第一話 「かつての冒険」
朝、私が目を覚ますと、カーリヤはまだ眠っていた。
彼女の顔を見る。
彼女の顔には、魔王の魔の字もついていないような小奇麗な顔をしていた。
私はカーリヤを連れて冒険者組合へ行こうと思っている。
私が冒険者と名乗らずに冒険家と名乗るのには、ちょっとした訳がある。
それは、冒険者時代の苦い思い出。
私が父と離れて間もないころ。
私は冒険者組合に登録しようと冒険者支部へと足を運んだ。
その頃は赤い髪がどういった意味を持つのか全く知りもしない頃だった。
「何の御用でしょうか?」
登録をしようと、窓口の人に話しかけた。
不思議なことに警戒されているようだ。
目に目立って警戒しているわけはないのだが、なんとなくそんな気がした。
そして周りの冒険者は話声を少し落としている。
「冒険者として登録がしたいんですが…」
「――分かりました…少々お待ちください」
周りの冒険者の声が聞こえてくる。
「赤い髪の魔女だ。どうしてこんなところに…」
「あんなに幼いのに、俺らはきっと手も足も出ないぜ…」
私のことを言っているのは分かったけれど、何のことかはさっぱりわからなかった。
「お待たせしました、こちらが“S級冒険者”のカードです」
「………」
『S級』それは冒険者にとっての最高の位。
真の強さを持つ者だけが持つことを許される、英雄の証。
なぜ私にこのカードが渡されたのだろうか?
しかし、私には薄々わかり始めていた。
カードの色は赤色で、この赤色が何を現しているのか…
周りの冒険者が話している。
赤髪の魔女と、同程度の強さを表すのがこのカードだと…
私はだんだん居心地が悪くなってきたので、早くこの場から離れたいという焦燥感を感じていた。
赤いカードを手に取って、お礼を言いその場から立ち去ろうとした時だった。
一人の冒険者が私に話しかけてきた。
「ちょっと待て!ギル‼お前!あの子に話しかけるつもりか‼、赤髪の魔女は睨んだだけで人を粉々にしちまうんだぞ!」
ここ一番の大きな声が聞こえる。
そして、ずかずかと一人の男が私の前へ歩いてきた。
「こんにちわ!俺はA級冒険者のギルだ‼。あんたS級だろ、クエストを手伝ってくれないか?」
仲間の静止を振り払って、ギルという少し小柄で剣を肩にかけた冒険者が話しかけてきた。
彼の背後には二人の仲間がいた、一人は女性で、さっきから一度も話しているのを聞いていない。
もう一人は、ギルを止めようとしていた高身長のひょろっとした男、武器は見えないが恐らく短剣か何かを持っているのだろう…
「登録したばかりだけどそれでもいいなら…」
そう答えた…
正直に言うと金に困っていたので、仕事なら拒む気はなかった。
「このでかい奴がテルスで、そこの女がマリン。君の名前は?」
「私の名前はシェスタ」
「シェスタ…、いい名前だ。可憐な魔法使いを連想させるよ」
彼のスピード感のある会話に飲まれていった。
不思議とこの男には不信感を抱くことができない。
後ろの仲間については、むしろ怪しいオーラをまとっている。きっと彼がうまい具合に彼が相殺しているのだろう。
「早速で悪いが、魔法を見せてくれないか?」
彼は、キラキラした目でそう言った。
私は普段人前で魔法を使ったことがなかったので、少し難しい顔をしてみたが、彼の曇りなき眼には通用しないようだ。
ギルはこの町に始めてくる私に対して、普段彼らが生活の拠点としているこの町を私に見せてくれた。
ギルは相変わらず楽しそうにしていて、
テルスは図体がでかいくせに、どこかおどおどしている。
マリンは何も言わなかった。
歩いていくうちに岩場に着いた。
辺りには草が生えておらず、足元もごつごつしていた。
ここでなら魔法をどれだけ派手に使おうとも、近所迷惑にならないということだろう。
私は、母の形見でもあるステッキ状の杖を取り出した。
本当だったら母から正式に受け継ぐべきだったのだが、私が母の戸棚から勝手に持ってきてしまった。
「どんな魔法が得意なの?」
ここでマリンが初めて口をきいた。
見た目からして、彼女は魔法使いなのだろうか?
