表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪領主、自分の意志と戦う  作者: ヨガ
第一章
10/75

10

 (身体を……ですか?)


「貴様、不満か。珍しく敬語を使ったが。」


 (いいえ、不満ではないが……ただ、少々気が向かない。)


「ああ?ああ、あれか。お前の『自由意志』とか、そのことか?でも、対価が必要だろう。何もしなくて、タダで身体をやるつもりはない。」


 (違う!手伝うのはいい。やらせても全然大丈夫。)


「はあ、じゃあ何なんだ。」


 (それは、もっと心理的な原因なんだ。)


「心理的な原因?」


 (この二週間の間、なるべく意識しないようにしたが、やはり見えるものは見えるし、避けられない。)


「はあ?何が言いたい!」


 ここまで言っても分からなかったのは、わざとだろうか?でも、勘違いさせても良くないから……言おう。


 そもそも、伝えるべきことだった。


 (私は女だよ。)


 ロードルフ子爵はしばらく沈黙したが、少し「複雑な気持ち」が伝わってきた。


「それがどうした。」


 (どうしたって……)


「貴様、まさかこんな『くだらない』ことで拒否するつもりじゃないだろうな!」


 くだらない……?


 (全然くだらなくないよ!まだ仲間が欲しい「気持ち」がわからないの?突然男の身体にいて、知らない場所で、わかる人もいなくて、私が怖かったんだ!)


 私の話を聞いて、身体中に怒りが湧いてきた。これは私の怒りではない。ロードルフ子爵のだ。


「はあ?それがどうした!俺様と『関係ない』ことだろうか!」


 その「感情」に影響されているからか、それとも「自分の感情」なのか、私の中に、何かの「全て」が爆発した。


 (関係ないこと?「お前」の身体の中にいるのは私よ。関係ないじゃないだろう!そもそも、「お前」のその「上から目線」の態度が嫌いなんだよ!)


「貴様!今まで敬語を使わないことに対してずっと見過ごしたが、その侮辱な態度は許さん!」


 (は!反論できないから、「態度」のことを言う?あなたの方こそ、ずっと態度が悪いだろう!)


「反論できないだと?貴様と子供の『口喧嘩』がしたくないだけだ!それと、先に『態度』を口に出したのは貴様だ!」


 (人の「気持ち」を「尊重」してって言ってんの!そんなことも分からないの?せっかくわからせてあげたのに!)


「貴様の『気持ち』なんか意味ないだろう!俺様の言うことを聞けば、好意で接するつもりだったが、この俺様をなめている態度は許さん!」


 ロードルフ子爵は机に向かって、拳を振った。その力が強くて、机の書類が全てが散った。そして、引き出しも振動によって、引き出された。


 もちろん、手の痛みもちゃんと伝わってくる。


 痛い。でも、所詮、私の身体ではない。


 (なめるなと言って、すぐ暴力を振る舞う。まるでわがままな子供だ。こんなじゃ、なめられないわけがないだろう。人の「気持ち」も知らずに。)


 ロードルフ子爵はすぐ鏡の前へ向かって、両手が鏡の額縁に掴まって、自分の顔に近づき、怒り満ちた目がまっすぐ「私」を睨むように態勢を取っていた。


「もう一度言う。貴様、その侮辱な態度を、今すぐ、収めろ。じゃないと……」


 全身が熱い。怒りに満ちすぎて身体が震えている。その「気持ち」に影響されて、私も抑えきれない。


 (じゃないとなんだ?所詮、この身体は「お前」のだろう。もし自傷したいなら早くして。私、阻止しないから。)


 そして、ドン、ドン――元々ひびが入った鏡が割れた。


 割れた鏡の欠片が手を傷つく。ロードルフ子爵は構わず拳を振ってきた。「私」を傷つくために。


 パリン、パリン……鏡の欠片が地に落ちた。鏡がボロボロに。その後ろに隠れた木製の板が見えてきた。もう壊れかけた。


 でも、ロードルフ子爵は構わず拳を振ってきた。容赦しない。たとえ自分の身体でも。「私」を傷つけるために。


 阻止するつもりはない。どうせ私の身体じゃないし。


 それに、もしこの男が死んだら、「私」は自分の身体に戻れるかもしれない。


 何でこんな目に遭うかはわからない。でも、真相を探しても意味がない。「私」はただ帰りたいだけ。自分の身体に戻りたいだけ。


 今まで、本当に意味がわからなかった。


 文字が線だし、人が怖いし……現代じゃないし、わかる人もいないし……何もかもわからない。


 だから――交渉するのはもうやめよ。どうせ何もわからない。どうせ意味がない。


 こんな自分らしくない考え、絶対彼に影響されている。彼のせいだ。


 そして、ロードルフ子爵は自傷している最中、突然、コンコン!と音が重複した。この音はドアーからだ。


「ご、ご主人様!一体何か起きたんでしょうか!その音は何でしょうか!」


 ロードルフ子爵は気にせず、「私」を傷つけるつもりのようだ。


 (……お前はずっと「私のために」やりたいの?「私のために」全てを尽くしたくないって言ってなかった?)


