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魔王を育てる勇者  作者: 赤牧青黄
第一章
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第五話 「消滅の魔法」

ドラゴンの首が落ちた。

その様子を、後ろで三人の男女が眺めていた。

俺は返り血を浴び、少しの間時が止まるように頭の中は静まり返っていた。


「すげーじゃねーか」


ハルジオンは、のらりくらりと近づいていった。

俺は、そっと振り返る。


「まさか、ドラゴンの頭蓋骨を切るとは………」


マルフは目の横辺りから、首の方に切れたドラゴンを遠くから見つめて唖然としていた。


「ほんの一瞬……ギルの剣から魔力が爆発する。あの剣に切れないものはきっとないよ」

「本当かい?お嬢ちゃん…」

「多分ね」


カーリヤは、彼の剣が何を切るのか、すべてを見通していたように話した。

マルフには、彼の魔力が。ほんの一瞬の爆発が認識できてはいなかった。

カーリヤの話を聞いたとき、まさかと思った。

しかし、首というより頭の方が不自然に切れたドラゴンは、紛れもない現実だった。


「お嬢ちゃんはどうやってドラゴンを倒すつもりだ?」


自分の想像以上の事態が起きた。

今のマルフは、自分の想像力を疑っていた。

彼女は、もしかしたら、彼女も自分の想像を超えてくるかもしれないと。


「リリースミスト、知ってる?」

「魔法か?知らないな?」

「発散する、物体。この呪文は実体のあるものを消失させる魔法。人を殺すには、余りにオーバースペックで、容量の悪い呪文だった。だからいつの間にか忘れられた呪文」

「何でそんなものを知っているんだ?」

「この呪文のいいところは、死んだ者に呪いを残させないことにある。人は死ぬと呪いにかかる。しかし、この呪文ならすべてを無に帰す事ができる」


「呪い?」


「目には見えないけど、確かにある。死体の周りにある嫌な魔力がそう」

「何でそんな魔法が必要になるんだ?」


「強い魔力を持った魔族はこうしないと、滅ぼすことができないから」


「それは、何度も転生する。卵でもか?」

「本番前に、一回試しておかないとね」


なぜこの子は、この呪文を知っているんだろうか?

俺は一度も見たことないどころか、聞いたことすらない。

魔族の卵は、すべての攻撃を跳ね返し、その中からは転生した魔物が現れる。

三年前は、完璧に殺しきることができない前提で戦いを挑んだというのに。

死んでも何度も転生する、邪の世界の生き物。

そんなものを殺せるイメージがわかない。

仕組みを理解していない、魔法は使えない。

これは魔法の大原則だ。

そんな魔法が本当にあったとして、俺には仕組みが分からない。

たとえ見たとしても、真似できるようなものじゃないだろう。


「じゃあ、召喚するぞ?お嬢ちゃん、その魔法見せてもらおうか」


返事をする代わりに、彼女は杖を握りしめた。

そして、二人で魔法陣を囲む。


「召喚したら、すぐに遠くに離れて」

「……わかった」


さっきとは別の緊張感があった。

俺は召喚され始めると、すぐさまその場を遠ざかった。

本能的に、何かがヤバい気がする。


ドラゴンの半身が地面から這い出してきた。


「もっと、もっと遠くに離れて!」


「もっと離れるのか?正直十分離れると……」


ギルは、二十歩ほど離れた場所に立っていた。


「いいから!」

「わかったよ…」


ギルが大人しく、後ろへ下がると、全身が召喚された。


「あいつ……やけに長く呪文を唱えてやがるな。あんな長い呪文は初めて聞く」


だいぶ離れたおかげで、何かを唱えているということしかわからなかったが、何かの魔法を使おうとしていることは分かった。


「ありゃぁ、何をしようとしてんだぁ~?」


「あいつ、あのままだと喰われるぞ!!」


ギルが切羽詰まったように言い放った。

彼女はぎりぎりまで、呪文を唱えている。

このままだと、食われてしまうのではないかと思うまで。


「チッ…あのバカ野郎、しょうがねえ俺が…」

「いいや、大丈夫だ。彼女なら恐らく一発で消し去るはずだ」

「でもなぁ………」


マルフと、ギルが言い合っている内に、呪文が途絶えた。

どうやら、詠唱が終わったらしい。


「リリースミスト」


最後の言葉が、遠く離れた場所にも聞こえた。



彼女の呪文に答えて、二つの魔法陣が彼女の前に展開され、その中から、闇の触手が現れた。

闇の触手の動きは、非常に早く、ドラゴンの体をからめとった。

そして、闇がドラゴンの体を覆う。

闇の球体が完成した。


「ガア゛ぁ゛あ゛ぁぁぁ」


それに浮かび上がった球体から、おぞましい鳴き声が聞こえてきた。

まるで、とてつもない苦しみを感じているような。


そして、一度小さく縮む。


その瞬間!!!

