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ルールの前提:
「――ルールの変動はいつでも可能だ。」
(――ルールの修正は私たち二人で「討論」しなければならない。)
「まず、お前から理由を言え。」
(単純な話だ。「私」と会話している時、あなたは口で話さなければならない。他人から見れば、この挙動はおかしいだろう。)
「ふん。だがお前にとって、俺の評価なんてさほど重要ではないだろう。突然俺と仲良くなりたいと思っているのか?」
(仲良くなりたいとは思っていないが、あなたの評価が重要なんだからと言っている。
まず、この「バイアス王国」では、この状況の「事例」が二つある。そして、人間は良く自分の「感覚」と「経験」でことを考える。
二つの「事例」では、「感覚」と「経験」に一つ大事なことを示す。
それは「人格」の「変化」だ。
つまり、ロードルフ子爵としての「人物像」が大きく変わるものだ。
もし、「私」が「表」に出たら、突然変わった動作に、他人が困惑するに違いない。それは「私たち」にとって、決していい影響ではない。)
「意味が分かった。だが、なぜいい影響ではないと言い切れる?
二つの『事例』は、一つが大昔のこと、もう一つが『情報』の真偽も定かではない。情報の参考基準がおかしいではないか。」
(ええ、確かに情報の参考基準がおかしい。だが、それは私が情報の仕入れ方が一つしかないから。今の私は情報が「あなたの口」から得ることしかできない。)
「ふん。俺のせいだと言いたいのか?」
(違うよ。「仕方ない」ことだと言いたいんだ。)
「はっ!意味が分かった。では、なぜいい影響ではないと言い切れる?」
(昨日のこと、ロードルフ子爵もまだ覚えているだろう。)
「当然だ。」
(あなたの身体が私に変わった途端、あの二人の反応を見たのだろう。執事とメイドの二人の反応。)
「ああ、見た。それがどうした。」
(はっきり言おう。あなたの中にいるから、恐怖の感情が抑えられる。強制的に私を表に出させたら、昨日と同じ状況に陥りかねない。ましてや大勢の人に見られたらな。これがいい影響ではないと言い切れる理由だ。)
「……お前は恐怖に慣れることができないのか?」
(慣れることができるかもしれないが、気安く他人に見させるものではないと思うよ。)
しばらく静かになって、ロードルフ子爵は組んでいる両手をひじかけに置いた。
「要するに、お前、その『前提条件』の理由は、他人に見せたくないとのこと。そして、『お前』という存在が知られたくないとのことだろう。違いないか?」
まさか、あなたは思っていなかったの?と言いたいけど、何となく「ディベート」みたいな状況になっているから、普通の返事をした。
(ええ、確かにそのような意味が含まれていることを認める。だが、一つ補足させて。)
「なんだ。」
(あなたにも悪い影響を出さないという「メリット」がある。)
「ふん。大したことじゃない。でも認めてあげよう。」
(そうか。認めてくれてありがとう。では、あなたの理由は?)
まるで肯定側の「立論」と否定側の「質疑」。
そして、次の進行は否定側の「立論」になる。
まあ、でもこれは「ディスカッション」と言った方が、もっと適切だと思う。
ディベートは「説得」のため、ディスカッションは「適切な方法を見つける」ためのものだ。
「はっ!同じく簡単な理由だ。俺は領主だから、いろんな仕事があるんだ。
昨日も言ったはず。俺はお前のために、全てを捨てるつもりはない。仕事も、生活も、『時間』もな。
俺はいちいち『ルール』のために、こうやって場を設け、お前と会話する時間がない。するつもりもない。」
(そうか……)
では、質疑の時間だ。
(……ええ、「理由」として十分理解できる。だが、あなたが言った前提条件に「いつでも」という言葉がある。そうだよね?)
「そうだ。」
(では、その言葉の解釈に「どんな時で、どんな状況でも」と、そう理解してもいいだよね?)
「当然だ。」
(つまり、状況は「私があなたと入れ替わっても構わない」、そうだよね?)
「ああ、そうだ。」
あまり躊躇いがない。まあ、そもそも私が拒否する態度を見せたし、この尋問は想定済みかな。なら、ちょっと他の角度で――
(では、あなたのその「前提条件」に、たとえ「私があなたと入れ替わって」の状態でも、「ルール」の変動が可能にしたいという意味を含めている。そうだよね?)
「ああ、そうだ。」
(意味が分かった。つまり、あなたの「前提条件」には、もう一つの「前提条件」がある。その前提は「私があなたと入れ替わることもある」と。)
「ふん。そうだよ。お前、誘導尋問までして、このことが言いたいだけ?」
(私はただ、あなたの「立場」を分かりやすく理解したいだけ。)
「そうか。なら、また質問があるってことだな。」
(あら、すごい。確かにもう一つ質問がある。)
「皮肉はいい!早く質問を。」
(あなたの「立場」はわかった。では、その立場の上で、あなたの「やり方」、つまり、「私とどう入れ替わるつもりか」、聞かせてくれる?)
