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(あなたとメリー伯爵との関係がわかった。でも、これだと少しわかりにくい……婚約者なのに、嫌われているの?)
ロードルフ子爵はしばらく沈黙して、手も止めて、少し説明したくない「気持ち」があった感じだ。
これは無視できない。
(説明したくないなら、言わなくても――)
「いいや、いい。簡単な話だ。この『婚約』は俺らが決めたわけじゃない。」
(ええと、「政略結婚」という感じ?)一応授業で聞いた覚えがあるが、ここで使うのかな。
そういえば、ロードルフ子爵のパパはどこにいるだろう?まだ見たことがない。
「政略ね、確かに『政略』だ。だが、『王族』の政略だな。」
王族の……
話が複雑そうだ。
(複雑そうだね。)
「そんなに複雑じゃない。アイツが『負けた』。『集中派』のやつらに。」ロードルフ子爵は再び図形を描いている。
(アイツとは?)
「俺の親父だ。」
(「負けた」という意味は……死んでいたの?)
「ああ、だから、領地と爵位は俺が引き継いたんだ。そのぐらい察しろ。」
(うん、ごめんなさい。では、あなたの婚約は「集中派」が無理矢理に押し付けられたということ?)
「そうだ。」
(なら、なおさらメリー伯爵に嫌われる筋が見当付かない。同じ押し付けられた仲間だよね。どうして?)
「『あの女』は『権利派』の人だ。」
あ、「集中派」の目的は何となくわかってきた。ここで「派閥」のことを口に出したということは……
(ロードルフ子爵の父さんは「分配派」の人?)
「そうだ。」
(つまり、「集中派」の目的は「勢力」の削りだね。なら、メリー伯爵にも何か「目的」があるってこと?)
「ああ。『あの女』、『不老不死』を求めている。」
「不老不死」、不穏な感じしかしない。
古代から、「不老不死」を求めていた上位者、ほとんどまともな人ではない。決めつけは良くないが……
(なるほど。メリー伯爵にとってあなたは「目的」を妨げる人物だね。)
「ああ、そうだ。そもそも、そんなものはない。馬鹿げた話だ。」
だんだんわかってきた。それだと、「不老不死」を求める原因が……
(どうしてメリー伯爵は「不老不死」を求めているだろう?)
「知らん。だが、『ライン・バイアス』も『不老不死』を求めていたそうだ。」
(「ライン・バイアス」、どうしてここでその王様の名前を?)
「歴史学者の憶測だ。貴族の間に『不老不死』を求める『流行』は、その王様が発行したかもとのこと。現在、『権利派』と『権利派』に付く貴族たち、ほとんど『不老不死』を求めている。」
(なるほど。ちなみに、歴史学者は王族や貴族の人たちなの?)
「ああ、大半は『権利派』の人たちだ。」
あ――少しわかった。
つまり、歴史学者は賢明な王様でも人間って言いたいかな。そして、それを理由に自分の行動を正当化するということ。
(ロードルフ子爵はその憶測に信じないのか?)
「ただの憶測だろう。信じるも何も、そんなこと意味がない。ただ『不老不死』なんてないってことを知っていればいい。ライン・バイアスは死んだだし。」
(そうね。)
「他に質問あるか?ないなら他国の派閥を説明する。」
(待て、それでも原因として薄い気がする。メリー伯爵はなんでそんなあいまいなことを信じるの?)
「知るか!俺と関係ないことだ。お前こそ、なんでそいつのことを聞きまくったんだ。お前も不老不死になりたいのか!」
(違う!メリー伯爵はあなたの婚約者だよね。この屋敷の人間たちの次に、一番関係ありそうな人だ。あらかじめ知っておいたほうがいいと思っている。)
「ああ……そういえば、お前は他人に知られたくないだな。」
(ええ。それに、不老不死という言葉を聞いて、私もどうにも安心できない。あなたも「不老不死」のことなんかやめさせたいよね。)
「……そうか。まあ、確かにお前の言う通りだ。教えてやってもいい。『あの女』の性格ややり方くらいわかっている。」
(お願いします。)
「だが、知ってたらどうするつもりだ?まさかあの女と『仲間』とか友達とか作ろうって言わないだろうな。」
(そんなこと言わないよ。でも、確かにあなたしか頼めないと思う。彼女を変えさせるんだ。)
「ほう……そんなことを言って、さぞかし自信があるってことだろうな?」
(いいえ、確証はないけど、確かに考えがあるよ。そのために、彼女のことを知る必要がある。)
「なるほど。では、後で仕事しながら教えてやる。今他国の派閥のことだ。」
(わかった。)
そして、ロードルフ子爵は一通り他国の派閥について説明した。
“〇”以外の国、ほとんど「主義の主張」と「政治体制」のことを言っている。派閥も大体大きく分けて二種類。
そして、〇国だけ、少し詳しく説明してくれた。
〇国:
政治体制 代議民主制
主義の主張 民の意志が一番であること。
派閥 貴族派;民主派
貴族派:能力がある貴族こそ、国の経営ができる。
民主派:民なき、国なき。民こそ国の根幹である。
まるで、民主国家へ転換している途中だな。
「ちなみに、『事例』の侯爵の次女もこの国から来たものだ。二年前なら、まだ生きているだろう。」
なるほど。だから詳しく説明したんだ。領地との距離も近いから、これも原因かもしれない。
あと、外交の補佐、ロードルフ子爵自身も外交する必要があるかもしれない。
(ありがとうございます。)
「だからお前のためではない。これはお前に手伝わせてつもりだったことだからな。」
(ああ、あなたが言った手伝えのことね。いいよ、手伝っても。)
「……どう手伝うつもり?『表』に出たくないだろう!」
(出たくないけど、それでも手伝う方法があると思う。そもそも、一つ気になることがあるんだけど、ロードルフ子爵はどんな方法で私に手伝うつもりだったの?)
「『俺のふり』をするんだ。」
(それこそ無理じゃない?人の動きなんて簡単に真似できないよ。)
「ああ、だから気が変わったんだ。お前はそんな器用な人じゃないだとわかった。」
(うん――ひとまずどう手伝うかは後にして、他に説明する必要があることはある?)
「しばらくないだろう。そろそろ仕事の時間が惜しい。『あの女』のことは仕事しながら教える。」
(ならお願いします。)
返事はしないが、ロードルフ子爵は仕事しながら、メリー伯爵について説明してくれた。
そして、一通り聞き終わったら、私はやはり変えさせる必要があると確信した。