メコンの夕陽
メコン河の畔で髪を洗う娘。
はだけた胸の小さなふくらみは世界を知らない。
草陰で見つめる少年は胸が高鳴り、ノンラーで顔を隠す。
静かな田園に春が来る、鳥がさえずり水牛が鳴いている。
あの日の輝きは汚されてしまった。
爆炎が火の粉を運ぶ、悪意に侵される大地。
空から黒い悪魔が降りてきて、全てを奪ってゆく。
リアルが赤い汗を流す、鉛の弾に守られて。
理解は要らない、この衝動があれば。
私が死んでも志は消えない、草木が蘇るように土に帰ったとしても。
花の名前は知らない、美しいと思う心は知っている。
同胞が私の髪を結いながら笑いかける。
波に流される流木、燃やされる紙切れ。
細胞が生まれ変わるように、今見る夕陽はあの日とは違う。
青い目のお客さんの舞台に小道具を買い集める。
演武は憎しみの剣、唇に火薬の粉。
夜の空が光る、野鳥が飛んで行く。
メコン河に死体が流れてゆく、美しい思い出の河に。
神が絶望を授けるなら喜んで受け入れる、心は炎に焼き尽くされるから。
疲弊した愛は再装填できない、愛は補充されない。
初めてはあの人の死装束への口づけ。
私は地獄に生きる、解放の時を待ちわびて。
ベトコン少女