元の大きさの十倍ほどの体積に急激に膨張し、爆発した。


「うお゛!黒い爆発!?アイツは大丈夫なのか!?」


黒い煙が上がる、辺りは少しくぼんでいるように見えた。

その中から、一人の人影が覗いた。

そう、カーリヤだ。

何もなかったかのように、ただ一人佇んでいる彼女は。

煙中から、余裕の表情で歩いてきた。


「終わった」


そう一言いい終えると、一人で下山の準備を始めた。


「終わったって、死体一つ残ってねーじゃねぇか」

「何か問題があるの?」

「いや、違う。まさかあんな派手なものを使うと思ってなかっただけだ」

「じゃあ、問題はないね」


マルフは、彼女、彼の会話を横目に、辺りの気配を探っていた。

たしかに、死体に必ず残る魔力が無い。

怖いほどこの辺りは静かになっている。

まさに、魔力そのものが消し飛んでしまったかのように。


「おいおい、こりゃぁーなんの魔法だぁ~こんなわけのわからねえ魔法、初めて見るぞ」

「ああ、俺もだ。実際にこの目で見ると余計にわからなくなった。この俺でも、何がどうなったのか何一つ理解できていない」

「だけど、一つ分かったこともあるよな~」


「……魔力が、この辺りの魔力が消えた」


この少女は、いったい何者なんだ?

少なくとも、ただの人間ではないことは確かになった。


この後四人は、山を下り、ギルドへ向かった。

昇級により、カードの更新S級名簿への登録をするためだ。

ギルドへ着くと、一人の女が、酒のボトルをもって待っていた。


マルフは、いつ何をやっているのか全く分からない謎の女だと思っていたが、余計にわからなくなった。


「みんな、お疲れー…ウヒッ」


どうやら、そこそこ酒が回っているらしい。

昼間から何もせずに、こいつは何をやっているのだ?

コイツが、嬢ちゃんの師匠だと思うとあまりに心配になる。

うまく制御できるんだろうな…?

こんな力を持った子供を、一人にさせておくわけにはいかないからな。

まあ、立派な魔法を使ったところを見ると、そこそこ立派な師匠なんだろうが…


「お!マルフ、久しぶりだね!!最近は懐かしい奴らによく合うな~」


懐かしいと言っても、まだ三年しかたってない。

冒険者にとっての、三年の別れなんてものは、本当に大したものではないのだ。

まあ、こいつは無駄に若いからな。

三年がまだ長い年なんだろう。


「お前とは話したいことはあるが……とりあえず、この二人の試験は無事に終わったよ」

「あ!どらごんねー!それは良かった。まあ、別にてこずるようなモンスターでもないしね!!」


ドラゴンを、弱いモンスターだと思ってるのは、おそらくこいつくらいなものだろう。


「じゃあ、今日は俺がおごるから、少し俺の話に付き合え」

「まじで、やったー!」


仲間の二人は、いつも通りだって顔をしている。

これがいつも通りというなら、俺はこいつらに同情してしまう。


「じゃあ、カードを受け取りに行こうか」



「よお嬢ちゃん、また必要以上に酔ったふりしてるな?」

「これだから、あんたが酒の席にいると気分よくなれないから嫌なんだよね」

「まあ、まあ、それよりよー。あの二人は予想以上に強かったな~」

「まあね」

「どうやったんだ?」

「私がどうかしたわけじゃないよ。ギルは魔力が少ないなりの戦い方を、自分の戦い方を極めた。それだけ」

「小さい嬢ちゃんは?」

「あの子は、最初から魔術の基礎を知っている。私はコツを教えただけに過ぎないよ。あれは彼女が元々持っていたものだ」

「ふーん、そうね~。まあいいやぁ。嬢ちゃんが、この町に来た時は子供とは思えない。まるで熟練の冒険者のような知識があった。流れの人間とは思えないほど。その知識は、誰から学んだ?」

