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翌日になった……と思った。
目?を開けて、知らない空間だった。見覚えないところ。狭くて、窮屈な空間。
でも、何となく空があるような、ないような……気がする。靄がかかって、あまり認識できなかった。
外なのか?違う。一瞬頭からよぎった考えをすぐ否定した。
また、景色は自分の「目」で見たものなのかはわからない。自分の身体の様子を確認したかったが、手も足も見えない。恐らく、これは普通の視覚情報ではない。
そして、試しに自分の身体を動いたが、「動いた」と思った。しかし、それも確認できなかった。
どうやらここでは、全ての五感が朦朧のまま、はっきりとしない。
絶対怖くなるはずの感情が不思議と落ち着いている。
ここはどこなんだろう。私はどうしてここにいるの?
「変だな……あれ?」自分の声が出せる。何で?
いや、これも普通の聴覚ではない。これは「黙読」に近い声、いわゆる「心の声」みたいなものだろう。
現に「聞く」というより、「感じる」と言ったほうが正しい気がする。
自分が質問した問題を、自分が解決した。
おかしいけど、落ち着いている。怖くなるはずだったけど、冷静だった。何もかもあやしいところに、正常だと思っていた。
だが、明らかに変だ。
私は「フラフラ」という感じで、この「空間」に「歩いてみた」。まるで「想像の世界」に迷い込んだ感じだ。でも、悪くない。
少々不気味な空間だが、落ち着けられる。
そして、一歩「歩く」たび、何かが自分の「身体」に入った。
「瞑想」、「心の空間」、「潜在意識」、「並存」、「ルール」、「自分を守るための手段だ」。
あ、そうか。ここは「心の空間」だ。明確な空間ではない、イメージされたところなんだ。だから「五感」より、「感覚」が一番感じやすい。
では、なぜ私はここに?この心の空間は誰が作ったの?私?ロードルフ子爵?いや、一人だとあまりピンと来ない……まさか、「私たち」――ええ、そうね。これが一番しっくりくる。
どうやって作ったと思った矢先に、また答えがすぐ出てしまった――「ルール」だ。
「ルール」によって作られた「心の空間」だ。だから、落ち着けられる。
では、本題:私はどうしてここにいるの?
この問題だけ、答えが出てくれない。
いや、答えがあった。
「思い出したくないことがあるから」
何のことだろう?一体何がおきたのか?
私は少しずつ、自分の記憶を探ってみた。
****
「おい。心の準備はまだか?」
(……ごめんなさい。やはり無理みたい。)
「どうしてだ?一体何に怯えている?ただの恐怖心じゃないだろう!」
(それは一つの要素だけじゃない!)
「なら、一つずつ言うんだ!説明するなら、そのぐらいできるだろう!」
(そうね……まず、自分が消えそうな感覚だ。これはロードルフ子爵も感じたことがあっただろう。)
「ああ、確かに最初の時にそういうことがあったな。気持ち悪ぃんだ。だが『ルール』を決めたんだろう。お前のことなんか干渉するつもりはない。」
(もしそれだけならまだいい。問題は「気持ち」のことと一つの「推測」なんだ。)
「また『気持ち』……それはわかった。『推測』は何だ。」
(これはあくまで仮設の話だ。もし、「私」がよくあなたの身体を貸して、あなたの「身体」に馴染んでしまったら、私は「私」でいられるのか?)
「……はあ?」
(人格にも整合や融合の話がある。もし、あなたの身体に馴染んでしまったら、私は戻れない可能性が十分ありえる。
もちろん確証がない。だが、私の直感がそう伝えた!「慣れてはいけない」と。)
「直感……」
(ええ、直感だ。あなたが信用できなくてもいい。でも、私はこの「直感」を信用するつもり。)
「それは何の直感だ。命の危険か?俺と『自分が消えそうな』感覚と似てるのか?」
(うん……たぶん「自分が消える」というより、「自分じゃない」感覚のほうが似てるかもしれない。)
「『別人になる』という感じか?」
(そうね。そのほうが一番しっくりくる。)
「そうか。だが、自分の文字が書けるかどうか、これも大事なことだろう。やれることが雲泥の差だ!
それに、仮設の話と言ったか。では、お前は馴染まざるを得ない状況だったら、どうするつもりだ?俺が消えたら、お前はどうするつもりだ?」
(それは……)
「お前は何に対して心配しているのかわかった。だが、仮設の話に前提を知る必要がある。お前の前提は『直感』しかないんだよ!」
(わかっている!だから心の準備が必要だ!やらないとは言ってない!)
「チッ!もういい。進展がなさすぎる!俺は仕事する!」
(ええ、早くそうしてください。)
****
ううん……これじゃない。この記憶じゃない。
確かに少し苛立ちしたけど、ここに入る理由にならない。
もっと、もっと嫌なことだったはず……
私はまた記憶を探ってみた。