四天王最弱の就活
「お待ち申しておりました、陛下」
【うむ、長らく待たせた】
ふにふにと笑う赤子の前で跪く。
この赤子はただの赤子ではない。長く…大変長く待ちに待った、待望のお方。
我が唯一の主の転生されたお姿だ。
【しかし我の迎えがそなただけとはな。宰相や将軍は如何した?】
「恐れながら……陛下がご崩御されたことによる業務過多にあの御老体の方々は耐えきれず…陛下の後を追うように儚くなられました」
【なんと…あやつらが…妃はどうした】
「妃殿下も陛下の後を追いかける、と…」
【なんと!エリーゼ…余を追いかけてくれたのか…それは探し出してやらねばな】
「はい」
今は微かなものしか感じられないが赤子から感じられるのは紛れもない魔王覇気。
我が主君、魔王レイジュルド様だ。
【…………】
「…………」
【……む。しかし魔王も宰相も王妃も将軍も居なくなった魔王国はよく無事であったな】
「え、何を仰るんですか、無事なわけないじゃないですか」
【ぬ…?】
陛下が動揺されたのか、ふえふえと赤子体がぐずり出す。あやそうか迷うが、あやすことも無礼に当たるだろうと留まる。
「四天王最弱、最年少の私に国をどうこうできるわけないじゃないですか。何も出来ずにあっさりデーモンが国を乗っ取って終わりですよ」
【おま、おまえ!!】
「なのでずっとずっと待ってました!陛下、私を雇ってください!!」
【余は零歳児だぞ!お前、余を助けに来た訳ではなく、助けられに来たのか!?】
「当たり前じゃないですかー、私みたいな雑魚じゃ陛下を助けるなんて無理無理。何言ってらっしゃるんですかもうー」
転生した陛下の元に一目散に駆けつけたのに怒られた。解せぬ。
だいたい私は四天王の中でも最弱。
太陽浴びたら弱体化するし魔力はそこそこ多いけど魔法使いすぎたら貧血起こすし腕力も無い!
頭良すぎて魔法もヤバい宰相や
戦闘力高すぎてヤバい将軍や
陛下大好きで男も女も魅了する妃殿下とは違うのだよ。
食屍鬼や腐肉鬼を大量に操れて数の暴力担当だから高度な魔法も武力も魅力もついでに頭脳も無い。
そんな私が一人残されても、国を収められるわけがないってもんだよね、うん。
部下にいたら便利だけど頂点は無理。それが私の評価だ。
だから我が主君の元にはべりに来たのに。
【とりあえず気合いでこの家の使用人になれ】
「え、縁故採用はないんですか?」
【採用に口出ししようにもまだ喋れぬからな】
陛下使えねーーーー!
そんな思いは不敬なので口には出さないけど、内心では舌打ちをした。
とりあえず、陛下の助力は期待できないので目一杯自分の魅力をあげる。
妃殿下ほどぶっ飛んだ魅了もちではないけど、一応吸血姫だから顔は良い。若いし、一般の人間程度であれば魅了も出来るので、気合いを入れて陛下が住む御屋敷に就職活動をしに来たのだけれど……。
「なんだ貴様は、その容姿で本当に平民か」
「は、はい…」
「子供を産んだ経験も無いのに乳母希望か」
ハッと履歴書片手に鼻で笑われる。
やばい、陛下の父君……めっちゃ美味しそう…!
偉そうで威圧的で見下してくれるとか何そのご褒美。うっとりと見上げると父君は……男臭い、色気漂う笑みを浮かべた。
ずっきゅーん!!
「乳母としては雇わん。だが、紹介してやるからこの家の養女になれ」
「え、養女ですか?」
「ああ。妻は息子を産んだ時に死んだからな。乳母よりも新しい母親が必要だろう?」
え、私全力で立候補したいんですけど!!!
かくして、四天王最弱の無職だった私は
陛下の義理の母親に永久就職を果たした。
【お前何をやっているんだ!】
「陛下のお傍にいる為ですよう。あ、陛下……弟と妹どっちがいいですか?」
【Kfkfoajwnr?!】
おぎゃあおぎゃあと泣き出した陛下を抱き上げて、ヨシヨシとあやす。
四天王改め
吸血姫改め
ドSダーリンのお嫁さん。
これからは育児も奉仕も頑張ります!!
続かないよ!!
ぱぱん
高い身分の当主様。政略結婚で娶った嫁とは愛のない関係だったけれど自分に好意を寄せる美女が面白くて気に入って、相手の意思なんて無視して手元に置いた。が、それを喜ぶような嗜好の女性だったため見事なフィーリングで結婚をした。
主人公
吸血鬼で四天王で吸血姫。
極上の才能の人達に囲まれていたせいで自分を大したことないと思ってるけど、ちゃんと美人だし魔力も頭脳もそこそこすごい子。だが、支配されたい欲求が強い子なため誰かの下でしか輝けない子。
アホな子だけれどぱぱんと出会って真性のドMに開眼しつつある。
好物はパパンに笑顔で見下されること。
赤ん坊(元魔王)
アホすぎる部下が義母になってだいぶ複雑。
そのうち赤ん坊四人で(宰相、将軍、嫁、魔王)ばぶばぶと同窓会を開いてるかもしれない