「黙れ!」この声とともに、「両方」の音も止んだ。ロードルフ子爵は手を止めた。


 手を止めたが、私に何が言いたかったようで、手を空中に上げたまま、ぼたぼたと血が滴る。


「ですが、子爵様……一体――」扉の外の声が耳に入らなかった。


「私」に対しての怒りで、何もわからなかった。


「貴様を、許す、つもりは――」


 (「私」の「気持ち」なんか君と関係ないだろう。なら、早くあの人たちと説明したら?どうせ私のことなんか「気にしてない」だろう。)


 怒り狂ってプルプル震えている。


 全部破壊したい衝動。私まで影響される。


 イライラする。


 本当に「感情的」になりやすい人間。


 嫌い。


 少しだが、ロードルフ子爵は一歩ずつ、扉のほうへ行った。


「子爵様……どうか、中の状況を――」


 ガチャ――扉を開けて、そこにいたのは、最初の時見たメイドの子がいた。そして、隣に執事みたいな人もいた。


 すぐロードルフ子爵の手の様子を気付いたようで、二人とも真っ青な顔になった。


「どう、どうして、ご主人様、その、手は、いったい……」


「子爵様、一体何が起きたでしょうか!」


 二人を見て、少しだけ心が落ち着いたようだ。


「貴様ら、の関係、ない、ことだ。構うな!」話がし終わったら、子爵が視線を下に向いた。二人の顔を見たくないようだ。


「ですが――」


「『貴様』……」この言葉……


「え?」


「『気持ち』って言ったか。」私に対しての言葉。


「子爵様、一体何を……」


「『気にしてない』と言ったか。」


 呆然とした二人。そして、イライラする私。


 (……それがなんだ。)


「見せてやるよ。俺様が『気にしてる』かどうか……」


 (は――)


「はあ、何が言いたい――」


 突然、「現実」が鮮明になった。


 窓からの光、執事とメイド子からの匂い、ずっと跳ね上がる心臓、皮膚に伝わってきた服の質料……


 今まで注意したくなかった、まだ少し夢のような世界が、「本物」になった。


 あまりにも突然のことで、「私」は放心状態になった。


 幻想的な風景、何もかも現実性を感じられないところ、何が起きたとわかった途端、私は怖くなってきた。最初の時と同じ。


 未知への恐怖……すべてが鮮明になった途端、心が崩れた。


「私」は床に跪いて、体が震えている。頭を上げて、目の前のメイドと執事を見て、疑問を感じた。


「君たちは誰?誰なんだよ。ここは一体どこなんだよ!」「私」ではない声が「自分」の口から出てきた。


「ご主人様、何を……」


「子爵様、一体……」


「私」は両手で自分の身体を抱き着く。涙も目から溢れ出す。


 体が震えている。この身体が今「私」だ。だから、この震えは「恐怖」の震え。


 (ふん。ずっと中にいる貴様はこんな「気持ち」ね。だからあんなこと言えるんだ!)突然、自分じゃない考えが浮かび上がった。


 脳が勝手に考えている。「怖い」。


 (「貴様」、わからせてほしいじゃなかったか?「貴様」の「気持ち」!)頭痛。


 いたい。


 無理。


「私」ではない考えが浮かび上がった途端、頭が痛くなる。


 こんな時で、何で私はあの「多重人格」の本のことを思い出したんだろう。


 (へえ、「多重人格」の原因はこんな感じか。余計なことを考えているようだな。くだらん!)


「うっ……!痛い。」思考が読まれてる。痛い。


「と、とにかく、私今すぐ医者様を呼びに行きます!」


「ああ、早く!」


 (それで、「推測」?なんだ、「もしかしたら、自分を守るために、『私』を生み出した」?貴様、自分のことも疑っているのか?呆れた!)痛い。


「やめて……」


 (で、こっちは今までの人生経験……ほん、ほん、つまんね。)痛い。


「やめて!」


 (はあ、すぐ怒っているんだ。案外「感情的」だなぁ。なんだ、貴様。わからせてほしいじゃなかったか?貴様の「気持ち」。)痛い。


「……もっと、もっといい方法があるんだろう!」


 (その「いい方法」が今貴様の「気持ち」でつぶれているんだよ!)痛い。


「違う!こんなのは『気持ち』じゃない!ただの『感情』だ!」


 (貴様、「感情」と「気持ち」が同じだろうか――)痛い。


「こんなことを言ったから、あなたは『気持ち』が分からなかったの!」


 (はあ?貴様――)痛い。


「『貴様』じゃない!『私』は黒井さな子!女だ!」


 (……)


「言いたくなかった。でも、これははっきり言った方がいいと今分かった。私はあなたみたいな人と会ったことがなかった。


 身勝手で自己中心で、態度が悪くて、何もかもが命令口調で、暴力も振るう、かっといって変な部分で律儀で、責任感もあって、話も分からなくもないし、優しさの部分もあるとわかっている……


 だけど、ここまで人間の『気持ち』がわからない人に会ったことがなかった。」


(……どういうことだ?)


 震える身体が止まらない。耐え難い恐怖、どうにもならない。


「……戻って。」


(あ?)


「あなたが早く戻ってって言ってるの!これは『あなたの身体』だ!」


 (……)


 そして、まだ少し夢のような感じになった。安心……でもなかった。


 だが、やっと「恐怖」の「感情」が少し静まった。


「説明しr……早く、説明。」


 今更、口調なんてどうでもいいし。こいつ、本当に人の「気持ち」が分からないの?


 (……私は、一言も言ってないよね。「身体を貸してほしい」と。)


「じゃあ、なぜ最初からそう言わなかった!」


 (それは、あなたにとって、ただの「くだらない」ことだろう!「関係ない」ことだろう!)


「屁理屈だ!もし最初からそう言ってくれたら――」


 (違わないだろう!あなたも少し「複雑な気持ち」があったんだ。私は触れるつもりはなかった。だってあなたの「気持ち」を「尊重」したいから!


 でも、あなたは無視した!私の「気持ち」も、そして、自分の「気持ち」まで!)


「どういう……ことだよ。」


 (あなた、本当にわからないの?)


「……説明を。」


 (……ロードルフ子爵、あなたにとって、「気持ち」は何だ?)

後2話、第一章が終わります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