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魔王を育てる勇者  作者: 赤牧青黄
第一章
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第四話 「ドラゴンの群生地、ハルネポス火山」

私たちがこの町に来ておおよそ三週間たとうとしていた…

その日は朝早くから出発の準備をしている。

それは、ドラゴン討伐のためであり、昇級のためだった。

朝、太陽がまだ頭のてっぺんだけを出している時間に、私たちは外に出た。


「シェスタは、一緒にいかないの?」

「まあ、そりゃあ同じパーティーの仲間がついて行ったら、ダメだよな」


正直言って可愛い弟子のために、私もついて行ってあげたいところなんだけど。

私が一緒に居たら、失格になりかねないからね。

試験には、一人S級の冒険者の見届け人が付いていて。

そいつの役割は、不正しているかどうかを見たり、危険になった場合には助けに入る必要がある。

まあ、実力が足りなかった場合には、助け出される前に一撃を食らって死ぬだけだけどね。

そして、S級の冒険者の隣には、冒険者ギルドの職員が一人。

そいつは、冒険者として引退した元冒険者なことが多い。

危険なドラゴンの群生地に行っても、身を守れるほどの能力は備えている。

そうでなければ、“その”山に入ることができない。


ドラゴンの群生地、ハルネポス火山だ。


「じゃあ二人とも、くれぐれも気を付けて」

「行ってきます」

「付いてくんなよ」


こうして私は二人を送り出した。



一方、ハルネポス火山にて待機している、S級 ハルジオン。

そして、冒険者ギルド副長、マルフ サルフ。

冒険者ギルド副長で、元S級冒険者だ。

 

「おいマーフ、今日の新人は二人だったな。」

「ああ」

「じゃあ、俺が、今から来る奴らを当ててやるよ」

「……」

「一人目は恐らく、この町で一番強いA級 ギル。そして、二人目は、風のうわさで聞いた話だが、赤髪の弟子、あの白い髪の奴だろ」

「よくわかったな」

「そりゃ当然。あの白い髪の奴、あれはすでに赤髪級だ」

「…いや、そこが変なんだギル…あの白い髪の子が一番最初にギルドに来たときは、明らかに他の冒険者と当たり障りのない、ただの冒険者だったはずだ。それがたった一か月足らずで……しかも、あいつの気配はほかの魔女とは違う。異様なんだ…どう思う?ハルジー」 


 「赤髪でもない、普通の、しかも、あんなに小さい魔法使いが…ね…」


長年冒険者として、様々な新人ニュービーを見てきた二人から見て、あの子の成長速度は異常だった。

今まで赤髪の冒険者は何人かは見てきた。

しかし、彼女のだけは、何か違う。

赤髪の強さとは、また違う風格があるのだ。

それが何か、二人にはまだわからなかった。



そんな中、ギルとカーリヤは山登りにいそしんでいた。

ドラゴンは、山の山頂付近に生息しているため、過酷な山登りをする必要がある。

山道の途中でばててしまうような冒険者は、今すぐに折り返した方がいいと言われるほどだ。

そんな中、すでに息を荒くしている少女が一人、それは最近までろくに運動をせず、灰の山の中で毎日を過ごしていた、カーリヤだ。


「ギル、おんぶして」

「嫌に決まってるだろ。俺がここで体力を余分に消耗しちまったら、ドラゴンにワンパンだぞ。あいつらの爪を見ればすぐにわかるはずだ。あの爪は、当たったら、一発で死ぬってな」


そんなことを無視して、カーリヤはギルの背中によじ登ろうとしている。


「おい!あぶねーだろ、こんな山の途中で足を滑らしたりでもしたら。ドラゴンを拝む前に死んじまうって!全く、シェスタがお前ぐらいの時は、そんなこと言わなかったからな」

 

「……」


「……」


しばらく二人は無言でにらめっこをしたのち、結局、カーリヤを背負っていくことになった。

背中にかけていた剣を、カーリヤに持たせて。

魔法使いなら空ぐらい飛べてもいいんじゃないだろうか?

だってよく考えてみろ、今から討伐しに行くドラゴンだって、あんな図体してるのに空を飛んでるんだぜ。

あれを魔法と言わずになんといえばいいのだろうか?


