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気が付いてしまった

作者: しなふ

この先、どうすればいいのか。

苦しいほどの虚しさの中、考える。

気が付いてしまったから。


彼とは恋愛結婚だった。

初恋ではないが、初めてお付き合いした大好きな彼。

結婚して20年。今でも変わらず愛している。

彼もそうだと思っていた。私と同じ様に。

でも違ったようだ。気が付いてしまった。

彼は、私をもう愛してくれてはいない。


それは本当に偶然だった。

入院した叔母のお見舞いに行った帰り、慣れない路線のため間違えて乗ってしまった電車からあわてて次の駅で降りた。そして、見つけてしまった。向かいのホームに彼を。

目に入った大勢の人達の端に、彼がいることに気が付いてしまった。

知らない女性と並んで、親しそうに話し込んで。

来た電車に乗っていってしまった。

私に気が付かないまま。


私はその場で動けなくなった。


彼はあの頃の眼差しで女性をみていた。

懐かしいあの眼差しで。

私があの眼差しを最後に受けたのはいつだっただろうか。

思い出せない。あんなにも懐かしいのに。


二人はそう、何でもないのだろう。

彼は節度をわきまえるひとだから。

同僚、知人。

その枠なのだろう。

でも、気持ちはあるのだろう。

少なくとも私によりも。


そういえば、いつからだろうか。

「好き」という言葉に「好きだよ」と返さず微笑むだけになったのは。

抱きついても抱きしめずにポンポンと返すようになったのは。

二人だけで出かけようと言わなくなったのは。

いつからだっただろうか。


ああ、そうか。

もうとっくにそうだったんだ。


長く一緒にいたのだ。

彼からの情がなくなったとは思わない。

でもそれは、私の愛とは違うものなのだ。

気が付いてしまった。

なぜ、愛すれば愛されると思っていたのか。

バカだな。どんな乙女だ。


どうにか足を動かして、近くのトイレに入った。

涙が出てくる。嗚咽は必死に抑えた。


この先、どうすればいいのか。

苦しいほどの虚しさの中、考える。


彼は不義理はしない。

この先もしないだろう。

そういうひとだ。

ただ、私と同じ愛は返さない。

それだけ。そう、それだけだ。


さあ帰ろう。

そして。

いつものように家事をして。

いつものように子供たちの話しを聞いて。

いつものように彼を迎える。

お帰りなさいといつものように。


でも。

もう彼に

「好き」とは言わない。

「好きだよ」と返さない微笑みの意味に気が付いたから。

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