第三話 「ギルは魔法使いと戦わない」
私は鳥のさえずりとともに目を覚ました。
私の名前はシェスタ。
魔王を預かっているものだ。
彼女が魔王になるかどうかは、まだわからない。
そんな魔王の卵が、朝起きるといなくなっていた。
どこへ行ったのだろうと寝ぼけている頭で少し考えてみる。
「ああ、今日もカーリヤは朝から魔法の練習か…」
弟子が熱心というのも少し困るところがある。
それは、このままではすぐに私が抜かされてしまうのではないかと思うことだ。
彼女は、あの日からものすごく熱心に魔法をな学んでくれている。
朝から私に声もかけずにどこかへ行ってしまうほどに。
「弟子が優秀だと、正直言って師匠は暇だよ。彼女は一教えるごとに10学ぼうとする。これがどういうことかわかる?ギル?」
私は昔の冒険仲間のギルとともに、飯を食っている。
「まあ、お前が教えることは…減るだろうなぁ……」
「そう!本当にその通り!」
昔も、何かに熱心になるとシェスタは止まらない性格だった。
ギルは昔のことを思い出す。
それは彼女が、魔法の研究に一生懸命になり。
決戦の前だというのに、一か月部屋に閉じこもりっぱなしになった時もこんな感じだった。
俺たちが様子を見に行くと…
「見てくれよギル‼これを使えば魔力に色を付けることができるんだ!私はすごい発明をしてしまったぁぁぁ」
この後、今までの研究の成果をすべて聞く羽目になり、仲間内では引きこもっているシェスタには近づかなという暗黙の了解ができたほどだ。
「しかもあの子は、底なしの魔力を持っている。これだけの魔力があれば奇跡も使えるかもしれないぞ!」
「そうだな…」
正直に言えば俺に魔法はさっぱりわからない。
しかし、シェスタはそれにもお構いなしと、話し続けるのだ。
全く、朝食が夕食になってしまいそうだ…
「師匠…お腹すいた…」
ここで、助け船がやってきた。
カーリヤだ。
俺は最近彼女の修業をこっそり見ているが、彼女の集中力は素晴らしい。
たとえ、口からスライムが出てくる呪いにかかっても彼女は魔法を止めないだろう。
「どうだ?カーリヤ、修行の具合は?」
「ぼちぼち」
自分の師匠の朝食をを勝手に頬張り始めるカーリヤ。
「ところで、S級認定試験には問題なさそうなのか?」
「うーん…それはどうだろうね…。正直言って師匠としては問題ないとはっきり言ってやりたいところあだけど…。彼女はまだ魔物とろくに対峙したことがない」
「つまり、カーリヤには実戦経験が足りないということか?」
「そうだね、いきなり魔物と対峙して実力を十分に発揮できるか不安だ」
「それなら、俺がついて行こうか?」
「いや、正直言ってすでに、カーリヤはギルより強い」
マジか…
この感覚を覚えたのは、人生で二度目だ。
俺が最初にシェスタニアあった時も、実はこんな感じだったのだ。
その当時の俺はA級に上がったばかりで、調子に乗っていたということもあるが…
彼女が魔法を食らった時、本気で戦ったとしても俺は三秒で地面に膝をつくことになっただろ。
「俺も…S級に挑戦したいんだ」
「ギル…S級の試練が何かは知ってるだろ?」
「ああ、知っている。」
S級の試練…それは、最強の生物“ドラゴン”の討伐だ。
ただ倒せばいいわけじゃない、単独撃破が条件。
立会人として、S級冒険者のもとで行われる。
魔法を使えない冒険者の通過率は、驚異の0パーセント。
つまり、今までに前例がないのだ。
「なぁ…シェスタ…俺にできると思うか?魔法の使えない俺でもよぉ…」
「知らないね、挑みたくば、勝手に挑めばいいさ」
これはいわゆる、本音の建て前というやつだ。
シェスタはいつこういった面倒くさい言い回しをよくする。
俺が三年前別れ際には、これよりも面倒く、回りくどいことを言われた。
「なあ、ギル。お前は赤い髪も、魔法も、何も持ってないかもしれいないけど。あの岩場にある、四角い石…私は好きだったな…あれほどきれいに切られたものは見たことなかったよ。私は、もう少しで届くと思ったよ。赤い髪を持った奴にも、魔法が使える野郎にも。またしばらくしたら様子を見てきてやるよ…じゃあな」
俺が、落ち込むのも横目で流して。彼女は別れにふさわしい晴天の笑顔で、俺に希望を残していったのだ。
俺は彼女の意志をはっきりと感じ取れた。
これほど彼女の意志をくみ取れたのはあの時が初めてだったかもしれない。
どうせなら俺は、泣けるセリフを言って欲しかったんだが。
「おい!、カーリヤ。 今から修業に行くぞ‼ 俺のとっておきの場所を教えてやる」
「まだ私、お腹いっぱいになってない」
「じゃあ、私が風呂敷に包ん差し入れをもっていってあげるよ」
三人は、岩場に立っていた。
「カーリヤ!、よく見ておけよ」
「もぐもぐもぐ」
「……まあいいか」
シェスタは何だかんだ、こっちをしっかりと見ていた。
正確には、彼女が見ているのはギルではなく、ギルから出ている魔力だった。
ギルは、魔力が少ないうえに魔力の才能が全くなかった。
しかし、彼の魔力は戦闘時以外には全く出ていないだけで、魔力がないわけではない。
つまりほとんどの魔力を無駄にしていない。
彼がさやから剣を抜くと、魔力が県を伝っていくのが見える。
剣の素人ならば、剣にまとわれた魔力は不安定で、ぶれて見える。
しかし、彼の剣には一切のブレがなかった。
彼は成長を続けていた。
正直、彼は感覚派だからそんなことは考えてはいない。
きっと、どうすればいかに美しく石を着ることができるのかだけを考えていたのだろう。
『南北流星斬』
この刹那、彼の剣の魔力は爆発的に膨張した。
その一撃のすさまじさたるや。
シェスタの想像も超えていた。
彼が狙った石の二つ先まで斬撃が届いている。
これは剣の刀身が、当たって切れたわけではない。
急激な魔力の膨張、そのエネルギーによって切られたものだ。
「さすがだね、ギル。ブラボー」
「見直したよ」
「おい、カーリヤ、お前は何様だ」
「でもきっと、カーリヤも本当にすごいと思ってるはずだよ」
「いや、もしかしたら『あのくらいなら私でも簡単に越せる』と、思って見下してるのかもしれない」
この修行の成果を、シェスタに見せられたのは大きな進歩かもしれない。
心の中でガッツポーズをする。
「じゃあ、カーリヤ、次はお前の番だぞ!」
「分かった」
自信満々に、カーリヤは前へ出てきた。
「カーリヤ、あんまり派手にやりすぎないようにね!」
「うん」
そんなに、派手なものを使う気なのだろうか?
『七番目の神に力を借りる。破壊の衝動をこの世界に顕現せよ。破壊魔法、魔術炸裂』
ドゴドゴドゴ‼
ドドドドドド!、バーー---ン‼
ガラガラガラ…
岩場が炸裂した。
俺がこの岩場に残してきた修行の証も跡形もなく…
「ああ、魔法ってスゲーや…」
今後、魔法使いと戦うことがあったら俺は一目散に逃げよう。
絶対勝てないからな。
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