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幕間の編!
放課後、黒井さな子と前田良奈二人が一緒に帰宅している。
「本当、私の家に来たいの?」と黒井さな子は少し疑問を感じながらこう言った。
「うん。行きたい!」
「私の家、本当に何もないよ。」
「ううん、家のことは大丈夫!私はただもっとさなちゃんと仲良くなりたい!」前田良奈は決意が固い様子で言った。
前田良奈のその様子に、黒井さな子も少し断られなかった。肯定したかった。
黒井さな子はディベート部に入ってから、二人が少しずつ親睦を深めた。学校ではよく話し合っていた。中学の時と違って、二人が「友達」になった。
最初は一緒に帰る道の途中で別れただけだった。でも、この「一緒に帰る」ことをきっかけで、前田良奈は学校でだんだんと黒井さな子に話しかけた。
少しオロオロで不安な感じで、しかしまっすぐな言葉、その言葉にこもった「気持ち」は嘘偽りなかった。
あの時もそうだった。
“「うん?どうしたの?」
「……えっと、一緒に帰ってもいい?それと、今後も、部活の時間が終わったら、一緒に帰ってもいい?」”
そのまっすぐな目に、不安を感じながらも、真摯と向き合っていた。太陽が沈む前に、その光も眩しく感じた。その時、黒井さな子はちゃんと感じた。
前田良奈は勇気がある人だ。そして、その「気持ち」に、その「勇気」に、黒井さな子は肯定の返答をした。
その場の勢いで答えてしまったが、あまり後悔しない。恐らく、自分もその「気持ち」があったんだろう。と黒井さな子は考えていた。
そして、あれから二週間後、間もなくゴールデンウイークになる時期、少しの間、二人は会えなくなる。
黒井さな子はスマホが持っていないため、交流することが難しい。
一応携帯を持っているが、電話代がかかるため、あまり使わないようにした。それで、前田良奈は黒井さな子の家に行きたいと提案した。
「わ、私は、よく寂しく思うから、ちょっと、休み中でも、さなちゃんとお話ししたい、会いたいので……」
気持ちとしては嬉しい。正直、断りたくない。しかし……黒井さな子は迷っていた。
中学の時、似たような状況があったから。
“「ねえ、さな子。私、さな子の家に行きたいな。いい?」”
当然、前田良奈はあの時との全然違う人物なのだ。その人物も前田良奈と友達の関係じゃなかった。
しかし、似たような状況に、黒井さな子はやはり躊躇ってしまった。
「も、もし、あなたの家じゃダメなら、私の家も、いい!お金なら、私が出せる……」
「ううん。お金の問題じゃないよ。でも、そうね……」黒井さな子は少し間を空けて、問いただした。
「本当に、私の家に来たいの?」
「うん。行きたい!」
「私の家、本当に何もないよ。」
「ううん、何もなくても大丈夫!私はただもっとさなちゃんと仲良くなりたい!」
そう、か。
「そう、ね。私もたぶん少し寂しく思うよ。本当に来たいなら、部活が終わるまで、待ってくれる?」ごめん。少し試したような言い方を言った。でも、本当に部活があったから……大丈夫。
「わ、わかった!待つ!」
実は、“今日は用事があって、先に帰りたい”、と先に部長に言えばいい。部長と副部長も優しいから、許してくれる。
実は、住所だけ教えれば、“休みの時にいつでも会えるよ”、と言えばいい。いろんな方法があった。
しかし、「気持ち」を確かめたかった。中学のあの時と同じくならないように。
黒井さな子は、また一歩引いてしまった。
そして、部活の時間が終わって、前田良奈が待っていた。
もし、前田良奈が先に帰ったら、黒井さな子は何も思わなかっただろう。それなりの時間だ。文句を言わない。
でも、その待っている姿に、黒井さな子は動揺した。
「前田さん……待たせてごめんね。」
「ううん。大丈夫。私が行きたいから。」その微笑みに嘘偽りない。
「……そう。ごめんね。」
「い、いいえ、大丈夫!気にしてないから!」
黒井さな子はこの言葉を聞いて、しばらくしてから、少しふふっと笑い出した。
「……立場が逆転したね。」
「え?どういうこと?」
「ううん。わからないならいい。その方がいい。」
「そうなの?」
「うん。それより、もし私の家にいる時、つまらないと思ったら教えてね。その時送るから。」
「え、いいのよ、別に気にしなくても……」
「ダーメ。その時ちゃんと教えて。何かに無理するのが良くない。私と仲良くなりたいなら、このことはちゃんと覚えて。」
「わ、わかった!」
「うん。じゃ、私の家に行こうか。」
そして、黒井さな子と前田良奈二人が一緒に帰宅していた。
****
「……1Kアパート。」と前田良奈は目の前の建物に独り言を言った。
「うん?見たことがないの?」
「あ、いいえ!大学生の兄さんがいるから、見たことがあるよ!」
二人が会話しながらアパートの階段を登っている。前田良奈は少し周りの景色を見た。
決して悪い環境ではなかったが、いいほどでもなかった。少し普通の感じ。
その挙動はもちろん、黒井さな子も見ていた。
「その兄さんは一人暮らし?」黒井さな子は言いながら、鍵を取り出した。