「なあ、カーリヤお前飛べたりしないの?」

「飛べる」

「そりゃそうだよな…魔法だって万能じゃ………え!?飛べるの?まじで!?」

「ごめん、説明が足りなかったみたい、完璧には飛べないよ、魔法使いは羽のある動物から、翼を模倣して飛ぶことはできるんだけど、模倣しているだけだから人間が完璧に飛ぶのは難しい。滑空とかはできるけど。」

「へ~魔法っていうのは確かに、裏でいろいろの制約があるもんだよな…」

「制約をなしに使える魔法はないからね。魔法の強大さと、魔法の制約は比例してるんだ」

「魔法を使うのも簡単じゃないんだな」

「うん。普通だったら魔力を消費して、その対価に見合う魔法を使うものだけど、人間には魔力に限界があるんだ。つまり魔法は有限だよ」

「そうなのか?その辺の理解はさっぱりだな…」

「ギル、あそこを見て」

「ああ、あれが今回の試験官かな」


なんだか試験管にしては、まがまがしい強者のオーラを放ってるな…

あいつらを倒さないと、前へ進めないとか無いよな?

流石にあれと戦ったら。俺なんかワンパンかもしんない…

いや、今日はカーリヤがいる。

この前俺のプライドをずたずたにしたこいつなら、この先の二人にも歯向かえるかもしれない。

いや待てよ…そういえばシェスタが昨日の晩に、S級の冒険者が、見届け人になるって言ってた気がするな…機嫌を損ねると、いきなり切りかかってくるみたいなことは無いよな?


「おい!そこの二人、こっちだ!」


少し近づいてみてみると、ギルド職員の制服を着た、若い男が立っていた。

その隣には、雰囲気的に言えばモンスターに近い、なんだか見覚えのあるやつがいる。

誰だっけな…思い出せん。

あの鎌は、どこか昔見た気がするんだが…

そして、いつの間にかカーリヤは俺の背中から降りている。


「よお!兄ちゃん、久しぶりだな、三年前の時以来だ」


そうか…三年前の時にいた。

デカい鎌を持った、死神みたいなやつだ。

名前は何だったかな。確か…

ハルジオン。そうだ…こいつは、三年前の戦場で暴れまわってたやつだ。

大鎌は魔力を吸収する魔道具。

アイツの鎌には、確か血が一滴もついていなかったのを覚えている。

恐らく、鎌が吸い取ったんだろう。

ケルベロスは、三回殺さなければならなかったが、一番最初に殺したのはコイツの鎌だった。

正直言って、一回殺してからの方が強かった。

召喚魔法を使えるため、服従させた魔物を呼び出し、それからは乱戦になった。

戦う前までは、戦力は十分だと思っていたが。

それは、ただの思い込みだった。


「まあ、とりあえず自己紹介でもしておこう。俺の名前はマルフ・サルフ、 ギルド副長だ。そして、横にいるコイツが、ハルジオン・アルバ―」

「お嬢ちゃんは、まあ、もうすでに合格にしちまってもいいんだが。この兄ちゃんは、な?」


何だとコイツ…どいつもこいつも、カーリヤとか…シェスタと比べやがって。

基本的に魔女と比べられたら、平凡な冒険者。

ただの、しがない剣士に過ぎないんだぞ!


「人がそろったところで、ドラゴンの召喚を始める。本来ドラゴンは夜行性だが、俺が召喚魔法を使って、無理やり呼び出す。二人には順番に戦ってもらおう」


マジか…俺最初に戦いたくないな…

まずは絶対勝てるとお墨付きの、カーリヤから行かせたい。


「とりあえず、俺が召喚の魔法陣を描くから、三人は、適当に辺りを警戒でもしといてくれ、あいつらが夜行性だからと言って、ここが危険な場所であることには変わりないからな。」


俺はその辺の岩場に腰を下ろしている。

カーリヤは魔法陣の方に興味があるらしく、マルフの横でじっと見つめている。

じっと見つめられている方はさぞ気分が悪いに違いない。

そのせいで魔法陣をミスって悪魔でも召喚されたらどうするんだ?

しかも、俺をこの死神の横に置かれては困る。

空気が悪くなる。


「なあ、あんたの仲間、三年前に死んでたよな~」


いつの間にか酒を開けて、岩場の少し上の方から、俺を見下しながらまずい話をしてきた。

俺を見下しながら飲む酒はうまいだろうか?


「そうだ…だからどうしたってんだよ…」

「いいや、三年前の時は、仲間が生き残ってる、お前が羨ましいと思っただけだよ。」


そういえば、こいつの仲間も死んでいたのか…

コイツはS級冒険者だが、仲間はそうじゃなかったらしいな。

強い奴が生き残るは、この世界の理だ。

そのためかはわからないが、S級で同じパーティーのまま冒険する者は少ない。

きっと、冒険をしているうちに一人になってしまうのだろう。

周りの仲間が死んでしまって。


「俺は、昔からよく、本当はいいやつだって言われんだよ。そんなわけないよな、周りの仲間をたくさん見殺しにしてきたんだぜ?俺が強い理由は、この魔道具だ。俺自身が、特別な努力をしたわけでも、優秀な師匠がいたわけでもない。この大鎌のおかげだ。俺はあん時に悩んだんだよ。この鎌を手放せたらどれだけ楽なのかって、な~」