「女神からだよ」

「嘘か?」

「嘘じゃない、私には女神が話しかけてくる。彼女は最も全能に近い人だよ」

「女神しか知らないことも、あんたは知ってるのか?」

「まーね」

「俺は、古い昔の話を聞いたことがある。魔王がいた時代。はるか昔の話だ。そこには、女神の声が聞こえる勇者がいたらしい。伝説上のお話だがな?」

「ふーん、そんな話がねー」

「俺はな~、あんたが…」


「おい、終わったぞ」


「これで二人とも、S級だね!!アハハハハ!いやぁーもうカーリヤに追いつかれちゃったな~」


「せっかく、A級が冒険者がそろったんだ。みんなで飯でも食おうぜ」

「いや、俺はパスだな~」

「そうか、お前は三人以上で飯は行かないよな。いつも」

「じゃあ、この三人で行くか」

「マルフ?君のおごりでいいんだよね?」


三人が、食事処につくとマルフは真っ先に本題を切り出した。

意外とこういう時は、シェスタとは違い、回りくどくない性格なのだ。


「黒い触手の生えるあの呪文。あれはお前が教えたものか?シェスタ」

「そうだよ」

「何で君は、そんな呪文を知っていたんだ?」

「女神様から教えられたんだよ」

「君はからかっているんだろう?」

「相変わらず頭が固いねー」

「シェスタの女神の助言は、結構俺の役にも立ってるぞ?」

「ギル…君は信じるのか?」

「まあ、信じるほかなくなったって感じだな」

「まあ、とりあえず。シェスタに答える気がないならいいだろう。しかし、なぜ三年前に自分で使わなかったんだ?」

「あれは私が使える魔法じゃないからね」

「どういうことだ?」


「魔法適正か………」


「魔法使いには、自分の得意不得意があるんだ。もちろん、私にもある。しかし、カーリヤはあの魔法に、高い適性があった。だから、今日は試し打ちをして来いと……」

「ドラゴンを、魔法の練習台にするのは、きっと君だけだよ」

「まあでも、問題はなかっただろ?」

「問題があったらどうするんだと言ってるんだ、俺は」

「まあ、まあ、俺でも切れたんだからそこまで危険じゃないだろ」

「あんたは……まあいいや…とにかく、もう少しで卵がかえる。しかし、現在の状況だと。戦力が足りるかどうかわからない……」


「いや、足りるね」


「どうして言い切れるんだ?」

「私の勘だよ、一度戦った経験からともいえるけど。私の仲間は強い。これ以上に納得するものはないんじゃないかな?」

「たしかに、それは良く分かった。しかし、この前と違って、三年前の戦いで引退した奴は多い。集まるのは、今いる俺たちを含めて六人だろう」

「あと一人は?」

「ハルネ・シンス。赤髪だ」

「ああ、彼か……それにしても、やはり少ないね。今回は、A級の冒険者を使わないつもりだろ?」

「良くわかったな」

「まあ、君がそんなことをする奴だとは思ってないからね」

「三年前に思い知ったよ、やはりAとSでは、大きな差が開いていた。正直見誤ったと思った。あの時は」


「まあ、三年前はA級の質も低かったしな。三年前にたくさん死んでくれたおかげで、そこら辺のハードルはだいぶ上がったみたいだが」


「それより、君には一つ確認しておきたいことがある。君は、勝てる算段があるんだよな?」


「カーリヤの魔法なら、確実に殺せる。これは確かだ。女神もそう言っている」

「こっちは、女神は信じちゃいないが、あんたは信じてるんだ」

「信じるべきは私じゃないね、カーリヤだ。今回の主役は彼女だよ?私たちは、彼女の呪文詠唱までの時間を稼ぐ。そして、彼女の呪文の射程内に対象がいることが条件になる。」

「じゃあ、俺たちはカーリヤを守ればいいわけか?」

「ああ、そうだよ。それくらいならできるでしょ?」


「……わかった、カーリヤと、あんたを信じよう。よろしく頼むぜ、お嬢ちゃん」


「―うん」


信用しきれなくても、やるしかないな。

時間は待ってくれやしないしな。

どうせならもうちょっと、頼れる感じだとよかったんだが……

高評価求む。

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