お兄とわたし
地の文無しで何かを書いてみたくて書いてみました。
お読み頂けたら嬉しいです。
「お兄ぃー、わたしの携帯しらん?」
「いや? 知らんで? 無くしたんか?」
「うーん、そうかも」
「そうかもって……お前なぁ……」
「何よ? なんか文句あんの?」
「そもそもなぁ、お前今週だけでも7回無くしてるんやで? 一週間は何日あるか知ってるか?」
「うっさいなぁー、ほっといてよ!」
「うっさくないわ! ほっとけってゆーけど、お前から先に話かけてきたんやろ?」
「あっ! ホンマや! ごめんな!」
「お前……悪いと思てないやろ?」
「バレた?」
「バレとるわ、アホ」
「アホって何よー! アホってゆー方がアホなんですぅ!」
「ハイハイ、分かったから……ほんで? 携帯探すんやろ?」
「そうやん! それ! 忘れてたわー! さっすがお兄やな!」
「ま、まぁ……それほどでも……あるで?」
「調子のったー、きもー」
「誰がキモいねん、誰が!」
「お兄!」
「はぁ……、とりあえず鳴らしてみよか?」
「うん、頼むー」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「繋がらへんな……」
「うそーん? 充電MAXの筈やで?」
「いや、だって繋がらへんで?」
「お兄の携帯が壊れてんちゃうん?」
「んな訳あるかいな!」
「あー、わたし喉渇いてしもたわー」
「お前、今携帯探してるんやで?」
「お兄、ジュース買ってきてよ?」
「携帯見つかったらな」
「お兄、ジュース買ってきてよ?」
「いや、だから――」
「お兄、ジュース買ってきてよ?」
「あのさ――――」
「お兄、ジュース買ってきてよ?」
「……」
「お兄、ジュース買ってきてよ?」
「あぁー! わかった! 買ってくるから静かにしてくれ!」
「さーっすがお兄! 大好き!」
「お……おう……」
「いつものやつなー」
「えーっと? マスカットとアロエのなんちゃらかんちゃらやな?」
「そそ、それそれ」
「ん」
「なに?」
「ん!」
「だから何よ?」
「お金」
「はぁ!?」
「はぁ!? ってなんやねん! 買いに行ったるんやから金くらい出せよ!」
「ぐすん……お兄がそんなに器の小さい男とは思いませんでした……ぐすん……」
「ちいさないっ! 断じてちいさないっ! あと、ぐすんて口でゆーな!」
「可愛い妹が喉を枯らして死にそうになっているのに、お兄はその死にそうな妹からお金を巻き上――――」
「わかったわかった! もうええ! 行ってくる!」
「気をつけてねー」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ただいまぁ」
「おかえりー、どこ行ってたん?」
「どこ行ってたも何も、お前のジュース買いにいっとったんやがな!」
「あはは、そうやった? ごめんごめん!」
「ホンマしっかりしてくれよ……」
「こんなしっかりした妹を捕まえといて何を言う早見優」
「しょーもないねん、古いし……」
「そう? そんな事よりあったん?」
「おう、あったでー。コレやろ?」
「そうそう、コレ――ってお兄! コレとちゃう!」
「えっ!? マジ!? せやけど、ちゃんとマスカットとアロエって書いてあんで?」
「お兄……書いてあったらええと思ってる?」
「失敬な! 少しだけ思ってる……」
「まっ、いいや! コレで我慢しといたるわ!」
「はぁ!? せっかく俺の小遣いで買ってきたやつを我慢しといたるやと?」
「うまうまー」
「おい! 返せ!」
「やー!」
「いいから返せよ!」
「お兄、間接キスなるで?」
「ふざけんな、いつもお前が食べられへんやつ押し付けてくるやんけ! 何を今さら!」
「液体と個体は違うんですー!」
「意味わからんわ!」
「そういえばさー」
「なんやねん、急に……」
「携帯……あったわ」
「どこにやねん?」
「トイレットペーパーのカタカタいう屋根みたいな所の上に乗っかってた」
「なんで繋がらへんかったんや?」
「しらん」
「しらんって……お前……」
「まーた怖い顔してー、男前が台無しやで!」
「お前のせいということ、わかってるか?」
「わからんー」
「はぁ、もうええわ寝てくる」
「ほいほいー、おやすみー」
「くそっ、ただジュース買いに行っただけやないか……」
「あっ……お兄……」
「なんやねん」
「ありがとうな……ほんでいつもごめんな……」
「かまへん、明日もまた――――」
「ん? 何?」
「いや……なんでもない! おやすみ!」
「うん、おやすみ!」
「あんまり夜更かしすんなよ?」
「わかってるー」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「私、誰なんだろう?」