「え、はい!」
「じゃあ、こっちは人数的に勝ったね。」黒井さな子は笑いながら言った。
前田良奈は一瞬反応できなかったが、はっとなって、「あ、冗談を言っているんだ」と思っていた。
「さあ、入って、あまり見世物がなくて申し訳ないけど。」黒井さな子は靴を脱いで、玄関のところに置いた。
「だ、大丈夫!」前田良奈も同じく置いた。
そして、中に入ったら、まず果物の香りが伝わってきた。少しマンゴーみたいな匂い、しかしそれは他の匂いと混ざっている。まるで……歯磨き粉。
「ちょっと果物の匂いがする、それは……」前田良奈は気になって聞いてみた。
「ああ、浴室からかな。もしかして嫌い?」
「いいえ、ちょっと気になっただけ。」
「じゃあ、ちょっと紹介しようか?こちらはバスルーム。」
「あ、はい!」
そして、前田良奈は黒井さな子の紹介によって、浴室のほうを見たら、三点ユニットバスだった。空間も狭い。
「私は、マンゴーの歯磨き粉を使っている。果物の匂いはあれかな。」
「そ、そうなんだ。」
「ここはリビング――」リビングの空間は比較的に大きい。だが、それだけだ。必要な家具だけ揃った。
テレビ:一応朝のニュースや気象を見ている。
クローゼット:共有制。ちょっとスペースを分けて区別するくらいの感じ。
冷蔵庫:なるべく節約するために、ほとんど自炊することが多い。
小さな机:いろんな雑事がここで済ますことが多い。
二人分の布団:机をどけて、床で寝る。
それでも、二人がいると、少々狭く感じる。
「――これくらいかな。どう?本当に何もないよね。」
「ううん。全然。ありがとう。紹介してくれて。」
「……そう。こちらこそありがとう。そう言ってくれて。」
「え、私そんな大層なことを……」
「あなたがそう思ってくれることが嬉しい。素直に言ってくれて嬉しい。ずっとこう言いたかった。」
黒井さな子は少し照れくさそうな顔をしていた。前田良奈も聞いてから、照れた顔をした。
「そう、ですか。」
「うん。」
そして、二人が沈黙した。少し気まずく、しかし心地良い空気だった。
それで、沈黙の空気を破ったのは黒井さな子だ。
「はは、さすがにずっとこのままだと良くないね。何する?宿題をする?」
「そうね。それがいいと思う!」
「じゃあ、水を準備するね……あ、お茶出せないけど、大丈夫?」
「大丈夫!」
黒井さな子は頷いて、コップに水を注いだ。
「ええと、そういえば、さっきさなちゃんは『人数的』って言ったけど、ここ何人に住んでいるの?」
「私とパパ二人だけ。」黒井さな子は机の上にコップを置いた。
「そうなんだ。パパと仲がいいだね。」
「うん、パパと仲がいい――あ、違う。父さんと仲がいいんです!」
珍しく慌てていた黒井さな子に、前田良奈は少し面白がっていた。
「別にいいのよ。可愛いと思う。」
「いや、それは子供っぽいということでしょう……」黒井さな子は少し困った顔で、気まずそうな感じがした。
「少しね……でも、それはつまり、さなちゃんにとって父さんはとても安心できる存在だよね?子供っぽいところを示しできる存在、とてもいいと思うよ。」
「そう、思う?」
「うん。そう思っている。それに、前からちょっと、思っていることがある。実は、さなちゃんはわりとドジな一面があるねって。」
「あ、それ言わないで!恥ずかしいから!」黒井さな子の顔はもはやリンゴのように真っ赤になった。恥ずかしくて恥ずかしくて、黒井さな子は両手をバツのような形にして、強い意志を表明した。
「わ、わかった!言わない。」
一つ、休憩時間、黒板の板書を消すとき、一つ内容が取り忘れていたようで、彼女はノートに書き終わった後、そのノートをそのまま教壇の上に置き忘れた。
もう一つ、トイレを済ました後、スカートのめぐりに気づかなくて、パンツに挟まれ、トイレから出ていく前に、完全に丸見え状態だった。もしその場で指摘しなかったら、大惨事になるだろう。
「でも、可愛いと思うよ。」
「本人にとって、ただ恥ずかしいだけ。」
「ふふ……」前田良奈は嬉しく笑った。黒井さな子は前田良奈が笑ったことに、同じ嬉しく笑った。
二人が一緒に楽しく笑った。二人にとって、とても幸せな時であった。
****
病院で。
一人の女性がベッドの上に眠っているような姿だった。
その女性の隣には、「家族」、「部活の先輩・友達」、「親友」が立っていた。
身体にもはや異常はない。ただ、意識がずっと戻らなかった。
三年間……この人たちずっと欠かさず、お見舞いしに来た。もちろん悲しい雰囲気、重い雰囲気だった。だが、この人たちがずっと願っているのは、その「意識」が戻ること。
「僕は……『部長』の様子を見てくる。」
他の三人は頷き、一人が部屋から出ていった。
またたくさん、話したいことがある、またたくさん、楽しいことがしたい。だから、さなちゃん、早く起きて……
起きて……
一人の女性がベッドの上に眠っているような姿だった。
その女性は、「黒井さな子」であった。
次話ちょっと余裕を持たせてほしいです。
連続三日間で投稿しているので、少し疲れました。
よって、次話三日後でアップします!