「それでも、お前は冒険を辞めないのか?」

「まあな、俺が辞めたとしても、どうせこの鎌は誰かに使われることになるだろう。レベルの高い魔道具は、破壊することができねぇ。それはダンジョンの奥に隠された財宝と同じ原理で、モンスターなんかじゃ壊せない。長年の魔力の蓄積がそうさせてるんだ。」

「答えになってないんじゃないのか?」

「いいや、今言った、そのまんまだ。俺が使わなくても誰かが使う。それは、俺と同じような運命をたどる奴が、必ず出てくるって意味だ。俺はその運命から逃げちゃいけないと思ったんだよ。まあ、壊すこともできないからしょうがねーな」

「じゃあ、そいつは誰かに託すべきだ。正しい使い方をする奴に。自分より正しく使えるやつに」

「弟子ねぇー」

「まあ、シェスタも、そんな考えがあって弟子をとったかもしんないな。自分の魔法を、伝えるために。まあ、ただの気まぐれかもしれないし。もしかしたら、女神に導かれただけかもしれない。本当のことは、いつも俺は知らないが…」

「それなら嬢ちゃんは正しかったわけか」

「確かにな…」


魔法陣について、いつの間にか、マルフと話し合っている。

あんなふう大人の懐に入り込めるのは、子供の特権だろう。

それにしても、ハルジオンは思ったよりいい奴かもしれない。

この言葉は、ハルジオンに言わされたようで気に食わないが。

結局のところ、彼は俺に、冒険者としての辛さを教えられてしまった。

すでに俺からしたら、そんなのさんざん知っているのに。

彼がそうしたのは、俺がまだまだ弱いからだろう。


「おーい!こっちは準備終わったぞ、どっちからやるんだ!」


「カーリヤ、すまいな。俺が先にやるぜ!」


俺は意気揚々と、魔法陣の前まで駆けて行った。

カーリヤは何も言わなかった。

まあ、順番なんか気にしてたのは俺だけだったのかもしれない。

全く、俺は憶病になっちまったもんだ。

自分でいうのは何だが、三年前とは別人のようだ。

まあ、俺は別にそれでもいい。

ただ、人には勇気を出さなければならない時がある。

その時に、俺は誰よりも勇敢に敵に立ち向かえることだろう。

そう、まさに今のような…


「よし!準備できた。やってくれ」


「行くぞ」


マルフは、魔法陣の淵に手を当てた。

その中からしばらくして、黒い穴が開いた。

中からは、立派な角のようなものが見える。

そして次の瞬間、ドラゴンと目が合った。

その目は狂気に染められており。

ドラゴンの本能からくる凶暴性が垣間見えている。

俺は立ちすくんだ。

これが普通の、ドラゴンと対峙した時の感覚だ。

これに恐怖を覚えない人間はいないだろう。

しかし、恐怖を覚えるなど今更だ。

俺はコイツより強い奴と戦って、生き延びたんだ。


「いける…!俺ならいける‼」


いつの間にかドラゴンが俺を見下している。

俺の約二倍から三倍ほどの大きさだ。

自分より大きな敵には、恐怖を覚える。


「グア゛ア゛アアアァァァ」


大きな声で俺を威嚇した。


「勝手に呼び出してしちまって悪いが、俺はおまえを倒さねぇといけねぇ」


ドラゴンの蹄に注意を払いながら。

ゆっくりと間合いへと近づく。

ドラゴンは長時間飛ぶことができない。

たとえ実力が足りなくとも、耐久戦で何とか耐えればいい。


ブワッ


ドラゴンは、三つの蹄を前へ突き出し、足蹴りを決めようとしてきた。

ドラゴンからしたら、間合いの狭い俺は、カウンターだけが攻撃のチャンスになる。

一撃で決められなかった場合…恐らくそうなるだろうが…その時は、持久戦に持ち込んでじわじわとダメージを与えるしかない。


「オ゛ラ゛ぁ゛あぁ」


ドラゴンが地面へと近づく瞬間、俺はドラゴンの目を狙って、高く飛んだ。

この一撃で、今までないぐらいの最大火力を出す。

力が、剣を伝わっていくのを感じる。

切る瞬間、剣が爆発するイメージで。


バサッ


たったその一瞬。

鈍い音を立てて、ドラゴンの堅いうろこを破り、切り落とした感覚があった。

どうなったんだ?

気が付くと、ドラゴンの頭が斜めに切られている。

一刀両断。

なんだか手の平が、がひりひりする。

この感覚…どうやら俺は本当に切ったらしい。


ドラゴンの不自然に切れた首は、地面にゴトンと音を立てて、落ちた。






面白ければ、グット高評価をよろしくお願いします。

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