2
「おい!答えろ!」男性は鏡に向かって、自分と会話しているように見える。
しかし、「私」は分かっている。その言葉は「私」に対するものだ。
つまり、「私」は認識されている。この「男性」に。
うん、この状況を飲み込めるには私にとって難しい。ぶっ飛んだ思考力がなければ、いきなり分かるようなことができない。
とりあえず、交流を試みよう。
「私」はちょっと体を動かし、口を開くつもりだったが、体は突然「私の意志」を背いて、怒り顔を出している。
「勝手に俺様の身体を動くな!気持ち悪ぃんだ!」そして男性が鏡に向かって拳を振った。
いたっ!
えっと、話がしたいだけなんですが……でも、聞いてくれない。そもそも交流すらできていないし。
「もう一度聞こう、俺様の身体にいる貴様は誰だ!あの女の手下か!」
あの女?誰のことなのかわからないが……でも、これはかなり面倒だな。ちゃんとしたコミュニケーションが取れない。
他の交流方法は……うん?待てよ、もし身体の感覚が共有しているなら、「思考」も共有できるのか?試してみよう。
えっと……
(えっと……)
「ほう、やっと答える気があったか?さあ、貴様は誰だ。さっさと言え!」
(なるほど!こんな感じで感知してくれるのね。)
「……貴様、ふざけているのか?」
(ああ、いいえ!私はただコミュニケーションをどう取るのかわからなかった。)
「は?勝手に人の身体に入りやがって、よくそんなこと言えるね。」
(ええと、信じがたい話かもしれないが、今どういうことなのか私もよくわからない。)
「適当な嘘を言うな!」
(私は本当のことを言っているよ。まず、あなたは誰なのかもわからない。名前を教えてくれる?)
男性は少し静まってから、口を開く。
「……先に質問したのは俺の方だ。お前の方から先に言え。」
あ、口調が変わった。質問の意図がわかってくれた?でも、態度が悪いね。
(私は黒井さな子、日本人だ。)
男性の様子から見て、多分外国の方だろう。一応国籍も言っておいた。
「どれも聞いたことがないな。お前本当のこと言っているのか?」
(本当のことを言っているんだよ。そして、あなたは誰?)
「ふん、ロードルフ子爵だ。覚えておけ。」
(覚えておく。)
しかし、出身地教えてくれなかった。まあ、この状況からすると、たぶん言ってもわからない地名だろう。心理状態のために、また精神衛生上のためにも、今は余計な情報を取り入れたくない。
「それで、何で俺の身体の中にいる?俺様の身体を奪うつもりか?」
何だろう。結構警戒されているからかな。質問の仕方は所々に罠が感じられる。
(えっと、まず、私は何もわからないから、どう答えればいいのかわからない。)
沈黙、それとも様子見だろうか。ロードルフは何も喋らない。
(あなたの質問に答えたいが、何であなたの身体にいるのか、その原因も私が知りたい。そして、その「身体を奪う」とのことだが、ここでは「よくあること」なのか?)
ロードルフは眉を皺めながら、不機嫌そうな顔をしている。
「そんなの知らん。お前に答える義理はない。」
つまりあるのか。でも、決めつけは良くない。
(では、今回私が質問するね。)
「は?そんなこと勝手に決めるな!」
(しかし、情報を交換したほうが、お互いのためにもなると思う。)
「お前はさっきから『わからない』とか、『知らない』とか、そんなことばっかりだ。参考になる価値もねえ。」
参考になる価値か。
(なら、なおさら私に質問させた方がいいだろう。)
「あ?」
(質問も一つの情報になる。さっき、あなたも読み取ってくれたよね。私が名前を聞いている時。)
「ああ、それがどうした。」
(私はあなたと交流したいから、警戒心を解くために、あの質問をした。しかし、それは全て解いたわけじゃない。あの多重質問は警戒心の証拠だ。)
「ふん。」ロードルフは冷笑した。
仕方ない、今私はただ当たり前のことを言っている。
(しかし、それだけじゃ困る。私も情報が欲しいものだ。このままあなたに質問されるだけだと、お互いずっとわけがわからない状態になる。なぜなら、「君の質問」に参考になる価値がない。)
「は!よく言うな。じゃあ、なんだ。俺様がのこのこと警戒心を解いて、貴様に身体を奪われるってか?」
(ううん、私が言いたいのはあなたが「前提に基づく」質問をやめてほしいとのこと。警戒心を完全に解く必要はない。私は何が目的を持ってあなたの身体にいたわけではない。何も知らないまま突然いたのだ。)
しばらく沈黙が続いた後、ロードルフは言った。
「わけわからないな。でもいいだろう。質問を許そう。頭が悪くないようだが、間抜けな奴に違いない。」
それに、嘘にしては雑すぎる。俺に気づかせて、その上信じてほしいと言ったら、ただのアホか、間抜けか、あるいは本当なのかだ。どのみち、脅威ではない。↑
……どうやら、説得ができたようだ。でも、↑あれはロードルフ子爵の心の声か?何で突然わかるようになったのだろう。
「早く質問をしろ!」
仕方ない。まず聞きたいことを聞こう。
(ここはどこだ?)