「お前は俺の妹や!」
「あなたは誰?」
「俺はお前のお兄ちゃんや!」
「お兄ちゃん?」
「せや! お前のお兄ちゃんや!」
「そっか……ごめんなさい」
「なんで謝るんや……」
「思い出せないんです」
「何アホなことゆーてるねん!」
「ごめんなさい」
「敬語なんか使わんといてくれ!」
「ごめんなさい」
「そんなん聞きたないねん!」
「でも……」
「でももヘチマもない! ごめんなさいよりも、またありがとうって言ってくれ! またお兄って呼んでくれよ!」
「ごめんなさい……」
「あかん、ラチがあかんわ……ついて来い」
「えっ、でも……」
「ええからついて来い!」
「そこ、トイレですよ?」
「ここ、見覚え無いか?」
「トイレットペーパー?」
「ちゃう、この屋根みたいな所や!」
「屋根……ですか?」
「ここにな? 昨日お前が携帯を置いたの忘れて大騒ぎしたんや。何か思い出さへんか?」
「ごめんなさい……」
「次や!」
「えっ……あのどこに?」
「玄関や!」
「玄関?」
「ここや! この下駄箱の上にある置物の上に置いて、よー後ろに滑り落として取ってくれー!って騒いだん覚えてないか?」
「ごめんなさい……」
「ほな次や」
「えっ? まだあるんですか?」
「次は二階やな」
「ここは……」
「俺の部屋や」
「そうなんですか?」
「せや」
「ここで何をするんですか?」
「ええか? 俺が入って来いゆーたら入って来い」
「え?」
「俺が声をかけたら入って来い」
「は、はい!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ええぞ、入って来い」
「お邪魔しまーす……」
「どや? なんか思い出さんか?」
「え……っと…………何をされてるので?」
「お前はな、俺が筋トレしてる時によー邪魔しに来よったんや」
「は、はぁ……」
「これもアカンか……」
「ごめんなさい……」
「外、行こか」
「えっ? 外ですか?」
「そうや」
「で、でも……着替えとか――――」
「かまへん! どーせいつもそのジャージでプラプラしとったんや! 今さらやわ!」
「ちょ、ちょっと……痛いです」
「お、おう……すまん、強ぉ引っ張りすぎたわ……」
「いえ……私のせいですので……」
「ホンマ……堪えるわ……」
「え? 今、なんと?」
「なんでもない、いくぞ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あのー、ここは?」
「お前と昔によく遊んだ公園や」
「へぇ……」
「あのジャングルジム覚えてるか? あのテッペンからお前が落ちた時、俺はオトンとオカンに物凄い怒られてな……あの時からやな、お前の記憶が定着せんようなったんは……」
「そうなんですか……」
「まぁ、今のお前にゆーても分からんわな……」
「ごめんなさい……」
「ええ、かまへん。次行こか」
「あの……もう無駄かと……」
「はぁ?」
「いや……だから……その……記憶を失っているので、これ以上やっても……」
「無駄やと? ふざけんなよ! なんで諦めるねん! お前は記憶が無くてもええっちゅーんか?」
「いや……そういうわけでは……」
「ほなどうゆー訳やねん! あのな? 俺はお前に記憶を取り戻して欲しいねん! それを無駄ってなんやねん!」
「ごめんなさい……」
「もうええねんって、ごめんなさいごめんなさいって馬鹿の一つ覚えみたいに……勘弁して欲しいのはこっちや……」
「ごめんなさい……」
「はぁ……疲れた……帰るか……」
「はい……――――っ! 危ないっ!」
「ほえっ?」
「お兄っ!」
「おま――――――――」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お兄…………お兄…………」
「返事してよ……」
「わたし、帰って来たのに……」
「なんでなん? どうしてなん?」
「なんで神様はわたし達兄妹にこんな事するん?」
「返してよ! わたしのお兄を返して!」
「うぅ…………」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お兄……わたし、お嫁さんになるんやで?」
「あれからお兄の事、忘れないように付箋を貼ったり、ノートに書くようにしてん……」
「わたしの事、大事にしてくれる人も出来たんよ?」
「その人の事も何回か忘れてしもたんやけど、ノート取ってるからすぐ思いだせるようになったんやで?」
「全部、全部、ぜーーーんぶ! お兄のおかげ!」
「お兄……ありがとうな!」
書き始めたら感情が入ってしまって、枕元がどえらい事になりました(笑)最後までお読み頂きありがとうございました。