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魔王を育てる勇者  作者: 赤牧青黄
第一章
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第六話 「赤髪の一族」

ハルネ・シンスは知っている。

一人の赤髪の少女のことを…


彼女を知ったのは、彼が青年のころだった。

「ハルネ家の血を持った、赤髪の魔法使いの子供がいる」

その噂が、ハルネ家には漂っていた。


「まさか、あの子が子供を作っていたなんて」

「病気持ちだから、子供は作れないだろうと思ったけど…」

「何より問題なのは、子が赤髪だったってことよ」


ハルネ家は、代々赤髪の一族である。

彼らは、赤髪の品質を気にしている。

そんな大事な赤髪が野放しになってるのは、よろしくないことだった。

噂の母親は、使えなくなった赤髪。

病気持ちの、欠陥赤髪。

この家の、優先順位の最上位は、赤髪だ。

彼女は、その優先順位を少し外れてしまったから、捨てられるような形になった。

そんな、人間。


「シンス、例のうわさの赤髪の子供。耳に入ってるよな?」

「はい」

「その例の赤髪は、どうやら本物らしい。誰が母親なのかも大体見えてきた。お前は、その赤髪の子供を家に連れてこい」


家の大黒柱、ハルネ・ラディス・マルホール。

赤髪の家を束ねる人間で、

彼の書斎の窓から、照っている光が実に似合う男だ。


「赤髪の子供ですか…父さんは、養子にしるつもりでしょうが…どうなんですかね?」

「どういう意味だ?」

「彼女はすでにこの家の人間から外れているんじゃないですか?必要以上に、追う必要は……」


「関係ない、血筋のある赤髪は一人でも多く必要だ」


彼女が、もし家の養子になったとして、どんな人生を送るかは目に見えている。

この家の権力を保つために、有力な権力者の家に嫁ぐことになり、自由とは程遠い束縛の生活が待っているだろう…

俺は正直、家の政治的な駆け引きに興味はない。

俺は長男ではない、つまり補欠だ。

俺はこの家の中では自由な人間だ。

この家が、繫栄する理由はただ一つ。

国の絶対的戦力、赤い髪の兵器。

それを生産することが目的だ。

赤い髪を持っているおかげで、どうやらこの国「アンナバフ」は繁栄を続けている。

世界一の魔法国家。「アンナバフ」と、言われるまでに。


「分かりました。すぐに行きます」


この言葉とは裏腹に、俺はこの子供に興味はないし。

自分の赤髪の希少価値が下がるのは嬉しくない。

父さんは、大事なことが分かっていない。

赤髪が、多くなればどうなるか……それは魔力資源の枯渇を意味する。


魔力資源。それは、太陽から地球へため込まれるエネルギーの一種。

太陽がある限り、地球へ魔力は補充され続ける。しかし、地球の中にある魔力には限りがある。

この地球にあふれる魔力を、赤髪は一人で抱え込みすぎてしまう。

魔力を吸収する、太陽の髪。それが赤髪の正体だ。

この国のお偉いさんたちは、この国はどこまでも成長し、世界を牛耳れると思っているのかもしれないが…残念ながらそれはない。

この世界は、人間には広すぎることをまだ知らないのだ。


「シンス様、遠出ですか?」


一人の侍女が、そう言ってきた。


「ああ、一か月ばかりになるかな…君はどういった要件なのか、大体想像はついてるだろ?」

「そうですね、お支度をさせていただきます」


俺は、自分の部屋の中で杖を握りしめた。

俺の杖には、金の塗装がされた重々しいものになっている。

俺にとっての、この家のような重々しさだ。


「私に、翼の加護があらんことを…」


杖に命令するように、そう言うと背中に羽が生えた。

翼は、実際のところ、なかなか重くて不便なものだ。

羽毛布団を背負っていると言えば、わかってもらえるだろうか?