「昨日のこともあったから、お前の『意見』を聞いてから、俺の『判断次第』だ。」
(判断次第……そういえば、昨日、なんで私が表に出たのか?)
「それは言語化できない。あくまで感覚的なことだ。お前は嫌でも、『表』に出させることができる。つまり、コントロールの『主導権』は俺にあるということだ。」
(待て、なにそれ。コントロールの「主導権」って、あなたの身体のことだよね。ずっと知ってたの?)
「ああ?そんなわけあるか!俺も昨日知ってたばかりだ!あの時でやったらできただけだ。」
(そうか。)
これはかなり大事な情報だ。この情報を私に共有してくれるということは、つまり知られても困らないだろう。
でも、嘘を言っている感じではない……
あ!なるほど。判断次第ってそういうことか。私はまた警戒されているし、「主導権」を握っているから、この情報を知っても知らなくてもいいと。
(大事な情報ありがとうございます。)
「どうでもいいことだ。話それるな!ルールの前提を決めるんだろう。」
(すみません。話を逸れてしまった、では、あなたの「やり方」も分かった。「理由」と「やり方」も十分理解できた。しかし、ロードルフ子爵は大事なことを忘れてしまった。
「私たち」にとって、その「前提条件」どんな「メリット」があるのか?)
「最初から言っただろう――」
(あなたが最初言ったのは「理由」だ。メリットではない。いや、一歩引いて、あなたにとってメリットがあるかもしれない。
でも、昨日言ったよ。「お互い」のために決めるルールだ。
さっき私が言った「悪い影響」を出さないという点で、「私たち」にとって「メリット」があるように、あなたの前提条件も「私たち」にとって何か「メリット」があるだろう。)
「……貴様、これはあなたが言った『ディベート』か?」
(少々違うね。今私たちやっているのは「ディスカッション」だ。適切な方法を探すためのものさ。)
「あっそう。もちろんお前にもメリットがある。もし俺が消えたら、お前はどうする?」
(ちょっと質問の意図がわからない。)
「チッ!お前は間抜けで臆病なやつということが分かってないのか?
何のわけもわからないまま、お前は俺の身体に入った。原因はどうでもいい。知る必要もない。
だが、もし俺はお前と同じく、突然他の人の身体に入ったら、お前はこの身体に残るだろう。その時、お前は『適応』しなければならない。」
(ええ、しかし、それは仮設の話だろう。それに、あまり関係があるような……)
「ある。大いにある。確かにさっき言ったのはただ一つの可能性に違いない。でも、俺が言いたいのはそれじゃない。まず、身体の『主導権』は俺にあるんだ。」
あ……何となくわかった。
(「主導権」の権利か。)
「そうだ。表に出るか出ないか、お前にも『決める権利』がある。」
一点狙い、とても確実だが、本質の「メリット」じゃない。
(どんなメリットがあるかはわかった。だが、あなたは優しい人間ではない。やすやす警戒を解いた人間ではないはずだ。
では、「主導権」を渡してまで、どんなメリットがあるの?)
「なるほど。こう言う意味か。お互いにとって『役に立つ』から。」
少し沈黙の間。
(続けて。まだ曖昧。)
「チッ。
1.『主導権』を渡して、俺にとって、お前はどんな人間なのか判断できる。体を奪うつもりなら、即奪い返す。間抜けなやつなら、利用するだけだ。
2.お前にとって、もし『俺がいなくなった』場合、あるいは、『何かの不可抗力で表に出なきゃ』場合、『俺のふり』をすれば、『適応』できれば、一時しのぎできるだろう。
どうだ。これで分かったか。」
(ええ、素晴らしい。)
「俺は勉強するつもりじゃないんだぞ!」
(でもいい経験になったのだろう?)
「はいはい、そうかそうか、すごいすごい。で?どうするつもりだ。」
(ええと、まずあなたの話を要約するね。つまり、あなたの前提条件は、あなたの立場じゃなければメリットがないってわけね。)
「ああ。で、続きは?」
メリットが発生させたではなく、こんなメリットがあるよと。やはりロードルフ子爵は理解早いな。
(そうだね。適切な方法を探すためだけど、やはり「デメリット」を言う必要があるね。でも、相手のね。これは「反駁」ということ。)
「あっそう。」ロードルフ子爵はふっと嗤った。
「実はどうでもいいだが、ここでお前の言葉を一つ借りよう。『一緒に言ったらどうだ』?正直、この状況、気に食わん!」
え、もしかして、「気持ち」を仕切り直したいかな。今会話の流れは私にあるからね。
(……いいよ、全然。でも、ロードルフ子爵気付いてないの?)
「何が?」
そうか。そうだね。そう簡単に気付けるものじゃない。
(分からないならいい。)
「はあ?」
(とりあえず、「デメリット」――)
――「お前の条件、時間の無駄だ。」
――(あなたの条件、評価の問題がある。)
どんなことでも、最初の部分一番決めづらいよね。