


 (仕事でも当たり前視しない方がいい。事務の仕事を任せたらなおさら。不満が生じた状態で仕事の支障が出る。)


「なら執事はまだいい。他の使用人はどうでもいいだろう。」


 (同じだよ。屋敷の人間たちだからこそ、いずれ私がバレてもおかしくない状況を作りたかったの!)


「ならあいつらと仲間になってどうする!意味ないだろう!」


 (意味あるよ!前に言った通り――)


 この五日間、「ルール」が二つ増えた。一つは仮ルール、もう一つはお互いの評価に関すること。


 前の仮ルール→「ルール」:


 7.相手が同意・許可されない限り、勝手に相手の記憶・知識・経験を見てはいけない。ここ『見る』の定義は、あらゆる方法でその物事を『知ってしまった』という意味。


 8.なるべく手伝ってくれる人たちにありがとうと言いましょう。わからない時・言うべき時、ちゃんと指摘しよう。


 そして、第7条はともかく、第8条の項目について、やはり私たちは「ディスカッション」した。


 最初、彼は「お互い」のためにならないだろうと言いつけた。だが、私はいずれ身体を借りる必要がある。


 今はまだ心の準備ができていないが、ロードルフ子爵が他人にとっての心の地位――つまり、他人にとっての「重要性」を上げなければならない。


 他人との「関係性」を築かなければならない。


「私の方がいい」、そういう考えをさせたら、私たちにとって「デメリット」しかない。


 仲間になってほしいが、「ここに残って」と思わせたら、話が変わる。


 私が欲しいのは、私の気持ちを理解できる、帰る方法を探してくれる仲間だ。「ここに残って」と思う人たちじゃない。


 だから、ロードルフ子爵の評価を少しでも上げてほしい。「お互い」のために。


「もういい!前が言っている意味はすでにわかった。繰り返さなくていい。」


(ええ。そうだね。私もそう思う。それより、この交流方法は悪くないだろう。)


「……ふん。このくらいなら、俺も考えられる。」


(あっそう。)


 そして、私たちは他に「他人がいても交流できる」方法を考えた。


 私は主に中で話しかけるから、この状況を利用するしかない。つまり、二人だけの「暗号」を作ったのだ。


 食指で一回叩いたら「しない」という意味。二回叩いたら、「理由を言ってから判断次第」。三回叩いたら、「必要があれば状況次第」。彼は「無条件ではい」するつもりはないようだ。


 一応理由としては「それだとお前の『命令通り』になるだろう!ダメだ!」と。


「ルール」では意味があればって話だが、ここの解釈はお互いにとってグレーゾーンだから、尊重した。


 仕事に戻るロードルフ子爵、私は気になることを聞いてみた。


 (あの、ロードルフ子爵。)


「なんだ。」


 (騎士団の巡回は……何をするつもりなの?)


「当たり前のことを聞くんじゃない!『治安の維持』だ!」


 治安の維持……


 ****


 ああ、そうだった。思い出した。きっかけは執事の通知だった。


「治安の維持」だった。


 あの時、現代のお巡りさんがパトロールしている感覚で考えてしまった。


 しかし、間違えた。医療と衛生は現代寄りだから、刑罰の政策もかなり現代寄りじゃないかと考えてしまった。


 だが、治安の維持は、「賊を殺す」ことなのだ。


 私は、「人を殺す」ことに受け入れられなくて、「ここ」に逃げ込んでしまった。


 私は、共有した「感覚」を遮断してしまった。

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