バサッ


窓から勢いよく飛び出した。

一番最初の、羽の一振りがとても体力…又は魔力を消耗する。

部屋の中に、つむじ風が舞い起こり、俺は南端へと旅立った。


しばらく飛んでいると、黄土色の大地が見えてきた。


「あと、おおよそ百キロってところか?」


こんな遠くのところへと出かけるのは、久しぶりだな。

割とこの辺りは、何もない。

退屈して、睡魔が襲ってくるほどに。

もう少し行けば、大森林が見えてくるのだが…

今回の目的は、ちょうどその手前だ。


「この姿だと…少々驚かれてしまうな…」


翼をたたみ落下した。

そして、落下する瞬間にフワッと体を浮かせた。






「すいませーン!!この辺りで、赤髪の少女を知りません?」


冒険者ギルドの中で、全員の人間に聞こえるような声で言った。

多分こうするのが、一番手っ取り早い。


「あの?冒険者カードはお持ちですか?」


「ああ、冒険者カードは、持ってないけど。これならあるよ」


俺が取り出したのは、赤髪魔法連合。

特別魔法使い、ウロボロスの動くバッジを見せた。


「早く言ってくれよ…俺は、あまり時間を使いたくない。ここまで来るのに時間が掛かったんだぜ?」


俺は、あくびをしながら、急かして聞いた。


「ああ、シェスタのことですね…」

「シェスタか…それが名前ね。ところでその子は、今どこに?」

「デバンニルパンサーの討伐ですかね。彼女はパーティーで、その依頼を受けているはずです」

「力の無駄遣いだねー…じゃあ、教えてくれてありがとう」


俺は颯爽と去ろうとする。


「場所は聞かなくて……」


「ダイジョーブ、魔力の中心に彼女はいる」


明らかに、この辺の魔力が集まってる場所がある。

これだけで見当がつくね。

もうちょっとは、隠すようにしろよ…



「テルス、横からもう一体来たぞ!!」


ギルが、大声で仲間に知らせる。


このパーティーの後衛魔法使い、マリンは詠唱をしている。

アタッカーは、ギルが担っている。

テルスが、攻撃を受け流すか。受けるかをして、そのすきに止めを刺すのがギルの役割だ。

マリンが唱えている魔法は石を降らす魔法。

通常の、魔法使いが長い間魔法の詠唱をするのは、魔力値が圧倒的に少ないことが関係している。

魔力を集めることに、圧倒的に時間を割かなければならない。

これは、一般的な魔術の欠点だ。

なので、強力な代わりに時間を確保しなければならない。

その間に、もう一人の前衛。

前衛魔法使い、シェスタ。

彼女の魔法は、圧倒的に早く発動することができる。


そんな様子を、上空から観察している男がいた。


「ああ、アイツかー。あの魔法どこで習ったんだ?母親か?」


かなり遠くの方で、翼を羽ばたいている。

彼の目は、片方だけ鷹の目のようになっていた。

遠く離れたところから、獲物を狙っている鷹のように観察していた。


「しかし、思ったより早く見つかっちまったなー。俺は、予定を余す羽目になった…」


「ウオォ!」


こっちと目が合った、どうやら彼女はやっと気づいたらしい。

いや、気づいたというのは少し違ったな。

この距離だと、こっちの方が見えてるはずがない。

俺の方へ魔力が流れているのが分かったらしいな。


「何かいる…」


「どうしたの?シェスタ?」


マリンは、彼女の独り言に反応した。


「かすかに、魔力があっち側へ、流れて行ってる。これだけの範囲なら、なかなかの魔力になるはず…」

「………たしかに、気のせいかもしれないけど。ちょっと変な動き方をしてる気がするわね」

「ちょっと、確認してきていい?」

「このまま、放っておく方が気持ち悪いわ。危ない感じなら、すぐに帰ってきてね」


「うん」




そこには羽の生えた男が、立っていた。

鳥のような目つきをした。

「初めまして、俺はハルネ・シンス。君を探しているものだ。」

「どうも」

「そんなに警戒をしないでほしい。俺が君を探していたのは、ハルネ家へ君を連れて行くことが目的だからだ。ハルネ家を知ってるだろ?」

「聞いたことはあるよ」

「こんな、田舎の場所でもそのくらいは知っているか。何より君は、赤髪に縁があることだろうし」


彼女の見てくれは、ただの少女。とは少し違う、まず髪が確かに赤い。

そして、立派な杖を持っている。

こんな杖を持っているのは、赤髪家の人間くらいなものだ。

冒険者には似つかない。そう言える。


「俺は君を探すのに、この辺り一帯をくまなく探して、説得して。せいぜい一か月と見たんだが。どうやらすぐに見つかってしまった。だから、君をゆっくりと、説得することにするよ」


「……」


「君は、ハルネ家の血筋だ。母親の親戚と言えばいいのかな?今や、ハルネ家の家系は広くなっていてね。複雑なんだよ。」


「なぜ私が、ハルネ家にとって必要なの?」


思いがけない、直球な質問を飛ばされた。

たしかに、これはゆっくりと説明したかったが、正しい質問かもしれない。

いいや、俺がここで最も話すべきことなのだろう。


「俺の想像も混ざるが。もうすぐ俺の国は、北の国と戦争になる。多分、俺の父はそのために動き始めている。」


魔力石。魔力が圧縮され結晶化したもの、それが魔力石。

北の国で、その巨大な鉱床が発見された。

その資源を、喉から手が出るほど欲しがっているのは、どこの国も同じだ。

問題なのは、国境線になっている山を取り合う羽目になるということだ。

これは、どちらも譲れない戦いになるはずだ。


「子供だろうと、頭数に入れたいと考えているはずだ。そして、君を家の子供として引き込もうとしている。赤髪の女は、子供を産むために使える」


「どうやら、赤髪の子供をたくさん作りたがっているようだね」


「その通りだ、利口で助かるな。権力を分散させるのは、リスクになるが。赤髪は単純な戦力になる。そこら辺を差し引いた考えだろう」


俺はこの時、素直に話したのがよかったのか悪かったのかいまだにわからない。

どうせならすべて思い通りに行って欲しかった、しかし、彼女はそうならない。


「その昔、人類の敵。魔王がいたころの話。世界は相手を憎む余裕なんてなかった。そんな時代からは想像できない話だね」


なんて突飛な話をするのだろう…そう思った。


「魔王が復活すると言ったら、信じる?」


彼女は言った。魔王は復活すると。


「どうしてそんなことを言うんだ?」


「私が、勇者に選ばれたからだよ」


そんな衝撃的な言葉。いまだに、信じられない。



そして、この一か月後に悪魔の卵が孵ることになる。

その昔、人類を壊滅へと追い込んだ悪魔の卵が。


話は、決戦の日へと移る。


決戦の日の当日、卵の周りには経験を積んだ冒険者が、これでもかと集まっていた。

しかし、結果は惨敗。そう、負けたといっても遜色ないだろう。

皆、ほとんどの人間は、赤髪ぐらいの力がなければ生きられないような戦場だった。

そして、生まれてきた悪魔は、開口一番こういったのだ。


「魔王様が、お生まれになった……」


これを、聞いて生き残ったのは十人ばかりだろう。

しかし、俺は確かに聞いていた。

アイツが言った言葉を。

魔王という言葉を。

面白かったら、僕にptをくれ。

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