お箸とお弁当袋
彼の朝は早い。
まず起きてすぐにやる事は、メガネを掛けてカーテンを開け、家の目の前にあるゴミ置き場をチェックすることである。
収集日ならばその散乱具合と動物が荒らした痕跡の確認を、
それ以外の日は、不法投棄に来る輩に目を光らせる。
最近は、監視カメラが設置された事により、被害が大幅に激減した。
彼は、花園地区3丁目9班の班長として、誇りに思っている。
「ふぅ、、、
今日も異常無し、と」
身支度を整えると、エプロンを付け、朝食とお弁当を作り始める。
納豆、雑穀米、卵焼き(甘め)、雑穀米、味噌汁、雑穀米、焼き鮭、雑穀米、漬け物、雑穀米、の順に口にはこび、完食すると、デザートにヨーグルトを食べる。
これが彼の毎朝のルーティンだ。
「さて、と
そろそろ時間だ。」
黒い学生服に身を包み、学生カバンを持って家の点検を終え、彼はようやく登校する。
「いってきます。」
静まりかえった家に彼の凛とした声がこだまする。
そう、彼は
田中一郎
16歳高校一年生
花園地区3丁目9班の
班長である、、、!
シルバーの自転車で登校する際も、地区のチェックを怠らない。
不審な車両や人物はいないか、犬の糞の放置がないか、小学生の通学路の旗当番は稼働しているか。
「、、、!!
あれは、、、!」
おもむろに自転車を止めて、走り出した
「待ちなさい!」
「な、何ですか、あなたは。」
「私は、班長です。」
「え、は、ハンチョウ、、、?」
「花園地区3丁目9班の班長を務めています。」
「は、はあ、、、。」
「あなたは、今、ウンチ袋も持たずに、犬の散歩をされていらっしゃるようですが、あなたの愛犬が催したくなった時、どうされるおつもりでしょうか?」
「え、あ、、、。」
巻き巻き巻き毛の茶色い犬を連れた初老の男は言葉に詰まり、しどろもどろと言い訳をし始めた。
「今日は、うっかり持って来るのを忘れてしまって、、、
いつもはちゃんと忘れずに持って来てるんだけど、、、。」
「承知しました。
では、私のお箸とお弁当袋をお貸ししましょう。」
そういうと、学生カバンから取り出したお箸とお弁当袋を、犬連れのおっさんに差し出した
「お箸で掴んで、お弁当袋に包んで持って帰るといいですよ。」
「、、、え、、、。」
呆然とする初老の男を尻目に、田中一郎は爽やかな笑みを浮かべてこう言った。
「いやいや、お礼はいりませんよ。
できれば、洗って返していただけるとありがたいですが。」
「、、、えっ、、、」
「私は毎朝同じ時間にこの道を通りますので。
あ!
もうこんな時間だ。
では、またの機会に。」
そう言うと、彼はシルバーの自転車にまたがり、颯爽と去っていった。
後には、お箸とお弁当袋を握りしめ、途方に暮れる初老の男と、隣で脱糞を始めた茶色の巻き毛の犬が残されたのであった、、、。
田中さんは、コンビニで割り箸を貰いました。