「私が得意なのは、雷の魔法ですかね」
「食らったらいきなり死んだりしないよな?」
私の前に立って魔法を食らおうとしている馬鹿で勇敢なギルを心配したのか、テルスが声を上げた。
「まあ普段なら、人に当てたりはしないんですけど…」
「俺のことはかまわなくていいから、早く俺に魔法を当ててみてくれ!」
両手を広げて、待ち構えているギル
「本当に大丈夫ですか?」
「問題ない‼」
どうやら謎に自信があるようだ。
睨まれただけで人が殺せると噂の私に近づいてくるのは、コイツしかいないだろう。
「動かないでくださいね。本当に」
「分かった!来い‼」
私は、両手に杖を構えて集中した。
あまりダメージを与えてしまうと、後遺症が残ってしまうかもしれないので、できる限り手加減をして…
「エレス‼」
ギルは、何も動かなかった。
どうやらうまくいったようだ。
「どうしたんだ?ギル」
テルスが、静かに声を出した。
少しの間沈黙が流れる。
ドスン
ギルが膝をついた。
そして、訳が分からないという顔をしながら口を開いた。
「何をされたんだ…、今?」
そう聞かれて私はすぐに説明を入れた。
「体が動かなかったでしょう?あれは、私が電気を使てマヒさせたんです」
マリンはにやにやしている。
その横でテルスはポカーンとしていた。
ギルはすぐに立ち上がると、私の目を見てこう言った。
「凄いよ、シェスタ‼俺はあんなこんな魔法食らったことがないぜ!」
まるで魔法を食らいなれているかのようなセリフだ。
「そんなことないですよ」
私は他人に魔法をほめられることがなかったので、少し恥ずかしくなっている。
「さすがは天性の才、赤髪の魔法使いね」
マリンはおっとりした声で、感心するように私を褒めた。
「“あれ”を使わずにむしろ高度な魔法を使うとは思ってなかったわ」
「……」
私は少し表情を崩してしまったが、すぐに持ち直した。
「これなら、戦力として問題ないぜ!」
ギルは私に握手を求めてきた、私は流れに沿って自然と握手をした。
これが、冒険者ギルとの出会いの一幕。
そんな思いで深い場所に、数年ぶりに私は来ることになる。
「この子、冒険者登録したいんだけど」
カーリヤを連れて私は冒険者受付へ来ていた。
「最初はFからですが…、S級の冒険者様の弟子ということなら、特別にC級まで上げましょう」
C級はおおよそ、冒険者の平均的な強さがあれば上がることができる。
「ありがとうございます」
私が今から宿を探すためにいったんギルドから出ようとすると、そこに男が話しかけてきた。
「久しぶりだな、シェスタ」
初めて会った時とはちがい、一人で佇んでいたのはかつての冒険者仲間、ギルだった。
「まだこの町にいたんだね、三年ぶりかな」
「もうそんなに経ったのか、道理でお前はでかくなったわけだ…もう俺と同じ背丈になったように見える」
「あのクエスト以来、だいぶ時間がたったからね」
「昔話もいいが、そこの女の子について俺に説明をしてくれないか?」
「ああ、この子は私の弟子のカーリヤだよ。最近弟子をとってね」
「こんにちわ、カーリヤ」
まじまじとギルを観察していたカーリヤは少し戸惑った後、そっと口を開いた。
「こんにちわ」
カーリヤは少し怪しげに返事を返した。
「君はシェスタと初めて会った時と同じ位の背丈をしているから、昔のことを思い出すなぁ…」
「私はこんなに小さかったかな?」
ギルはオジサン臭いことを言うようになったらしい。
「俺がおごるから、少し話さないか?」
「そうだね、最近のこの町について教えてよ」
そう言って、三人で椅子に腰を掛けた。
今は昼間なので冒険者達はクエストを受け、建物の中は閑散としていた。
「三年間シェスタはいったいどんな冒険をしてきたんだ?」
「私はずっと女神に導かれて旅をしていたよ」
カーリヤは興味なさそうに、天井の隅を見つめながらジュースを飲んでいる。
「君が弟子をとったのも、女神に導かれてか?」
「まあね」
「君が女神を信仰しているのは知っているが、君はいったい何が目的なんだ?昔から目的の見えない所が君にはあった」
「それは、確かにそうだね」
「…」
「ところで、最近この辺でうまいクエストは無いのかな?」
「それならちょうどいいものがあるんだ。例えば三年前に討伐した、ケルベロスの卵が見つかったこととかね」
「……‼」
この町に百年に一度あるかどうかのS級難易度のクエスト。
あの時ギルは、そのクエストに挑むためにS級冒険者を探していた。
悪魔属に分類されるケルベロス。
悪魔属は死んだとしても、世界のどこかに転生して蘇る。
世界のどこかに出現するかわからない悪魔の卵。
そんな危険なものがこの町の近くに…
「こんなことが三年以内に、起こるはずない…」
「そうだ、明らかにおかしい…悪魔の転生の周期は、一度死んでから百年は経たなければ、転生することができないはずだ。この町の近くで何か異変が起こっているのかもしれない」
カーリヤの魔力を感知して悪魔属の活動が活発になっている?
「その卵は、あとどのぐらいで生まれるんだ?」
「最近になって急激に成長が早まってきている…。おそらくもって一か月だろう」
「あんまり時間がないみたいだね。三年前は生まれてくるまで一年はかかったていうのに…」
「そのおかげで、近々この町に冒険者が集まって来ている」
「ところで、ギル、お前は戦うつもりなのか?」
「もちろんだ…」
「やめてくれギル、お前まで死に急ぐ必要はない。お前だけは運がよかったのだから…」
あれはとても過酷な戦いだった。
約千人の冒険者が戦い、十人が生き残る。
生き残ったのは皆S級の冒険者。
A級の冒険者で生き残ったのは、ギルだけだ。
「お願いがあるんだ、昔の冒険者仲間のよしみで一緒に戦ってくれないか?」
「ああ、私はお前を死なせるつもりはないからな…」
まさか二度も悪魔と戦う羽目になるとは思っていなかったけれど、わたしはあの時とは違う。
今の私なら…無念も晴らすことができるはずだ…
「ところで、今この町には何人のS級の冒険者が集まってるんだ?」
「六人だ」
「それなら…そこに私と、カーリヤを足して八人だ」
「悪魔討伐にはA級以上じゃかクエストに参加できないんだ。その子はC級だろ?一か月でそこまで上げることは不可能だ」
「不可能なはずないさ、なんせこの子は、私“シェスタ”の一番弟子なのだから‼」
カーリヤは、ジュースを飲み終わり、ストローで水滴に息を吹きかけて遊んでいる。
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